見出し画像

単行本ボツ原稿:レース質判断における「メタ」の概念の活用

 各レースのバイアス判断や、レースがもつレース質の設定などは、「メタ」の概念を活用すると分かりやすくなります。

 例えば、「メンバーに先行馬が多い」→「ハイペースになる」→「差し馬が有利」という仕組みは、多数派である先行馬がつくる流れに対して、普通のレースでは届かない差し馬が指し届くという状況を生み出します。

 Twitterなどで「ダート上級条件の差し馬有利」のメカニズムにしばしば言及していますが、この構造の肝はダート上級条件におけるトップメタである「逃げ・先行」を、「差し・追い込み」がメタることにあります。

 さて、「メタ」について軽く触れておきます。
 基本的には、「現環境で主流の戦略や戦術に対して、対策的な戦略や戦術を取ること」を意味します。サッカーで例えれば、一昔前に流行したスペイン風のポゼッションサッカー(トップメタ)に対するメタとして、ショートカウンター主体の戦術が猛威を振るった時期がありました。

 つまり、現環境における多数派や最適解を「トップメタ」と呼び、その攻略を念頭において構築された戦術を「メタ」と呼ぶわけです。

 多くの場合、メタ戦術はトップメタ攻略に特化していることから、その他の戦術に弱いという特徴があります。先の例では、ショートカウンターサッカーは、ハイプレスから高い位置でボールを奪って少人数で攻めるため、引いて守る戦術との相性はよくありません。このように、メタはトップメタに対してのみ絶大な力を発揮します。

 競馬の話に戻りましょう。
 ダートは基本先行有利のため、従来から「逃げ・先行」=トップメタです。当然、「逃げ・先行」馬は勝ち上がりやすいので、上級クラスほどその占有率が高まっていきます。その結果、トップメタ同士の潰し合いになるので、ここの勝敗は単純な戦力比較や、「どの馬が一番先行しやすいか」というバイアスに集約されていきます。
対して、トップメタが増えることで、「差し・追い込み」というメタが効果を高めていきます。特に、1レース単位で見ると、メンバーの中の先行馬が増えるほどレースペースが上がりやすくなるので、「差し・追い込み」がよりメタりやすくなります。
 なお、このメタである「差し・追い込み」は、トップメタである「逃げ・先行」が少ないレース、つまり、ペースが上がりきらないレースでは差して届きません。これがメタの宿命でもあります。

 こうしたメタの概念で非常に分かりやすいレースが、先日行われたGⅡフィリーズレビューです。競馬王のコンビニプリント公開した予想は以下のとおりです。

阪神11R フィリーズレビュー 芝1400m
レース質::内枠・差し・短縮・ハイペース

 雨量の少なかった阪神は、日曜のメインまでには良近くまで回復するやや高速よりの芝を想定。延長馬がそろい、権利取りの早仕掛けでハイペース必至。内々をロスなく回る差し馬が内を割って差し切るレース質。

5.シゲルピンクルビー
 阪神JFはだらしなかったが、外から先行した馬には苦しい流れだった。距離短縮ローテで持続力を補完してこのメンバーであれば、巻き返しは可能。3列目の内を追走して、ハイペースでバラけた内を捌きたい。

8.ヨカヨカ
 九州産で人気になりすぎる馬だが、阪神JFを逃げて掲示板に粘ったのは強い競馬。やっと迎えた距離短縮ローテで、差す競馬もできる。上位人気馬が外に入ったここは妙味ありと見る。

 結果はご存じのとおり、推奨2頭でワンツー決着。予想の根拠には、この2頭がこのレースにおけるメタであったことが挙げられます。
 当時の週中のTwitterで言及したとおり、フィリーズレビューの特徴は以下のとおりです。

①厳しい流れのGⅠ経験馬と、1200mからの延長馬がぶつかる
②権利取りのため、早仕掛けのハイペースになりやすい
③阪神芝1400mは内回りコースで内枠先行有利

 この結果、流れとして残り600m地点(4角入口周辺)から加速が始まる持続3F戦になりやすく、例年、4角~直線入口で押し上げるタイミングのない外枠差し馬勢には苦しいレースになっています。

 世代限定芝短距離戦は基本テンのスピード勝負で、先行して後続を振り切った馬が勝ち上がってきます。つまり、世代芝短距離において「先行」「テンのスピードの速さ」はトップメタと言えます。こうした馬が出走メンバーに増えれば増えるほど、レース環境は先行色を強めていくことになります。
 先行馬が多くなれば、当然前半からペースが上がり、差しが決まりやすくなるとともに、直線ではスピードの絶対値よりも持続性を問われることになります。ペースが上がること自体が、「先行」をトップメタにたらしめる理由であるテンのスピードの重要性を下げていくわけです。また、ほかに先行する馬が多いために先行できなくなる馬が増えてきます。
 加えて、元来内枠先行有利の阪神芝1400mは、そもそも瞬発力よりも持続力を問われるコースでもあります。
 
 以上のことから、このレースのトップメタに対する対策的な戦術として、次の特徴をもった馬がメタりやすく=走りやすくなります。

ア 差しに回ることができる
イ 末脚の持続力を担保することができる
ウ 差し馬に不利な外枠に入っていない

 これに該当する馬を馬柱から選ぶとすれば、以下の項目に該当する馬をねらうのがよいということになります。

・差し経験があり、今回差しに回る馬(ア)
・距離短縮ローテであること(ア・イ)
・内枠であること(ウ)

 これがフィリーズレビューのもつレース質が「内枠・差し・短縮・ハイペース」である理由になります。前半が速く流れることを考えると、追走力もある程度必要なので、「前走先行していた内枠の距離短縮馬」がベスト。これに該当していたのが、1着シゲルピンクルビーと2着ヨカヨカだけだったというレースでした。

 実際に、2020年のフィリーズレビューも、6頭いたマイルからの短縮馬のうち、内から3頭が1~3着で3連複2万馬券。特別なことではなく、例年どおりのレース質、例年どおりの決着だったわけです。

 このように、レース環境におけるメタの概念を活用することで、かなり容易にレース質を設定することができます。
 この思考が身に付くと、ここまで解説した内容は5分とかからず判断できるようになるので、予想スピードが格段に上がるかと思います。また、実際の馬選びは、馬柱を見て「内枠の短縮馬」を探すだけなので、10秒で終わります。

 GⅠや重賞は施行条件が一定で傾向が変わりにくいため、予想力向上のエクササイズとして、「メタ」の概念を試してみることをオススメします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?