見出し画像

チーム竹島の見果てぬ夢 第2章 大きすぎる夢

第2章 大きすぎる夢

チーム竹島の見果てぬ夢 ・・・これは30年程前に出版された本を加筆訂正し、再録しています。1990年代から始まる日本人選手の世界進出と大躍進のきっかけをつくった「チーム竹島」を助監督として追いかけた遠藤智が書くノンフィクションです。全7章、全7回でアップします。第1章「竹島将の死」 第2章「大きすぎる夢」 第3章「ヨーロッパに」 第4章「レースの興奮と空しさ」 第5章「嘘と憎しみ合いと」 第6章「夢の残がい」 第7章「クレイになれなかった男」。チームオーナーの死というちょっと重苦しい空気の中で第1章は始まりますが、第2章では「チーム竹島」がいよいよ動き出します。購読よろしくお願いします。

「竹島将との不思議な出逢い」

年があけても、相変わらず何もしない日々は続いていた。そんな毎日の中で、朝、駅に新聞を買いに行くのが唯一の楽しみだった。

ぼくの家は小田急線の経堂駅から歩いて5分のところにある。会社に、そして学校に出かけていく人々に混じって駅のキオスクまでスポーツ新聞を買いに行くのだ。

新年を迎えてなんとなく張り切って見えるサラリーマンや学生を横目に、新聞を片手にまた来た道を戻るというのは結構寂しいものだった。ぼくの生まれ育った北海道だったら「あそこのご主人は何をやっているのだろうね。こんな朝からブラブラして」と言われるのだろうなあとすれ違う人たちを見てそう思っていた。

ぼくの故郷に比べればはるかに暖かい東京だが、これからどうなってしまうのだろう、そう思うと身も心も寒々とする東京の冬だった。

「将来、どうするつもりなのかね」こんなぼくを見て、出産を間近に控えた妻の父と母は心配していた。

会社を辞めると聞いただけでも十分驚いたはずだ。それが今度は大事な孫をつれてヨーロッパに行ってしまうというのだ。一体、何を考えているのだ。そう思われても仕方がないことだった。

「作家になるのです」と言い切るほど自信もないし「何か文章を書いて食べていければいいなと思っています」と曖昧に答えている自分に腹が立った。こんなことでは本当はいけないのだが、自分がいままで生きてきた30余年を思うと確実なことは何ひとつなかった。それを思うと、こんないい加減な返事が精一杯だった。

とにかく、いま確実に言えることは、「今年は取り敢えずチーム竹島の助監督として世界GPに行く」ということだけだった。

ここから先は

11,935字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?