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Peace Park VR Tour に参加してきた話

 たびまちゲート広島、Peace Culture Village(PCV)協賛のPeace Park VR Tourに参加してきました。

○ツアーについて

 HPを見る限り、2022年4月から始まったのでしょうかね?どちらにせよ去年は無かったように思います。
 平和公園内では有料・無料、様々な団体が行う碑巡り案内が行われていますが、このツアーはVR映像を用いながらガイドさんの説明を伺えるものです。VRメインなのかな?と思っていましたが、碑巡り案内with VRと言った感じ。

 今年の4月に帰省し平和公園を訪れた際に知り、強い関心を抱いたものの、コンタクトを忘れ断念。(VR装着は眼鏡だと厳しいですからね)念願の参加です。

 このツアー、VRを用いるという点も特殊ではありますが、参加者同士の意見交換を大切にするという点でも特殊性がありました。ツアー後にお互いが感じた事をシェアする場が設けられたりと、話を聞くだけで完結させてほしくないという意図が伺えます。

 VRを用いての被曝体験継承にはかねてより強い関心を抱いていました。それは、近年の継承活動において大きなテーマとなっている(とみられる)「追体験」を実現するにあたり非常に有力な手段であるとの認識があったからです。個人的にも沖縄でガマに伺った体験を踏まえ、ヒロシマの継承において「追体験」は実現し辛いネックな課題だと思っていたため非常に関心のあるテーマでした。(そもそもなぜ「追体験」が必要なのかという議論はここでは置いておきましょう。数年が経ち私自身もその問いを巡り疑念を抱くようになりましたが、ここでは近年の継承活動において「追体験」が求められているという認識までで留めておいて下さい)

 VR映像は広島の企業、株式会社フジタがCSR(企業の社会貢献のための取り組み)の一環として開発を行われたもので、実施に案内活動をされているのが平和教育活動を行なわれているNPO法人PCVの方らしいです。VRというと県立福山工業高校の学生の方が取り組まれていた印象が強いのですが、関係ないみたいですね。


○ツアー内容

 ネタバレを含むので、必要に応じて飛ばして読んで下さい。

 ツアーは平和公園内の4つのスポットを巡りながら展開されていきます。第1、2スポットはレストハウス(旧大正呉服屋、戦時中は燃料会館)前。レストハウスで被曝され唯一生存された野村英三さんの体験記が中軸となっています。レストハウス周辺の被曝前の街並みを眺めていると、人々が突如上空を見上げ始め、B29を見つけたと同時に原爆が投下される。火傷をされている方の様子や燃え上がる原爆ドーム、被曝体験でよく語られる黒い煙の竜巻や、川の水が竜巻状になっている様子などを見ることができます。



 第3スポットは相生橋(原爆投下目標地点、レストハウスから170m)。被曝当時の相生橋の様子が再現されています。うめき声、手を前に出してよろよろと歩く無数の方、橋にもたれかかって亡くなられている方、ツアー全体を通じて最も凄惨な場面が描写されていました。



 第4スポットは、被曝後臨時火葬場になった慈仙寺のあたり。VRは用いず、被爆者の遺骨が収められている供養塔や慈仙寺の墓跡、韓国人犠牲者慰霊碑を案内していただきます。



 余談ですが個人的に、平和公園案内と言って慈仙寺の墓跡を紹介しない碑巡りには強い違和感を抱きます。平和公園は建設時に遺骨や遺品除去が困難であったため盛り土をして建設されているのですが、それを体感できるスポットが墓跡なんですよね。(墓跡のある辺りだけ地面の高さが盛り土前の高さになっており窪んでいます)墓跡を案内しないにせよ、盛り土の話をしない案内は平和公園全体、ひいては広島という土地が被爆者のお墓の意味合いを持つという説明が欠如していると思うんですよね。現在においても死者の記憶が強く根幹にある広島の地域性を語るにおいてもかなり重要な話であり、強調して伝えるべきだと思ってるんですよね。

 脱線しました。その後第一スポットに戻り、復興する広島の様子を見ます。参加者同士の感想会をもってツアー終了です。


 VR映像は、人物描写ありのモードと無しのモードが選択できます。苦手な方にも配慮されてました。私は人物描写ありで体験しました。


○リアルな映像と認識される事

 ここからは個人的な感想を述べていきます。正直今回のツアー参加において、トラウマの二次受傷の発動はかなり覚悟して行ったんですよね。私自身広島に生まれ育ち、昔から被曝体験を聞いたり、資料館によく行っていたからなのか、未だ戦争映画を見たり戦争資料館にいくと、色々と思い出し、体調がすぐれなくなったり...と軽いPTSDの症状が出る事がよくあります。


 その意味でVRはかなり触発されるものと覚悟していたのですが、意外と大丈夫でしたね。正直、映画「原爆の子」(新藤兼人,1952)の方がよっぽど精神的にはきついです笑

 そういう意味では、苦手意識のある方でも体験しやすいのかもしれません。まあこの点については、私の感覚はかなり鈍いと思うので一概には言えませんが。

 個人的に気になったのは、「あの日を再現」と謳う事並びに、あのVRの映像をリアルなものと認識される事です。

 まず第一に、本ツアーに限らずVRというツールを用いる上で個人的に思う事を述べます。M・マルクハーンの「メディアはメッセージ」が表すように、メディア自体が持つ意味性自体がメッセージになりえます。VRというメディアは総じて仮想体験を前提とするツールである以上、「これが事実である」という認識を受け手に与えやすいものだと思います。この点は深く留意し、VRというツールを用いるべきだと思っています。

 では具体的に、ツアーの中で「リアルなもの」と認識されるにおいて疑問を抱いた点を述べます。
 例えば、被曝後一年の原爆ドーム周辺の再現映像がありましたが、平和記念公園建設法制定前であれば現在の平和公園周辺はバラックの民家で溢れていたはずなんですよね。しかし映像ではそのような描写は無く、現在の平和公園を彷彿とさせるような比較的綺麗な様子が映し出されており、なんだかなあと感じた次第です。

 投下当時のうめきながら歩く被爆者についても、あれがリアルかと言われれば、私は体験者ではないので分かりませんが、さもリアルであると認識させる事は、記憶の作成、歴史学でいうところの資料改ざんにあたるような気がして、個人的に近年のテクノロジーを用いた「あの日の再現」には違和感を覚える事が多いのもあり、疑念を感じざるをえなかったです。もちろん、それらが非体験者にもたらすイメージ増幅の役割は大きなものだと思っていますし、今回のツアーもその意味で重要な意義を持つものだと思います。あくまで上記のようなリスクを孕んでいるという点から、「イメージだ」という事を強調した上で行うべきだと思うんですよね。もちろんガイドさんから、「これがリアルです!」と言ったような説明を受けた訳ではないですが、特に県外の方が体験された際にそのような認識を持つ可能性が大きいのではと感じました。

 VR映像製作過程には、先程述べた被曝後一年の様子の違和感もあり、ツアー終了後ガイドさんに、被爆者の方がこの映像を見られた事があるのかと訪ねさせていただきましたが、未だないようで、製作会社が別なこともあり詳細は分からないけれども、製作段階で被爆者の方とお話しをされて作ったのでは...??とのお答えでした。
 うーーーーん笑といった感じは強いですね、正直。被爆者の方がこういった映像、特に投下時の映像を見るのは厳しい所もあると思いますが、可能であればご感想を頂きたいですし、バラックの件も含め時間と資料をかけて作ったものなのか...?といった疑念は残ります。



○輝かしい復興

 もう一点気になったのが、全体のストーリー展開です。あの日の広島といったテーマと同様に強調されていたのが、復興のストーリー。廃墟から広島の人々が力強く立ち上がって復興を果たしたという、いわば綺麗なストーリーで終幕を迎えた訳ですが、どうもこういう語り方は個人的に好ましくは思えないんですよね。


 こういう語りっていわばよくあるものです。たしかにそういう語りもできますが、復興における光のみに焦点を当てて、影の部分がないものとされるような語り方は婉曲を促進させるに他ならないと思います。もちろん何かを語るにおいて、語られないもの、見えにくくなるものがあるのは当然ですが、そのリスクを考慮していない語り方のように思え、疑念を感じざるを得ないです。こういったリスクを考慮する事は、情報を伝達する主体として、受け手にイメージや認識を構築しうるという事に対する責任の請け負い方の一つだと私は思っています。


 この点を踏まえ、当時の再現のみならず復興も一つのテーマにおいた意図をガイドさんに聞いてみたところ、制作会社の意図は分からないが、中東など外国から来られる方は戦後復帰というテーマで広島を見られる方も多く、その意味で復興を一つ大きなテーマと掲げる事に意味があるのではないかとのことでした。



○終わりに

 最後に、体験前の個人的テーマであった「追体験足り得るのか」について述べて終わろうと思います。

 正直、分かりませんね笑

 私自身、広島に生まれ育ち、これまで別の手段を用いて追体験を図ろうとしてきた経緯があるからだと思うのですが、よく分からないです。この点については是非県外の方がどう思われたのか教えて頂きたいです。


 色々と書きましたが、広島の事を知らない方が広島を知る上で、イメージを形成するにおいては有力なツールだと思います。VRはイメージのつきにくい戦争を理解する上でこれからの時代、需要が高まるツールだと思いますので、今後も動向に注目していきたいと思います。

 ちょっとお値段高めですが、広島に来た際は是非体験してみてください。

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