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馬日記・その8

2004年3月15日
@ Rainbow Gathering in Costarica

 朝一番にテントの横に作った瞑想スペースにて、瞑想する。日本を出る直前に行った、京都のVipassanaセンターで得た感覚が、だいぶ薄れてきている。内観を続けながら、内側の感覚を観察するのが難しくなっている。

 朝食後にはHorseCaravanの集まりがあった。インドでのラクダでの砂漠の横断、南米大陸をアンデス山脈を越えての馬旅、などのキャラバンをオーガナイズしてきたヨヨの話を聞き、とてもワクワク、ドキドキとした。ぼくの他にも、メメをはじめとした南米のキャラバン・メンバーや、ぼくと同じようにこれからの馬旅の参加すべく話を聞きにきている人たちがいた。

 お話会の後は、メメのテントに言って、クリスティーナと彼女のリスも一緒にポップコーンを焚き火で作って食べた。クリスティーナも南米をずっと馬で旅していたメンバーだが、これからのキャラバンには参加しないと言っていた。

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自分のテントに帰って、ちょっとのお昼寝のつもりが、「あぁ、よく寝た」と思って起きたら、もう夕食の時間だった。お昼寝を一杯したにも関わらず、夜もまたぐっすりと眠ることができた。Rainbow Gatheringについて数日を過ごし、ようやくここの気候や、時間の流れに慣れてきて、気持ちも体もやっと緩んで来たのかもしれない。本当に、ここ数ヶ月、人生の節目というのだろうか、色々なことを気を張りながら通過してきたものな、、、。

2004年3月17日(水)

 朝食の後に、Horse Caravanにこれから参加する仲間たちでピックアップトラックをチャーターして、地元のFarmを巡り、馬を見て回った。

 そうか、馬を調達するところから、キャラバンが始まるのか。一から、キャラバンが始まっていくところに参加できて、とても嬉しい。と言っても、僕はスペイン語も話せないし、馬の経験も皆無だし、ただ、後についていくだけなのだけど。

 Rainbow Gatheringに辿り着いてからは、ずっとこの山の中だけにいたので、外に出て、コスタリカの様子を感じられるのは嬉しかった。ここは牧畜がとても盛んなところなようで、至る所で有刺鉄線向こうに牧草地が広がり、牛たちがムシャムシャと草を喰む様子が広がっていた。そして、馬の姿も少なからずの数を見かける。ヨヨの話によると、どうやら、良さそうな馬がいたら、その馬を買えないかと地元の方達に交渉をしていくらしい。

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 トラックの荷台で揺られて、赤土の凸凹道を走ると、あるFarmについた。どうやら、ここにたくさんの馬がいるらしい。ヨヨがトラックドライバーや、地元の人たちに尋ねて、馬を売ってもらえそうな場所の情報を得たのだろうか。

 Farmのオーナーだろうか、いかにもカウボーイといった感じのおじさんが出て来たので、挨拶をして、しばらく話していると、たくさんの馬がドドドと目の前の柵の中に連れてこられた。わあ、なんともたくさんの馬だ!今まで、馬と触れ合った経験のないぼくは、とても興奮した。今日一緒にきたメンバーの中にも、ぼくと同じようなリアクションをしている人たちがたくさんいた。

 ゲートを開けて、ぼくたちも柵の中に入り、馬の近くの行ってみた。とても大きく、獣の匂いがした。これが、馬の匂いなのか。はじめての感覚が体のうちに起こっている。しかし、こんなにも無条件に、ぼくだけじゃなく皆が一様に、こんなにも目を輝かせて馬と対峙している様子は、どのような理由なのだろうか。この沸き立つ感覚に、馬と人間の歴史が確かに、ぼくの遺伝子情報にも残っている気がする。

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 はじめは、馬たちも緊張している様子だった。いや、それは、ぼくたちが緊張していた鏡写かもしれない。馬との間に強ばった空気を感じる。しかし、Farmの人たちや、ヨヨや数人のキャラバン経験者の様子を見ていると、その緊張した空気は感じない。とても朗らかにお互いに接している。

 しばらくすると、ぼくも馬との間合いに慣れてきた感もあり、歩みよっていくことができた。馬は耳をピンと立て、まだ緊張している様子にも見えるが「大丈夫だよ」といって鼻筋を撫でさせてもらった。一度この距離まで入ることができたら、なんとも一体感が生まれ、馬の体温までも感じるぐらいだった。撫でる手の平にその温もりを感じる。「馬に鼻にそっと息を吹きかけてあげると、仲良くなれるよ」と聞いたので、口からフーッと息をかけると、馬の鼻息もぼく顔にかかった。

 はじめての馬との交流は、とても豊かであり、これから馬たちと寝食を共にする馬旅のことを思うと、どれだけの経験になることだろうと胸が高鳴った。

 こちらもすっかり慣れて緊張が取れたのと、照りつける太陽に疲れて、木の柵に寄りかかって地面に座った。ある一頭の馬が、歩み寄って来たので、手を伸ばして撫でようとした。次の瞬間、馬の足が目の前に飛んできた。とっさに、防御しようとしたのだろうか、体を覆った腕を思いっきり蹴られた。みんなの、朗らかな楽しい空気が止まったの感じた。遠くから「馬の死角から不意に体を触ってはダメだ!下から、お腹を触るのは馬が嫌がるぞ!」と、誰かが叫んでいるのが聞こえた。

 痛みと、しょんぼりした気持ちで帰りのトラックに揺られていた。とにかく、痛い。骨折はしていなそうだが、大きなアザになってきた。キャンプに戻ると、どうも体が熱っぽくもあり、できることといったら、ただ横になってうずくまっているしかなかった。もう、夕食のサークルにも行かずに、そのままテントの中でその晩を過ごした。

 「どれだけの経験をすることができるだろうか」との期待には、どうやら、こういった痛みや辛さもたくさん含まれていそうだ。ちょっとづつ学んで、強くなっていきたい。

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