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レース質を基に、レースを「ストーリー」として捉える方法

 「レース質マトリックス」では、レースがもつ構造上のレース質や、コース形態によるレース質を基に、直近の馬場状態やペース、メンバーを踏まえて予想を組み立てます。
 本稿では、各レースで設定したレース質を、点ではなく、線で捉えていく方法について解説していきます。レースを個別の「エピソード」として捉えるのではなく、ひと連なりの「ストーリー」として捉えることで、見えてくるものは少なくありません。

 ちょうどオークスが終わったので、オークスにおけるストーリーを中心に考えていきます。

(1)オークスのレース質判断

 著書において、オークスがもつレース質は良馬場限定で「内枠・先行」としていました。また、超高速馬場であれば「内枠・差し」へ微調整を加えることも考えていました。

 しかし、今年のオークスは最終的に「外枠・差し」としました。その理由は以下のとおりです。

・ヴィクトリアマイルが中盤緩んだこと
・桜花賞が超高速馬場における高速持続戦だったこと
・中盤のラップが上がる要素がなかったこと

 もう少し詳しく言うと、こうなります。

・ヴィクトリアマイルは例年短距離質のレースで、中盤緩むことが稀にもかかわらず、今年は緩んだこと
・超高速馬場でテンに速く、中盤緩まなかった桜花賞の好走馬が人気を背負うことで、オークスもテンに速くなることが予想されたこと
・ここまでの王道牝馬重賞のほとんどが超高速馬場の阪神で施行、かつ中盤我慢ができないメイケイエールが中盤のペースを上げていたが、オークスは東京開催でメイケイエールもいないこと

 雨の影響が残る良馬場、かつテンに速くなったヴィクトリアマイルが、例年とは違う中弛み戦になるのであれば、ほぼ同条件で施行されるオークスも中盤緩むことは予想がつきます。
 また、中盤でラップを上げようにも距離的にタフな2400mで自分から動くことはどの馬もしたくないですし、これまでと違い、折り合いを欠いて仕掛けてしまう馬もいません。

 だとすれば、「テン速い→中盤緩む→上がり勝負」の流れになることは明白。これは差し馬が最も有利になる流れで、直線入口で先行馬と差し馬のポジション差の小さい末脚勝負は、コーナーの惰性を生かして不利なく追える外枠有利になります。

 したがって、今年のオークスのレース質は、事前に「外枠・差し」と判断できるわけです。実際にオークスは、馬場の割にテンがややタイトなスロー寄りのミドルペースで、中盤緩んで馬群が凝縮する典型的な外差しの流れになりました。
 
 これは、直前の傾向を見ているだけでは判断が難しいところです。「直近のレース結果がどうだったか」ではなく、「本来はなるべきレース質に沿った結果になっているか否か」に注目することがポイントになります。

 ヴィクトリアマイルや桜花賞、オークスが「例年どのようなレース質なのか」「その根拠は何か」「今年はどのようなレース質でレースが行われきたか」を知ることで初めて、今年のオークスが例年と違う結果になることを想定することができるのです。

(2)オークスのレース回顧

 土曜にオプチャでも今年の桜花賞はオークスで強い馬が走れない流れだったとお伝えしました。加えて、(1)で今年のオークスが中盤緩む流れになることが分かっているので、次のことが明白になります。

・桜花賞を適性で走った上位組はオークスでは適性が合わない
・序列として、桜花賞を適性が合わず負けた馬や別路線組が上位にきやすい

 高速持続戦で内枠差し有利だった桜花賞で内枠から好走した馬は高速持続戦への適性が高く、中盤緩む流れには対応しにくいことは想像に難くありません。例えば、ソダシとファインルージュ、アカイトリノムスメはこれに当てはまるので、評価を下げることになります。
 
 別にこの想定が当たったことが大事なのではありません。実際に、私の予想は「外枠・差し」を読み切りながら、桜花賞凡走組を上位に取ったので不的中となりました。重要なのは、正しく想定することで、レース結果から以下のことが分かるということです。

・オークスを先行して負けた馬は適性や流れが合わなかった面が大きい
・桜花賞好走組で、オークスを差して上位にきたアカイトリノムスメと、先行して唯一8着に粘ったソダシは能力的に抜けている
・別路線組や桜花賞凡走組のうち、オークスで差して負けている馬は世代上位を争える力がない

 例えば、アールドヴィーヴルやエンスージアズムは秋華賞でも足りない馬に分類されます(この2頭を推奨して申し訳ありません)。

 これがオークスのレース回顧となるのですが、これらのことはオークス単体だけを見ても分かりにくいものです。

(3)ハギノピリナの激走が教えてくれるレース質

 オークスには、もう1点興味深い要素がありました。オークスは掲示板に載った5頭は全て4角8番手以下で、道中最後方集団からハギノピリナとタガノパッションの二桁人気馬が2頭追い込んできたことです。

 実は(1)で言及した「テン速い→中盤緩む→馬群が凝縮→外差し追い込み決着」という流れは、発走後下り坂のレースで起こりやすい流れです。著書を読んでいただいた方にはもうお察しかと思いますが、これは阪神芝2200mの基本的な流れそのものです。
 
 16番人気3着に激走したハギノピリナは、発走後下り坂の阪神芝2200mで2勝するとともに、発走後上り坂の阪神芝2000mと2400mでは負けていた馬です。また、前走矢車賞では、自分でマクって動ける性質を見せていました。
また、10番人気4着に激走したタガノパッションも、マクリが決まらないコースである阪神芝2000mでマクり勝った経験がありました。

 このことから、以下のことが分かります。

・オークスは阪神芝2200mと適性が近い流れのレースであったこと
・オークスは自分からマクって動ける性質をもつ馬が好走するレースであったこと

 ちなみに、この2頭はどちらも前走で推奨しており、その際の短評は以下のとおり。

〇ハギノピリナ 矢車賞
初戦、2戦目はどちらも発走後上り坂の阪神芝2000m、2400mのスローで差して届かず。前走は、阪神芝2200mに替わって、それなりに内が踏ん張る中で大外一気を決めた。同コース、同じ競馬でここもチャンス。
〇タガノパッション スイートピーS
初戦はまったく届かない位置からすごい脚を使って3着まで差してきた。前走は不利な阪神芝2000mの外枠重馬場を速めに自分で動いて折り合い、再加速する味な競馬。ここでは経験が生きそう。

 このように、好走馬の戦績や適性のあるレース質を基に、今回のレース質がどのようなレース質であったかに迫ることができます。

 なお、高速持続戦で自分から動く必要がなかった桜花賞組は、当然マクリ適性が必要な流れに戸惑い、アカイトリノムスメとアールドヴィーヴルを除き、ミヤビハイディにまで先着されることになるわけです。

(4)オークスは秋華賞につながるのか

 結論から言うと、今年のオークスは秋華賞につながりません。理由は(1)~(3)を踏まえて、以下のようになります。。

・オークスは阪神芝2200mに近いレース質であり、マクれる馬キャラが走りやすいだった
・今年の秋華賞は阪神芝2000mで施行される
・発走後上り坂の阪神芝2000mと下り坂の阪神芝2200mではレース質が真逆(詳細は著書をご参考ください)
・高速阪神の芝2000mは中盤大きく緩まないのでマクれない

 したがって、秋華賞ではオークス好走馬は適性面で合わないことが分かります。特に、ユーバーレーベン、ハギノピリナ、タガノパッションは怪しいと考えています。

 また、阪神芝2000mは序盤緩んでの平均ラップ戦で「内枠・先行」のレース質になりやすいことを考慮すると、高速持続戦でレース質の近い桜花賞好走馬が内枠に入って巻き返すパターンが想定できます(ロングラン開催の4日目、超高速馬場でもある)。

 このように、様々なレースのレース質を個々の「エピソード(点)」で終わらせることなく、大きな「ストーリー(線)」として捉えることで、レース間のつながりを見つけることができ、次のレースの予想へと生かすことが可能になります。

(5)ダービーに向けたストーリー

 もう気になっている方がいらっしゃると思いますが、同じ理屈をたどれば、ダービー以上に緩みにくいヴィクトリアマイルとオークスが緩んだことで、ダービーも緩むのではないかと推測できます。ヴィクトリアマイルとオークスは2017年以降の超高速馬場が主流の時代のレース質ではなく、2016年以前のレース質に近い流れになっています。

 ダービーも2016年以前は中盤が大きく緩む「差し有利」のレース質でした。Cコース替わりになりますが、近年の内枠先行有利を期待すると、今年はアプローチを大きく間違える可能性は高いと思います。さすがにここまでくれば、馬場自体が近年の超高速馬場とは違うことは誰の目にも明らかですし。

 また、今年の牡馬クラシック戦線はほとんどが「先行有利」のレース質で、その中で先行馬を差し切れる馬がいなかったことは、常々ツイートしてきました。
 このことを考え合わせれば、ねらいとなる馬は自ずと絞られてくるのではないでしょうか。これもまた「ストーリー」として捉える視点の一つと言えます。

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