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チーム竹島の見果てぬ夢 第7章 クレイになれなかった男  最終回

チーム竹島の見果てぬ夢 ・・・これは30年程前に出版された本を加筆訂正し、再録しています。1990年代から始まる日本人選手の世界進出と大躍進のきっかけをつくった「チーム竹島」を助監督として追いかけた遠藤智が書くノンフィクションです。全7章、全7回でアップします。第1章「竹島将の死」 第2章「大きすぎる夢」 第3章「ヨーロッパに」 第4章「レースの興奮と空しさ」 第5章「嘘と憎しみ合いと」 第6章「夢の残がい」 最終回となる第7章は「クレイになれなかった男」です。第1章はチームオーナーの死というちょっと重苦しい空気の中で始まりますが、第2章はチームが活動を開始、第3章ではいよいよヨーロッパラウンドへと旅立っていきます。そして第4章では、スペインのヘレスで、いよいよヨーロッパラウンドがスタート。第5章はスペインGPからイタリアGPへ。第6章ではイタリアGPの敗因を巡り、チーム内に不協和音が響いたままヨーロッパラウンドの闘いは進んでいきます。最終回となる第7章は、第1章がスタートした(西)ドイツGPへと話は戻っていきます。

「竹島将の考えていたこと」

イタリアGPが終わった。
記者たちがサインボードエリアのぼくたちの所に集まる。イタリア人の記者が尋ねる。「これでランキング2位を確保して、しかもトップとの差はわずか1ポイント」。

フランス人の記者が言う。「ついに世界ランキングトップが間近になりましたね」

さまざまな言語が飛び交う中で、ぼくも、助監督の遠藤も、メカニックの戸堀も無言だ。

「竹島さんの感想は?」
「いい所まで来たと思うよ」
「日本人としてはトップとの差が1ポイントなんてのは、初めてですよね」
「ああ」

気のない返事しか出ない。

「去年までこういうレースを落としてきましたよね。それを拾うってことは、シーズンのポイント争いにとっては重要ですよね」

ぼくは無言で頷いた。ピットを出る。

遠藤が言った。
「タイヤ・トラブルですか」
「おそらくな」

高田がパドックのキャンプに帰ってくる。
「すみません……」それ以外に言葉がない。
戸堀が続けて言った。
「すみません。タイヤのチョイス・ミスです」
「チョイス・ミスとはどういうことだ」
「決勝前にタイヤ・メーカーから勧められたタイヤを使ったんです」
怒りがぼくの頭を走った。
「1回もテストしていないタイヤをか!」
「はい」
「なぜ!なぜ、そんなばかなことをした!」

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