萌えを撃ち抜く忍殺プレゼン(1)SFガジェット編(下)

前記事の続きです。SFガジェットに焦点を当てて、愛を語っていきたい。少々ネタバレを含んでいますが、ご了承ください!Wasshoi!

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②アンドロイド――モータル、ニンジャ、オイランドロイド
私のようなSF素人が、SFっぽい!と思いがちなガジェットNo.1のアンドロイドだが、ニンジャスレイヤーにもしっかり登場する。作中ではオイランドロイドという名前の存在だ。一応女性型介助ロボット製品の総称……とのことだが、カスタム可能らしく男性型、少年型も登場する。その用途も様々で、家政婦、デパートのマネキン、アイドルから接待、更にはアレな目的まで幅広く用いられるようだ。
もう存在だけでも十分萌えるのだが、一番グッと来たのは「AIの叛乱」とでも言うべき事象である。高度なAIを有しつつも、本来は人間に対して従順であるはずの彼女たちの中に、自我が芽生えた例外的存在が現れる。それが熱い展開だと感じるのは私だけだろうか?

そうした視点で最もおすすめなのは、第2部「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」に登場するツギハギのオイランドロイド・エトコである。エンジニアでありながら世間になじめない程純粋すぎる青年・カキオの手によって文字通り蘇った彼女は、アンドロイドでありながらカキオのためなら戦闘行為さえ辞さず、それでいて人間のように優しく振る舞う。カキオと交わされる会話の中に光る淡い感情、彼のためにニンジャにすら抗う姿に、思わず涙が溢れる。ジャンクパーツの寄せ集めで蘇るという生い立ち、そしてそこに芽生えた人間性など、痛ましくも魅力的なキャラクターだ。そしてそんな彼女を軸に進むストーリーもまた、多分に憂いを含んだ、しかし重厚な人間ドラマになっている。

▲「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」より。
 エトコはどこまでもカキオに優しい。

そしてもう一つおすすめのエピソードは第4部「ダメージド・グッズ」である。第4部のヒロインであるコトブキを軸として、自我を獲得したオイランドロイド「ウキヨ」に焦点を当てた物語だ。ウキヨは人間を憎み、彼らと敵対して独自のコミュニティを築いている。コトブキも同じウキヨであるが、天真爛漫さが魅力であり、閉鎖空間で自我に目覚めたことからも、モータル(注:一般人のこと)にもニンジャにも分け隔てなく親切にする。どこかズレてはいるものの義侠心にあふれ、カンフーも使いこなす、カワイイ&キュートなヒロインだ。

「ダメージド・グッズ」は、そんなコトブキがウキヨのコミュニティを訪れるエピソードだ。自分と同じ自我に芽生えた仲間との接触。しかしそれは喜ばしいことだろうか?無機質な存在である彼女たちと人間との関係が、元の主人を憎むウキヨ・リンゴアメと心優しいコトブキとの対比を交えて描かれていく。そして、もちろんニンジャも出る。「第4部まで読み進めるのは大変……」と思う方もいるだろうが、ニンジャスレイヤーの特徴はカットアップ連載。それを逆手にとってキャラから入って読んでみるのもおすすめだ!コトブキはエピソードによって頻繁に衣装チェンジをするので、そこも見どころの一つだ!

なお、オイランドロイド関連では他にも「レプリカ・ミッシング・リンク」「オイランドロイド・アンド・アンドロイド」といったエピソードも魅力的だ。

③バイオテック――拡張する生命
ニンジャスレイヤーの世界では、バイオテクノロジーが高度に発達している。
サイバネと称される生体機械化技術が普遍的に浸透し、医療目的ではなくファッション感覚で自分の身体を改変できる。そしてその技術は、既存の肉体だけではなく、生命そのものにも及んでいる。その究極の到達点と言えるのが、バイオニンジャではないだろうか。バイオニンジャとは、ヨロシサン製薬(注:作中に登場する巨大企業)によって生み出されたニンジャで、忍殺Wikiによると「胚の時点でニンジャソウルを人為的に憑依させて培養された者と、通常のニンジャに対して大がかりなバイオ手術を行った者の二種類が存在する」とのこと。どちらにせよ、テックによる干渉を大きく受けていることは確かであり、生命維持のためバイオインゴッドという物質の摂取を必須とする。そして、バイオ化の度合いが大きければ大きいほど、その必要量は増える。
つまり、ニンジャという超人的な存在でありながら、テクノロジーの恩恵と呪縛を同時に背負うのが、バイオニンジャだ。
そこでオススメするエピソードが第2部「オペレイション・レスキュー」だ。これは、あるバイオニンジャの諦念と再出発を描いたものである。
そのニンジャもテックによる呪縛を受けている。その上、バイオニンジャ・サブジュゲイターのプロトタイプとして生まれた彼は、何も持たず、毎日を無為に生きていた。

そこへ現れたのが、フォレスト・サワタリである。彼はバイオニンジャたちを率いて、ヨロシサンに反旗を翻した集団、サヴァイヴァー・ドージョーを結成した。彼らが求めたものは、自由だ。そして、そのためには生き残ることが何より大切だった。

▲以上全て「オペレイション・レスキュー」より。
 ニンジャ・ディスカバリー誕生の瞬間だ。

ヨロシサンという企業、そして鏡写しの存在からの脱却。新しい世界の発見。彼らバイオニンジャは絶対にテックからは逃れられない。それでも、彼らを生み出した企業に従う必要はないのだ。
このエピソードにはバイオニンジャの苦悩と、彼らを生み出した企業との関係性、そしてそれに抗って得られる自由が凝縮されている。今回は印象的なシーンのみを抜き出したが、是非最初から最後まで読んでほしい。
バイオニンジャが活躍するエピソードとしては、第1部「アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル」や第3部「デス・トラップ、スーサイド・ラップ」などがある。物理書籍限定ではあるが「アンタッチド・ベイビー・アンド・シーワー・モンスターズ」も必読だ。サヴァイヴァー・ドージョーの面々は第4部でも活躍が見られる。もちろん企業サイドのバイオニンジャの活躍も必見だ。

【今回取り上げたエピソード】
※「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%DE%A1%BC%A5%E1%A5%A4%A5%C9%A1%A6%A5%D5%A5%ED%A5%E0%A1%A6%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A5%A6%A5%A9%A1%BC%A5%BF%A1%BC%A1%D7
※「ダメージド・グッズ」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%C0%A5%E1%A1%BC%A5%B8%A5%C9%A1%A6%A5%B0%A5%C3%A5%BA%A1%D7
※「レプリカ・ミッシング・リンク」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%EC%A5%D7%A5%EA%A5%AB%A1%A6%A5%DF%A5%C3%A5%B7%A5%F3%A5%B0%A1%A6%A5%EA%A5%F3%A5%AF%A1%D7
※「オイランドロイド・アンド・アンドロイド」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%AA%A5%A4%A5%E9%A5%F3%A5%C9%A5%ED%A5%A4%A5%C9%A1%A6%A5%A2%A5%F3%A5%C9%A1%A6%A5%A2%A5%F3%A5%C9%A5%ED%A5%A4%A5%C9%A1%D7
※「オペレイション・レスキュー」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%AA%A5%DA%A5%EC%A5%A4%A5%B7%A5%E7%A5%F3%A1%A6%A5%EC%A5%B9%A5%AD%A5%E5%A1%BC%A1%D7
※「アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%A2%A5%DD%A5%AB%A5%EA%A5%D7%A5%B9%A1%A6%A5%A4%A5%F3%A5%B5%A5%A4%A5%C9%A1%A6%A5%C6%A5%A4%A5%F3%A5%C6%A5%A3%A5%C3%A5%C9%A1%A6%A5%BD%A5%A4%A5%EB%A1%D7
※「デス・トラップ、スーサイド・ラップ」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%C7%A5%B9%A1%A6%A5%C8%A5%E9%A5%C3%A5%D7%A1%A2%A5%B9%A1%BC%A5%B5%A5%A4%A5%C9%A1%A6%A5%E9%A5%C3%A5%D7%A1%D7

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以上3つのテーマに沿ってエピソードや設定を紹介した(自分の愛に忠実に書いたので、独りよがりなところもあるが)。最もアピールしたかったのは何かというと、ゴリゴリの文系人間でも楽しめるサイバーパンクがニンジャスレイヤーという作品だということである。

私はニンジャスレイヤーに出会うまで、そもそもSFというジャンルに接してこなかった。何か小難しいと思っていたので敬遠していたのだ。しかし、そんな私でもかっこいい!と思える設定がそこにはあった。ニンジャスレイヤーはシンプルではあるが、多様で奥深い。SF描写も分かりやすいが、決して薄っぺらくはない。この作品をきっかけとして他のSF作品も知ることができたし(もっともサイバーパンクではなくディストピアにハマったが)、SFガジェットのかっこよさも知ってハマった。やはり、忍殺は萌えの地雷敷設地帯なのだ。

SFに興味がある人も、そうでない人も、とりあえず読んでみると新しい扉が開けるかもしれない。あなたの良い萌えが見つかりますように!それでは!

(了)

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