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林愛果さんのCD付絵本「死神とマリー」について

 歌のマリーは、最後が「君はきっといい子になれるはず」で終わるのに違和感を感じていた。最初に「ある日見た夢の話」とあるけれども、マリーがあまりにかわいそうだと思った。マリーが死ぬことで感情のない死神が涙をこぼす。マリーの死に直面したことで悲しいとか寂しいとかいう感情を知って、それでいい子になれるのだとしたら、マリーは君がいい子になるための犠牲になったように感じてしまうからだと思う。


 というわけで歌の元になった(どっちが先かはわからないけど)絵本を読むと、「人はね、生まれる前きっと死神だったのよ。」というお母さんのセリフから始まる。そして、死神になった夢を見た男の子が次の日の朝お母さんに、もしかしたらそうかも知れないと言って終わる。


 この終わりと始まりがあることで、死神とマリーというお話をどう読んだらいいのか、道筋が掴めた気がした。


 人は生まれる前は死神で、誰かの命を奪う仕事がある。本文には書いてないけれど、死神は奪った命と引き換えにこの世に生まれてくる。その時に、その誰かからその死を通じて大事なことを教えてもらう。そしていい子になれる。


 だとしたら、死神の男の子はマリーの命を奪ったのかも知れないけど、マリーだって誰かの命を奪ってこの世に生まれてきた。そして、男の子もまた誰かに命を奪われてこの世を去る。冒頭の一文があるだけで、物語が過去から未来へと続く人の命と感情の受け渡しの壮大なお話になる。


 もちろん夢とあるから、それが本当のことなのかはわからない。たまたまお母さんからそういう話を聞いたからそういう夢を見ただけなのかも知れない。でも、夢の中で死神の男の子はソラという名前をマリーからもらう。その名前は、地の文で書かれているけれども夢から醒めた男の子の名前である。それは何を意味しているのか。


 人は生まれる前、まだ感情を持たない時に、命を奪う相手からいろいろなことを教えてもらって、最後に死の悲しみを知って生まれてくる。そして、自分の命の終わりに、次の命のために今度は自分が教える番になる。そうだとしたら、それが自分が生まれた意味であり、自分が生きる意味、そして死ぬ意味になるのだろう。


 マリーと死神という絵本、あるいは歌のメインのお話はもちろん、死神の男の子とマリーの交流であって、最初からハッピーエンドではあり得ない、微笑ましいけど悲しいお話である。でも、それだけでは終わらなくて、冒頭とラストのシーンがあることで読み方によっては恐ろしく深読みすることもできる、大人にも子供にも楽しめる絵本だと思う。

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