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ラブレターを君へ


「もう恋なんてしない」



君は涙で目を潤わせ


キラキラした瞳でそう言った。



ボサボサの髪で隠れた顔を、くしゃくしゃに歪ませながら


そう言った。



僕の渡した白いハンカチを、色が変わるほどベトベトに鼻水で濡らしながら


そう言った。



人通りが少なくない冷たいレンガ道の上で


膝をつき


肩で呼吸をしながら


君は確かにそう言った。



君の小さな口から発せられた振動が


僕の鼓膜を揺らし、耳小骨がリンパ液を振動させ


聴神経からの電気信号を脳が受け取ったのを感じた。



僕が隣にしゃがみこんで


君のうつむいた顔を覗き込みながら


「どうして」


とできるだけ優しく、そして落ち着いて問いかけたが


返事は一向に返ってこなかった。


今日はどうやらクリスマスイブというめでたい日らしい。


きらびやかな装飾が街を明るく照らし


雪がチラつく、


君が教えてくれたファミマのおでんとあったかい缶コーヒーを買いたくなるような日だった。



3時間前、駅で待ち合わせた時の照れくさそうに


はにかんだ君の笑顔がとても懐かしく感じた。






とうとう僕は最後まで君に言えなかった。



素直に正直に伝えることが出来なかった。



信じてもらえる自信がなかった。



受け止めてもらえる自信がなかった。



「僕は火星人です」



なんてバカ正直に言えるはずがなかった。



「あなたの星をぶち壊しに来ました」



なんて言えるはずがなかった。



「あなたが好きと言ってくれた日から、今日まで。気づいたら僕の方が好きになっていました。火星人のくせに、ぷぷ」



なんて言える訳がなかった。



見た目は確かに、ヒューマンと変わりない。



だけど、視力は3倍、聴覚は5倍。


あとは、とてつもなく橋本環奈がタイプ。



そう、ヒューマンとは似て非なる存在なのだ。


それが、我々火星人なのだ。



マエザワ国王から2020年中に


「月の近くらしいからとりあえず壊しちゃってよ。
スタートゥデイ」


と命じられ


降り立った青い惑星"🌍"



そこにあったのは私利私欲にまみれた生物の殺し合い



ではなく



心温まるヒューマンストーリー


2020年今夏、世界が涙する



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