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魚灯

「つぎはいつ、見れるかな…。」
それを最後に、会話は途切れた。重くのしかかるような帳を、赤い光だけが払っている。その向こうにいる相手は外套に身をくるみ、動かなくなった。寝ている。
「 ...。」
見ているだけでもひりひりと肌が痛むが、その捉えようのないうねりを繰り返す帯から、目をそらすことが出来ない。しかしそのうち、限界が来る。両脇にある海水を目に肌に振りかけ、もどり、また振りかけた。
(あつい、あついな ...。)
そう思いながらも、視線をそらす気は起きなかった。それは彼らにとって本来交わることのなかったものであり、またおそらくこの時代において、彼のみがその光に依られたおおくの語――今はその姿をほとんど見なくなった生物の語――を心づく事が出来るからであった。
(ただの…象徴だと思ってたんだけど。)

その間も、皮膚からは水分がとんでゆく。

補給もわすれ見入っていると鼓動が不規則に脈打ちだし、喉から急激に水分が失われ、息は詰まり、脳が煮えるように熱くなった。一瞬、その思考をうめつくしていた語は霧散し、たまらずに黒海に身を投げる。飛沫の音が大きくあがり、それが収まるのとおなじように、徐々に熱も失われていった。心地よい冷気が、身体を包む。思考も鮮明になってくると、
(ずっと居ると、ああなるんだ。)
呑気にそう思った。水を越し、ゆらめく光は変わらぬ調子でそこにある。ゆっくり、ゆっくり、底のない海を沈んでいった。

すこし、目を開く。

(名前、忘れてた。)

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