学校では教えてくれない現代史

今朝のアルジャジーラのドキュメンタリーはShadow Worldだった。

いわゆる「学校では教えてくれない大戦以降の現代史」あるいは「アメリカ外交史」2016年版。


欧米の学校教育関係者たちも「カリキュラムに従うと現代史に使う時間がなくなる」と嘆いていたが、使う時間がふんだんにあったら色々と大変な事になるんだろうな、と思う。

何せ、今はネットで簡単に公文書まで調べられてしまう。

そしたらたとえば、アメリカが第二次大戦後、民主的な指導者たちを片っ端から暗殺するわ、極右団体に金と武器と組織化のノウハウ与えて政権乗っ取らせるわ、自分らの利権のために国民の血まで絞らせるわ、みたいな事をやりまくっていた、というのが陰謀説でもなんでもなく、様々な公的記録に裏打ちされた歴史的事実だという事がバレてしまう。

そしたらイラク戦争が全く同じ基本構想に、表皮だけデザインをリニューアルした仕組みによって実現された事なんかもバレてしまうし、という事はなんだかんだとイラク戦争に合意して正当化した自国の当時の権力も同様に腐っていることもバレてしまう。そうすれば当然、その流れを汲む今の自国の政権を見る目も厳しくなるではないか。


ベトナム戦争も、そもそもはそういう話だ。

最初は「共産主義との戦い」という事にしてあった。

「共産主義」が大した脅威ではなくなり、そのナラティブが崩壊した後も、グローバルメディアは実に上手い事、「ベトナム戦争の記憶」を、アメリカの若者たちの反戦活動や彼らの生き方の物語や、せいぜい一部の米兵の蛮行やトラウマの問題ぐらいに摩り替えているが、そもそもはフランスの植民地主義に対するベトナム人の抵抗運動から始まった。

その辺の雰囲気(厳密な史実ではないが)を知るには、The Quiet Americanがクソお勧めである。マイケル・ケインの最高の演技が見れる。


で。

The Quiet Americanの邦題ってなんだろう、と思ってぐぐったら、

「愛の落日」

だそうな。

え…なんだそれ。

どこの陰謀だって思うぐらいひどい。

Yahooの解説が「ベトナム戦争前後のサイゴンで美しいベトナム人女性をめぐり、恋に翻弄される2人の男を描いたラブストーリー」とひどいのだが、この邦題を見たらそういう話を想定するのかな、と思う。

確かに、予備知識一切なしで見る人にとっては、これはウォン・カーウェイみたいな、シネマトグラフィに凝った大人の恋愛モノに見えない事もないかもしれず。そしてそうすると「実は本格歴史/政治サスペンスだった」という事自体が大きなひねりとして成立するので、ネタバレを嫌うと扱いが難しい作品なんだろう。

英語メディアでは、仏植民地・ベトナム戦争開戦へのアメリカの関与を描いた作品という点はハッキリ言うてますな。


まあ、そんな感じで、ちょっとメディアに邪険にされても不思議がないぐらい、今のハリウッドを中心とする映画産業が作り上げてきたナラティブとは根本的に異なる、異色の角度からベトナム戦争をとらえた作品で、しかもとても良く出来た作品なのでぜひぜひみてみてください。



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