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旅する音楽 6:フランソワ・ド・ルーベ『サムライ/冒険者たち オリジナル・サウンドトラック』 - 過去記事アーカイブ

この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2015年3月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

口笛を吹きたくなる銀幕のメロディー

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フランソワ・ド・ルーベ『サムライ/冒険者たち オリジナル・サウンドトラック』

 社会人になって2年目くらいだろうか。その頃の僕は、仕事に行き詰まっていた。今考えれば取るに足らない悩みだったのだろうけれど、現実逃避が必要だと思い、ずっと行ってみたかったパリへと向かった。スーツケースを引きずったまま真っ先に足を運んだのは凱旋門だ。威風堂々とした姿を眺めながら、そっと口笛を吹いてみた。美しく切ないメロディーは、ほんの少し僕の心を和らげ、パリの青空へと消えていった。

 そのメロディーとは、映画『冒険者たち』のテーマ曲。映画好きの方ならよくご存じだろう。巨匠ロベール・アンリコ監督による60年代フランス映画の名作だ。主演は、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス。挫折を味わった彼らが、すべてをリセットしてアフリカへ財宝探しの旅に出るというストーリーで、男女3人の微妙な人間関係の描き方も見事。仕事や恋愛で煮詰まったときには何度もこの作品に助けられたし、出会いと別れの多い今の季節にも無性に観たくなる。

 この映画を彩る音楽もまた素晴らしい。フランソワ・ド・ルーベは、多数の映画音楽を残した後、スキューバダイビング中の事故で亡くなった伝説の作曲家。彼がつくる音楽は素朴な味わいが特徴で、サントラにありがちな仰々しさは一切ない。世界中の民族楽器を効果的に使ったり、ときにはオーケストラやシンセサイザーなども駆使するが、いずれも手作り感覚に満ちている。この『冒険者たち』も、口笛で奏でられるテーマ曲がまるで主人公の名セリフのように聞こえてくるほど印象深い。

 映画の冒頭に、アラン・ドロン扮する飛行士が、無謀にも凱旋門を複葉機でくぐり抜けようとして失敗するシーンが出てくる。まるで、その後の波瀾万丈な生き様を象徴するかのように。彼らのような人生を送ることはなかなかないだろう。でも、ちょっとした冒険に出ることは誰にだってできるはず。そんなときが来たとしたならば、僕はまたあのテーマ曲を口笛で吹くに違いない。


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