おやつ探し

潮が引く。
黒曜の岩に風が通り、溜まった海水は青を映していた。年中気温の下がることのない海域であり、黒のあいだにみえる極彩は、その脅威となる生き物が姿を現わさなくなって以来、生き生きとした色を見せている。
(ここにアコヤがいたはずなんだけど ...)
ない。同じような扇状の貝はあれど、その貝だけがそこにない。水に顔をうずめ、5分が経った。
(僕以外にも、ほしい人がいるみたいだ)
なにともなく近くにあったマベガイを手にとり、顔を上げる。先程と変わらぬ青が入江を包んでいる。小さな麻袋からシェルナイフをとりだし、殻の間へ通す。泡が吹き出で、その隙間が開いてゆく。
(下の貝殻、は…ミガラだったっけ。あれ?ミカラ?)
滞りない作業に比べ、思考は常につまづいている。やがて殻が空き、身を削りとり、半球状のややいびつな真珠が現れた。先程とは別のナイフを取り出し、力強く打ち付けた。真珠は層から離れ、その瞬間に口へと運ぶ。その噛砕の音だけで、波紋が出来るようだった。
(次機会があったら、どう説明しようかな。真珠は僕らにとって、あなたたちの言うところの…)
想像にふけ、指で円を作る。その手は水面と同じように輝いていた。

(ラムネにちかいものです。)
(うん。わかりやすい。)

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