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ぼくの旅路 #15

【エゴを見つめる・ネイティブアメリカンの教え】

当時のわたし:26歳

[エゴイズム:社会や他人のことを考えず、自分の利益や快楽だけを追求する考え方。また、他人の迷惑を考えずわがまま勝手に振る舞うやり方。利己主義]

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*** 当時の日記より ***

7/19 Tue.

 一日の仕事が終わって、自分たちのテントに戻ってきた時にグラスホッパーがやって来て、「もう最後のチャンスだ。踊るのか、踊らないのか、答えを聞かせててくれ」と言った。少し話し、「後でぼくから話しにいく」と答えた。

 もう踊るのか、踊らないのか、ずっと考えているが本当に答えを出すのが難しい。踊り終わった時の自分と、踊らなかった時の自分を想像すると、踊り終わった時の充実感、ダンサー同士の絆、名誉、ピアスへの恐怖へ打ち勝ったことへの自信が、ぼくを満たした。4年踊り続けることを考えると確信がないが、今は先のことではなくて、この目の前にあるサンダンスをやりきることだけを考えれば良いと思った。そして、サインを信じようと思った。今日も虹が出た。ぼくが踊る必要があるのならもう一度虹が出ると信じていた通りだった。そして、踊ることを決めた時、こころがスーッとすっきりと晴れた気持ちになった。

 夕食を食べている時、向こうで男達の歌が始まった。ぼくもそこに加わって、歌い、踊った。この人達、この場所、そして、このチーフなら踊る価値がある。そして、踊りきれると思った。最後にチーフのハリーがサンダンスについて語った(全部はしっかりと理解できなかったけど。おじいちゃんのハリーの英語は、聞き取りづらい…)。しかし、彼の話を聞いている時に、またモヤモヤがこころの中で出て来た。きっと、ハリーの話を聞いているうちに、再びサンダンスの意義を自分に問いかけていたからだろう。何故、ぼくは踊りたいのだろうか。そして、また決断がゆるぎだした。こんなにも、気持ちが揺れてしまうのは恐怖と自信のなさなのかと思った。それならばこそ、今がそれに打ち勝たなければいけない時なのかと感じた。

 一人になるために自分のテントに戻り、瞑想をした。もう一度、気持ちを整理したかった。サンダンスを踊るか、踊らないか、それは、グラスホッパーに誘われたのがきっかけだった。ぼくは、その誘いをとても名誉に思った。彼は「君がイエロー・ネーションの代表として、私たちと踊って欲しい」と言っていた。そして、サンダンス会場となるイーグル・ビュートに来てからも、同じことを何人にも言われた。ぼくは、その名誉を欲しいと思っていた。サンダンスという大きな挑戦に打ち勝ち、自分をもっと大きく成長させたいと思っていた。ピアスへの恐怖を克服したいと思っていた。これが正直な気持ちだった。そして、こうして改めて自分がサンダンスを踊りたいことの動機を整理して並べてみたときに、これらの気持ちは自身のエゴから来ていることを、認めないわけにはいかなかった。これは、ぼくが人生で、はじめてありありと自身のエゴを見つめ、エゴの所在をはっきりと認めた瞬間だった。

 ぼくがここに来てサンダンスについて学んだことは、「犠牲」だ。誰かを助けるために自分の命を捧げることをいとわない。これが、サンダンスの全てで、その他の何ものでもない。そのことを、あの兄弟から教えてもらったサンダンス創世記の歌や、彼ら自信の姿、チーフの話しから理解した。そしたら、ぼくは、誰のために、何のために、自分を犠牲にしてまでこのサンダンスを捧げたいと思っているのだろうか。誰か特定の助けたい個人がいたわけではなかったが、現在の地球を憂う気持ちから、「この地球のために、祈りを捧げたい」という気持ちはとても強かった。しかし、それと同時に、自分のエゴのために踊りたいと思ってしまっていることに気付いてしまったのだ。ずっと、名誉を勝ち得たい、そのチャンスが今あるのだ、このチャンスを逃したくない、と思っていたからこその踊るか踊らないかの悩みだったのだ…。それは、とても悲しいことだけど…。ぼくのサンダンスへかける思いは純粋さに欠けている。踊る時ではなかったのだ。踊るべきではなかったのだ。しかし、その気持ちの背後には、まだ名誉への未練が強くある…。

 仁恵が、わざわざぼくのテントのところまで「スエット・ロッジがあるよ」と呼びに来てくれた。ぼくは「グラスホッパーと話す必要があるから、やめておくよ」と答えた。そして、テントから出て、みんなが集まるテントの所に行った。あたりは、もうだいぶ暗くなっていた。早く、グラスホッパーに話しに行かなければと思った。マコと仁恵はスエット・ロッジに行き、ぼくは一人でまだ決断できずに座って考えていると、あの兄弟の弟がやって来て「一緒に座ってもいい?」と話しかけてくれた。ぼくは、「もちろんだよ」と答えたけど、こころの中では、はやくグラスホッパーに話しに行かなければと焦っていた。けれど、このタイミングで彼が現れたことには、何か意味があるのかもしれないとも感じていた。

 はじめは、世間話をしていたが、ぼくはたまらずに「グラスホッパーに話しに行かなければいけないんだよ」と彼に伝えた。「どうして?」と聞かれたので、サンダンスを踊るか踊らないかの答えをしなければいけないこと、そして今抱えているぼくの気持ちを率直に話した。彼は「チーフである父がやりたいサンダンスは、本当の、もともとの意味でのサンダンスなんだ。誰かのために踊るんだ!もちろん中には、自分への挑戦のために四日間をのぞむ人たちもいる。けれど、それは本当の意味でのサンダンスではないよ」と言った。その言葉を受けて、ぼく自身の中にもサンダンスに対して個人の大きなエゴが存在していることを感じていると伝えた。だからこそ、こんなにも悩んでいるのだと伝えた。ぼくが話し終えると、彼は真直ぐにぼくの目を見て、「きみはいい奴だ」と言った。

 そして、グラスホッパーが、向こうに歩いていくのが見えた。ぼくは、彼に追いつき、彼のテントまで一緒に歩いていき、腰を下ろして落ち着いたところで「ぼくは踊らないことに決めた。あなたがぼくを誘ってくれたことをとても名誉に思っている」とだけ伝えた。ぼくは、それ以上は何も言わなかった。

 彼はしばしの沈黙の後に、「わかった」と一言だけ言った。それから、今までの全てを飲み込んだかのような深い呼吸をした。そして、彼は顔をぼくに向けると、その目にはすでに新たな光が宿っていた。「このパイプをきみに持っていてほしい。これは、きみがサンダンスを踊る決断をした時のために、私の手で作ったものだ。パイプストーンの原石から君のことをずっと想いながら彫って作った聖なるパイプだ。きみが踊らないと決断した今でも、私はこのパイプを、私の祈りとともに、きみに捧げたい」。ぼくは、申し訳なさとありがたさからの戸惑いの表情を浮かべ、黙ってパイプを受け取り、彼の気持ちを受け取り、彼と深いハグをした。彼のこころの大きさには、いつも魂が揺すぶられる。ぼくは、自分のテントへの暗い道を歩きながら、内側から大きく震えるような感覚を覚えていた。グラスホッパーが捧げてくれた気持ちとパイプを携え、ぼくは、力のかぎりダンサーたちを、ここにいる皆と共にサポートする気持ちに溢れていた。それは、今では、何にも代えがたい自身の存在意義への喜びとなっていた。

 明朝、日が昇ると共に、サンダンスの儀式が始まる。

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