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#2-1 すし通。

昨年から一番最初に載せる本はこの本と決めていた。 「すし通」永瀬牙尚之輔 著 

昭和初期に書かれた戦前のまだ鮨屋は立ち食い屋台も少なくなかった頃の鮨文化が魚や米や酢といった食材はもちろん、その食べ方、店での過ごし方、まで作家個人の鋭い観察眼から紡ぎ出された事細やかな見聞とエピソードで幾重にも紡がれている。 

その一つ一つは、現代のファッションをはじめ食文化にも大きく欠落しつつある「文脈」や「その理由」に言及しているものが多い。 

それは同時に食に於ける「粋」の文化にも大きく関わるものであり、口にすることはなくともそれらを知っているか否かは、例えば同じ店で同じ鮨を食べる時でもその受け取る感覚の深度には雲泥の差が生まれ、その差はそのまま店での時間の豊かさの差でもあると考えられる。
こういった事は知らなくても美味しいかもしれないが知っていればより豊かなのが、時代を越えたこの「食」というもののある種の残酷性にも似た側面である。 

この中から個人的に好きな項をひとつ。 


「わさび」 

ある少年が屋台に駆け込んできた。
ボールでもしてきたのだろう。
汗をかいたので鮨ができるまでに「お茶はタダだろう?」と何杯も何杯もお代わりをした。
それを見ていたおやじの手からから鮨が🍣一貫届く。
そいつを夢中で頬張った直後ワサビがべらぼうに効いていて鼻にツーンときた。
目には大粒の涙。

「おやじ!酷いじゃないか!」

という少年におやじがすまして一言。

「ワサビもタダですからね」 

https://instagram.com/oldbooksstore?igshid=1c73rkfb1lh8n

#すし通
#永瀬牙之輔  

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