小学1年生が「風来のシレン6」をクリアした
私が「とぐろ島の神髄」で苦闘するさまを、7歳の息子が熱心に見ている。
マムルという敵キャラが可愛くて、お気に入りのようだ。
「この子が赤くなると、すごく強くなるんだよ」と私は言う。
「おもしろそう」と息子が言う。
冒険の旅がはじまった。
とぐろ島3Fで倒れる
子どもの頭はやわらかい。
ものは試しと動いているうちに、基本的ルールを理解した。
最初の洗礼がもたらされたのは、開始から10分後のことだった。
「かぼちゃのおばけだ」
自ら一歩を踏み出すと、パコレプキンに殴られた。
それだけでHPがゼロになった。
「おわった」
ゲームの画面が、最初の村にある民家の敷き布団に切り替わった。
それは幾度となく、彼がこれから目にすることになる光景だった。
どんなにレベルをあげても、
どんなに道具をあつめても、
倒れたらすべてが失われる。
それが風来のシレンの特徴だった。
息子はゲームを中断し、「ポケットモンスター スカーレット」の続きをはじめた。
とぐろ島4Fで倒れる
次の日になって、彼はとぐろ島4Fに歩を進めた。新記録だった。
パコレプキンが2体あらわれた。
右から殴られて、左から殴られて、たちまちHPがゼロになった。
ゲームの画面が、民家の敷き布団になった。
かなしみを抱えて、息子とともに公園に出かけた。
とぐろ島1Fで倒れる
マムルに囲まれ、焦るあまり、虚空の方角に拳を突いた。
小さなダメージが重なった。そうしてHPがゼロになった。
民家の敷き布団になった。
コントローラーを投げ出して、ひと呼吸があった。
小学1年生は、再び、コントローラを手にとった。
新たな冒険がはじまった。
インタビュー
——好きな敵キャラは?
「オトト大将。
可愛いから」
——嫌いな敵キャラは?
「パコレプキン。
飛んでくるから」
——好きな罠は?
「オナラの罠。
おもしろいから」
——嫌いな罠は?
「影縫いの罠。
動けないから」
——好きなアイテムは?
「妖刀かまいたち。
はじめて拾った武器だから」
——嫌いなアイテムは?
「呪われている腕輪。
外せないから。
かなしい気持ちになるから」
——新しい敵キャラを考えてみて?
「メ〜キング。羊の鳴き声とmakingのだじゃれ。勝手に悪いアイテムをつくる敵だよ。たとえば、シレンの薬草を奪い取って、毒草をつくっちゃう」
「新しいモンスターハウスも考えたよ。痛恨の一撃ハウス。ミノタウロスだけが出てきて、最初のダメージがぜんぶ痛恨の一撃になっちゃう」
とぐろ島12Fで倒れる
クロスボウヤーの鉄の矢がヒットした。志半ばの出来事だった。
けれども彼は、その技量をめざましく向上させていた。
敵に囲まれたら通路へと向かう。1対1の状況に持ち込んでいく。
HPが減ったら無理をしない。いったん退いて回復のターンをとる。
アイテムを惜しまずに使っていく。悲観と楽観をバランスさせる。
7歳の息子は、言葉の羅列ではなく、父の背中から学んでいた。
巨大なおにぎりを腐らせた背中から、
お店で高飛び草を誤飲した背中から、
拾えずの巻物のせいで星の石を拾えなくなった背中から、
かつて「風来のシレン2」で受験に失敗した背中から、
かつて「アスカ見参」で大学を留年した父の背中から、
二十余年の時空を超えて、息子は学んでいたのであった。
とぐろ島20Fに到達する
罠を利用して毒矢を稼ぐ。行商人を挟んでデブータの石を投げ、ノーダメージのまま鬼サソリを倒す。アイアンヘッドの遠隔攻撃を喰らわぬよう、ナナメ移動を駆使して逃げる。
それでも敵がどんどん強くなる。どうするか。どうなるか。
呼吸が浅くなる。Switchのコントローラーが手の汗でしめる。
今日はいったんお休みにしよう。
自らを制する者が人生を制するのだから。
とぐろ島をクリアする
31階。ついにジャカクーが現れた。雪辱戦のはじまりだ。
ジャカクーに毒矢をぶつけたら、なんと、逆にパワーアップしてしまった。泣きそうになった。それでもマゼルンの合成で鍛えられたトドよけの盾が耐え抜いた。真空斬りの巻物の使いどころも時宜を得ていた。途中から気づいた痛み分けの杖も良い仕事をした。そのまま勝利に持ち込んだ。干天の慈雨が降りそそぐ。そうしてエンディングが訪れた。
凱旋的に挑戦したドスコイダンジョンも一発でクリアした。階段を迷わず降りるところなど、なかなか堂に入ったプレイスタイルだった。
しかし、私はふと思うのだ。こんなに幼い段階でシレンを覚えさせたのは、倫理的に正しい行いだったのか。その先に待っているものは何だろうか。もはや戻ろうとして戻れない、最果てへの道ではないだろうか。
画面の外から炎が飛んできた。
新たな冒険がはじまった。
(この記事は、「超旅ラジオ #146」のアウトテイクスです)