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サンノジの話

先日のお安いお寿司屋の話の続き。

寿司ネタの札が壁に貼ってあった。
「三ノ字」とだけ書いてある。

さっぱりなんのことやら。

寿司ネタなのかどうかもわからない。

これまでの人生で一度も耳にしたことがない。
目にしたこともない。

わたしの知識不足も否めないが。

これは、気になる。

そして注文する。


程なくすると一貫の握りが私のもとに到着する。

一見すると鯛の握りのようだ。

その切り身には銀色と薄い桜色の皮目の模様。
白く透き通るような色合いの切り身だ。

やはり見た目は鯛のようだ。

この時点で私は容易に味の想像をしてしまった。

だが、それが間違いだった。

どんなに見た目が鯛で見慣れた握り寿司だとはいえ、未知の食べ物に一口目が躊躇われた。

そして、顔を近づけその魚が放つ匂いから確認した。

もしかしたら、生まれて初めて寿司を嗅いだかもしれない。

なぜそんなことをしてしまったのか。

未知との遭遇に無意識にいつもと違う行動をしてしまったのかもしれない。

その結果、私の鼻腔は若干の臭みを感じ取る。

それは魚類特有のそれではない気がした。
磯臭さやその類のものではなかった。

例えるならば、、、、。

いや、例えない方がいいのかもしれない。


しかし、注文した以上は、、。

この三ノ字という魚の命を。

ありがたくいただく。
醤油を刺身の方にいつもよりも多めにつける。


意を決して一口、、、。




瞬間、独特の香りが口内に広がる。


独特の臭みが爽やかに広がる。
爽やかに。


確かに磯の臭さはある。

が、それとともにシンプルな臭みが共存している。


あえて例えなかったが、例えるなら、、。

蟹味噌のような、貝のような。

貝類のキモのような。

磯臭さとキモのような臭みがある。

が、決して強くはない。

ほのかにである。

そして魚からそれらの匂いがすることになかなか戸惑いを隠せない。

食感は、強めで弾力がある。

もし、


もし仮に、


もし仮に人類が鯛の味を知らなければ、

それに準ずる白身魚を知らなければ、

もしかしたら、美味しいというかもしれない。

決して不味くはない。

そこまで臭くもない。

ただ、ほのかに臭みが鼻に抜ける。

私はその匂いが気になってしまった。

ただ、それだけの話である。

好き嫌いは別れるかもしれない。



ところで、



三ノ字とは、なんなのだろうか。



結論、



三ノ字(サンノジ)は鯛であった。


スズキ目ニザダイ科に分類される仁座鯛という魚だ。

鯛なのか、スズキなのか、鯛はスズキなのか、
定かではないがニザダイと言うらしい。

東アジア沿岸に生息し、海藻を食べその成分が発酵して独特のの臭みを帯びるらしい。
が、食用にもできる魚であるようだ。

納得と安心を得られた。食用であったのだ。

臭いに関しては、


「海藻の腐った臭い」

「小便に近いような臭い」

とも例えられるようだ。


言われてみればそうだが、、、。

その例えには行きつかなかったので知らなければよかったと後悔が否めない。

釣り人には大物が釣れても喜ばれないこともしばしば、、、。

なんとも不憫な魚である。


そんなニザダイであるが、これは関東などでの呼び名みたいだ。

他にも地方ごとに呼び名があるらしく、

「ニザハゲ」
「ゼニモチハゲ」
「クロハゲ」
「カッパハゲ」
「オキハゲ」
「クサンボウ」等々、、、。

ほぼハゲである。


形はカワハギに似ている。
実際にカワハギと呼ぶ地方もあるほどだ。
しかし、カワハギはフグ目で分類が異なる。

ハゲではあるがハギでは無いようだ。

尾鰭の前に楕円の黒い斑点がいくつかあり、3個だけ大きく目立つ斑点がある。サンノジの由来はこの3個の並んだ斑点を漢数字の三に見立てたもののようである。

そしてこの斑点には硬い骨が突き出ており掴むと怪我をする恐れもあるので、取り扱いには注意がいる。

また、これはWikipediaに記載されているが、
英名のSaw tail(ノコギリの尾)はそこからきているようだ。
別の英名ではSurgeon fish(外科医の魚)はメスのようにその突起がが鋭利なことに由来するようだ。

まてまて、

英名カッコよすぎじゃないのか。

臭い要素も、ハゲ要素もないぞ。

そもそも魚でハゲ要素ってなんだ。

ただの悪口ではないのか。

やはり不憫だ。

臭いからなんだ、がんばって生きてるじゃないか。


その独特の臭みから商品価値も低い。

ニザダイを目的に漁をすることもないらしい。

市場にもほとんど出回らないらしい。

らしい、らしい。



のだが、



回転寿司チェーンのくら寿司が商品化したのだ。

水産技術センターの研究で、一定期間キャベツ(廃棄されるはずのものなども利用される)を餌として与えることで臭みの除去に成功したらしい。
また、冬になると臭みが薄れるらしい。

やはり普通のニザダイは食べれたものでは無いのかもしれない。

私がニザダイと出会ったのはくら寿司ではないのだが、きっとこういった臭みを軽減したニザダイだったのだろう。

それでも、臭いが気になるということは。

本物はどれほどのチカラを秘めていると言うのだろうか、、、。



今回のことから得るべき教訓は、


臭いものには理由がある。
主に海藻を食べ、消化されると臭みの原因物質か出るようである。

しかし、キャベツではそれがなかったのだ。


つまり、原因があれば解決方法もあるのだ。

どんなに臭くて敬遠されるニザダイも、

克服できたのだ。


決めつけない。諦めない。

それが今回得るべき教訓なのかも知れない。

偏見は時に可能性を殺してしまう。

先入観は可能性に蓋をしてしまうのだ。



だから、ニザダイを経験した私は思う。
偏見でも、先入観でもない。
これは経験だ。


1度食べたし、ニザダイはもう食べないかなぁ。


みなさんは、経験してみてほしい。
ここまで色々と言ってきた。

が、
偏見なく、先入観なく、
出会った際にはぜひ食べてみてほしい。
やさしい気持ちで。


きっと、

そんな臭くないじゃん。

言うほどか、、?

意外と美味しいじゃん。

と、思うはずだ。

少しでもニザダイに興味を持って食べてもらえると嬉しいと思う。

愛すべき魚なのだ。

臭そうで臭くない、少し臭いサンノジの話。



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