彼女たちのコズミック・イラ Phase19:純潔を散らす女神

グルヴェイグの轟沈シーン。アウラが最期を迎える回となります。

実際に熱くてぶっといモノにぶち抜かれており、名前の由来であるグルヴェイグを調べると中々にエッッッな話がありますからね。

次回からが本格的な第二部のスタートとなります。


C.E.75:月軌道上

大破した艦橋は爆炎に包まれ、既にアウラ以外のクルーは全て死に絶えていた。未だ自らに意思があることを恨めしく思いながらも、彼女は自身が搭乗するファウンデーション王国軍旗艦グルヴェイグを艦首で貫いた敵艦、ミレニアムを肉眼で見つめていた。

「はぁ……はぁ……さすが、あの子の娘が信じた連中ね。こんな経験、初めてだわ。」

ファウンデーションからラクス・クラインを取り戻した彼ら、コンパスはアウラたちを完膚なきまでに打ちのめしていた。女王として君臨した幼い姿のアウラにとっては久方ぶりの挫折であり、人生で最初の最後の敗北ともいえた。

「でも……まだ、わたしは……まだ……!」

レクイエム発射までのカウントを見つめ、形勢の逆転に期待するアウラ。オーブを焼き払い、自らの息子であるオルフェが生き残りさえすれば、彼女の計画は継続出来ると確信していた。

自らの死に恐れはなかった。むしろ、これまで死を迎えることが出来なかった自身に、死を与えてくれる彼らには感謝すらもしていた。

「ああ……この感覚、本当に……久しぶり……」

痛くて、熱くて、苦しい感覚。しかしそれらは全て一瞬のものであった。次の瞬間、彼女の身体はミレニアムから放たれた無数の砲撃によって跡形も残らずに消滅する。艦橋が爆炎に沈む中で、漆黒の宇宙で意識だけとなった彼女は思いを馳せる。

「(ねぇ、わたし……本当にこれでよかったのよね)」

問いかける声も、答える声もなかった。グルヴェイグが轟沈する音だけが響き渡る中、アウラの意識は『彼女』へと向かう。

この戦いの勝者はアウラでもコンパスでもなく、クライン博士であった。例え自らの死後にオルフェがコンパスを打ち倒そうとも、オーブを焼き払うことが出来ても。あるいはオルフェが討たれ、コンパスとオーブが無事であったとしても。

「(私はあなたの言うことだったら、なんでも聞いちゃうんだから)」

アウラは最期までクライン博士を愛していた。例え想いを伝えることが出来なくても、自らの手が夥しい血で汚れようとも。そして、自らの命が尽き果てた時でさえも。

彼女の娘であるラクスに、アウラは全てを奪われていく。計画も、子供たちも、自らの命も。しかしそれすらもアウラにとっては博士を感じることが出来る幸福であった。

「(でもやっぱり、あなたにはもう会えそうにないわ)」

自らの魂が二度と彼女と会えないことが、アウラにとって唯一の後悔となる。しかし、そうした所業へと至ったのは、全て彼女が自らの意思で選んだ『自由』でもあった。

「(本当に……自由なんて大っ嫌い。あなたもそう思うでしょ、ギル)」

クライン博士とはまた別に、アウラが終生思い続けた一人の男。デスティニープランと称した計画を、歪ながらも世に出そうとした人生のパートナー。共にクライン博士に対しては恋心を抱き、自身よりも先に愛と自由を抱きながら命を散らした男。

「(あなたには、ちゃんと謝ることが出来そうね。今度はしっかり……あなたの顔を見ながら……ね)」

次第にそうした意識もまた、漆黒の宇宙へと広がり薄れていく。愛すべき者たちへの思いと共に、運命を司り自由を穿とうとした女王は、その命を散らしたのであった。

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