井の怪

井戸の中になにかがいる。
人とも獣ともつかないうめき声を発する井戸を、覗き込む人影が2つあった。
「ちょうど、賊徒から頂戴した脇差があります。」
人影のうち1つが、そう言って懐から小刀を取り出した。一尺2寸、栗鼠皮のツカで、鞘は鈍色。ツカ頭は銅で、菊谷と堀入れがあり、表に陽、裏に清の二文字がある。
進み出て、脇差をツっと井戸の上へ突き出した。

「しかし、もし...」
「人であれば、声もだしましょう。」

刀は、闇の中へ落とされた。
カキッと何度か音がして、次第に止まった。
が、いかなる声も聞こえてこない。

「これは」

いくばくかの沈黙の中、またうめき声が聞こえ出した。

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