卯月、回顧

ここからが本番。

先月、卯月、事故現場に遭遇する、いわゆる右直事故。直進車は横転してた。
僕を含め目撃した車から3人の戦士が駆けつけて、閉じ込められた運転手を引きずり出す。
他人からしてみれば只少し珍しい風景でも、当事者からしてみれば地獄、阿鼻叫喚。
それは、もう一方の右折を試みた女性も同様に。車内には20前後の女性がまごついていた。車体には瑞々しい若葉マーク。
彼女の車を移動させないといけない。ただ今の彼女に運転させると二次災害が起きかねない。僕が路肩に寄せる。
彼女はまともに話ができなかった。悔し泣きでもない、悲し泣きでもない、もちろん嬉し泣きでもない。「慟哭」「戦慄」「後悔」が一挙に迫って来たかのような顔をしていた。「啼哭」とも少し違う。僅かでも落ち着かせようとするもびくともしないのだから、やって来た警察には僕から顛末を述べる。
僕にとって仕事中の出来事であったから、その場を去ろうとしたけれど、やはり気の毒というか、心残りがあって、あの手この手で彼女をどうにかしようと試みた。もちろん無理。
諦めかけて、
「事故ってからが本番みたいなところある。こっからが本番だよ。ほら、今から!」
と言うと、最後の最後で笑ってくれた。あの笑顔にも名前はない。

彼女は今、本番中で、何処からが本番かなんて自分で決めてしまえばいい。殆どの場合、今からが本番だ。

さて、よ~いドン!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?