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一年間同じクラスだった、早坂芽衣という少女について

今年度も今日で終わり。
もう二度と過ごすことができないこの一年間を、何か形になるものを残したいと思い、僕は今筆をとっている。

この一年間をざっと振り返ってみた。
何が一番印象に残っているだろうか。
夏休みに友人たちと遊び呆けたこと、秋から始めた人生初めてのバイトのこと。
色々と思いつくけれど、僕は『彼女』について、きっと大人になったらほとんど忘れてしまうことになるだろう『彼女』について、ここに書き残すことにした。

『彼女』というのは僕のクラスメイトである『早坂芽衣』のことだ。
実は彼女はこの街では知らない人がいないほどの有名なアイドルなのだが、今回はそのアイドル活動の話はしないでおく。

こんなことを言うと自慢になってしまうが、僕は彼女がアイドルになる前の、同じクラスになりたての4月の頃から少し彼女を意識していた。

右斜め前の席に座る彼女は、ホームルーム中も授業中も、起きている時はいつもそわそわワクワクしていた。

興味がある授業の時は真剣に先生の話を聞くこともあれば、興味がないのであろう授業の時はノートに何かを書いたり、足をバタバタさせたり、外を眺めたり。
あるいは教室の一点を見つめては、ときおり口元に指を立てていたこともあった。

いわゆる不思議な女の子。
僕の15年間の人生では出会ったことのないような面白い挙動をしてみせる彼女に僕が惹かれたのは、ある意味当然のことなのではないだろか。
顔もかなり可愛いし……

いきなりだが、僕と彼女は友達ではない。
その関係はただのクラスメイトで、彼女が僕のことを認識しているかすら怪しいものだ。

席配置的に彼女の視界に僕が映ることはなく、そもそも彼女がクラスメイトの誰かと積極的に会話しているところをあまり見かけない。

もっとも人見知りというタイプでもない彼女だけど、長期的な長い付き合いをする友人は、クラス内では知った話は聞かない。

授業の流れで彼女の休日や放課後の、プライベートな時間をについて聞く機会があった。確か五月らへんだ。

そこでは「友達とか猫ちゃんたちとお散歩したりして過ごすのが好きでよくしている」という内容のことを言っていた。
どうやら友人はいるらしい。
中学時代の知り合いだろうか、よくわからない。

そういえば、今こうして執筆中に気が付いたのだが。
彼女は付属中学からの進学なのだろうか?
それとも僕と同じように今年からの入学なのだろうか。
中学組の話題や関係に対する認識が希薄な僕は知り得ないことだ。

もっとも、本人に聞くのが簡単なのだが、そもそも僕と彼女が直接話したことなんてあんまり。
否、ほとんどないと言って間違いない。

だから僕は彼女が付属中学に所属していたのかを知らない。
ただ言えるのは、どちらにせよ学校の人間と話している様子を見かけないということだ。

例外があるとすれば、6月頃から昼休みなどにうちの教室を抜け出して、2年生の教室に行って特定の先輩二名と仲良くしているということ。

これは僕が部活の先輩から聞いた話だ。
さらに後にわかったことだが、その二人は彼女と同じアイドルグループのメンバーだった。

彼女と二人にもともと面識があったのかは知らないが、もしなかったのだとすればそれまで彼女は本当に学校の人間とは関わりがなかったということになるだろう。
しかし、憶測で話を広げすぎるのもやめよう。

さて、上記のような書き方をすると、まるで彼女は6月頃から昼休みに教室を抜け出すようになったように聞こえるが、実はそうではない。
彼女は基本的に休み時間には教室にいなかった。

あるとき、そう5月頃だ。
僕が水筒を忘れてしまい、中等部校舎と高等部校舎を繋ぐ渡り廊下近くの自販機に昼食のお供を買いに行った時、その渡り廊下を歩く彼女を見かけたことがある。

残念ながら僕とは反対方向(つまり中等部校舎)に歩いて行っているようだったが、その時の彼女は独り言していたのが印象に残っている。

しかもそれが誰かと話しているそぶりだったから、演劇の練習でもしているのかと思った。
実際アイドルになったことを鑑みて、彼女は芸能系のものに憧れていて、好きな作品のセリフでも言っていたのではないか、というのが僕の予想だ。
結構自信ある。

そんな謎多き生態を持つ彼女に、僕はいつの間にか惹かれていった。
高校帰り、何もない住宅街を歩いている時、家と家の間にある、ほんの小さな空き地の塀の上で、一瞬彼女の赤茶色の髪と制服を見た気がした。

あれは丁度一学期の終わり、真夏日と呼ばれるまで気温が高かった日のことだから、夏の亡霊でも見たかと思っているが。

そんな幻覚を見てしまうほど、僕は彼女を求めていたのかも知れない。
なんというべきか。
”恋”というのともまた違う。

見ていてハラハラさせられて、見ているのが楽しくて。
この後は何をしてくれるのか、そんな面白さを持っている少女だ。

ここまで言えばわかる通り、僕は彼女というアイドルのファンになった。
ステージに立ってパフォーマンスする彼女は輝いていて、特に僕はダンスが好きだが、本当に魅せられる。

先にも言及したグループ『月のテンペスト』ももちろん好きだが、個人的には同時デビューをした同じ星見プロのアイドル『サニーピース』のメンバー『一ノ瀬怜』と期間限定で組んでいた『MACARON  DONUTS』というユニットが好きだった。

またライブで復刻などしてくれないだろうか。

そうそう。
実は僕は今年の7月。
三ヶ月後に行われる星見プロダクションの合同ライブのチケットに当選した。
2Days、無論2日とも行く。

と余談は置いておき。
そんな魅せてくれる、ステージに立つ彼女に僕は惹かれている。

しかしながら。
僕が彼女に興味を持つその真髄は、今までここにたくさん書いたように、彼女の言動にある。

収録のテレビ番組などはもちろん、生放送のラジオに出ている時なんて大変だ。
一体何をやってくれるのか、どんなことを言うのか。
自分はマネージャーか、と自分で突っ込んでしまいたくなるほどドキドキ、ハラハラ、ヒヤヒヤさせられて。

しかし、いやだからこそ毎回聞いてしまう魅力がある。

年度も後半に入ってからは高校に顔を出す機会も減っていき、中々クラスメイトの彼女を見ることは減ったが。
それでも週に一回は必ず観察できたし、メディアの露出も増えて行ったから結局彼女を眺める時間にそれほど前との差はなかった。

僕がこの一年間を振り返って思い当たった一人の”少女”についての話はこんなところだ。

明日にはもう、僕は高校2年生。
きっと彼女とは違うクラスになってしまうから、ただでさえ登校日数の少なめな彼女と学び舎で会う機会はほとんど無くなってしまうだろう。

それは悲しいけど、次からはもうただのファンとして、彼女を追いかけることにしよう。

うん、自分でも思う。
結構いい文章が書けたんじゃないだろうか。
そして、書いているうちに分かったよ。

僕はやっぱり、彼女に恋をしているわけではない。
この感情を表す言葉は、それが適切ではないと思う。

恋じゃなくて、愛でもなくて。
推しだけど、もっと明確な。
尊敬? それも違う。
そう、そうだな……

うん、閃いた。
この言葉がしっくりくる。この言葉を使うことにしよう。
文章を書いていたら僕が彼女をどう思っているのか、客観的に認識できた。
こういうのも、たまにはいいかもしれないね。

それではこれにて、高校生という特別な期間の、最初の一年間の振り返る文章を終わる。
また来年度。

一年間同じクラスだった、早坂芽衣という僕の『憧れ』の少女について


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