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【商業BL感想】窮鼠はチーズの夢を見る/俎上の鯉は二度跳ねる【修正前Ver.】 水城せとな

【旧ブログより】
2017年6月13日 (火)
少女漫画(恋愛もの)すらまともに読んでこなかった私が迂闊にも予備知識なしで、一番初めに手を出してしまったBLマンガがこの作品。

備忘録など必要ないくらい忘れられない作品となっている。

ざっくり言うと、大学時代の先輩(ノンケ)・恭一と後輩・今ヶ瀬(ゲイ)がくっついたり離れたりまたくっついたりする話。

【大きくネタバレ含むあらすじ】
(未読でネタバレNGの方は以下読まないで)

20代後半の既婚サラリーマン恭一の前に、妻が依頼した浮気調査の調査員として現れたのが、大学時代の後輩の今ヶ瀬。浮気の情報を握りつぶす交換条件として、今ヶ瀬は、恭一の身体を要求してきて…

結局なんやかんやで恭一が離婚し、今ヶ瀬が押しかけ女房的な存在になるものの、恭一はモテるのでふらふら流され、言い寄ってくる女性と関係を持つということを繰り返す。今ヶ瀬のことはかわいいとは思うが、ゲイではない恭一は今ヶ瀬に対する気持ちが恋愛感情とは思えないけれど、今ヶ瀬との関係が楽だし心地よいので、ただ流されていく。

というのが「窮鼠はチーズの夢を見る」

これで終わっていても、面白かった。これだけで十分なのに、この話には

重~い重~い続きがあった。

後半の「俎上の鯉は二度跳ねる」では、今ヶ瀬×恭一で固定しつつあったところに恭一に想いを寄せる女・たまきが登場。たまきの存在が固定化しつつあった二人の関係に影を落としていく。

恭一を好きすぎて、たまきの登場による嫉妬と不安から今ヶ瀬はどんどんおかしくなっていく。恭一はたまきに今ヶ瀬を友人として紹介し同席させ、たまきに嫉妬する今ヶ瀬をかわいいと思ったりもする。そしてこのあたりで恭一×今ヶ瀬というリバが発生。そのことにより、恭一は自分の中に今ヶ瀬に対する恋愛感情のようなものに気が付くが、自分がゲイではないから今ヶ瀬の望む愛し方をしてやれないと思い、たまきに嫉妬して衝動的に別れを切り出した今ヶ瀬に同意しあっさり別れてしまう。しかし、別れてから今ヶ瀬の自分に対する気持ちと、自分の今ヶ瀬に対する気持ちを自覚して、罪悪感と後悔に打ちひしがれていたところに運悪く(?)たまきが遭遇し恭一に告白。恭一は自分には好きになってもらう資格がないと拒絶するが自分は恭一が恋人と別れたと知って喜んでいると食い下がるたまきと流れで関係を持ってしまい、めでたく交際開始。

今ヶ瀬との別れで大人になった恭一は、たまきと真面目に付き合い始める。交際開始から半年程経ち、過去の恋愛相手(今ヶ瀬)のことを聞きたがるたまき。たまきからの「前の相手にまた会いたいか?」との問いに「会いたくない」答える。たまきに、そろそろ親に会ってほしい言われ了承するものの、恭一は別れて以来音信不通の今ヶ瀬のことを考えていた。

そんななか運命のいたずらか、たまきにストーカーをする輩が出現。今ヶ瀬と恭一の関係を知らないたまきは、恭一に内緒で今ヶ瀬(の調査会社)に調査を依頼していた。そしてたまきがそのストーカーに襲われてしまいケガをし入院(軽症)。その病院の廊下で今ヶ瀬と恭一は再会する。

たまきに嫉妬して助けるのを躊躇してしまったと動揺する今ヶ瀬が、どうしても恭一の部屋で話をしたいと言ったため、二人は病院からたまきと半同棲状態となっている恭一の部屋へ移動する。すっかりたまき仕様となってしまった恭一の部屋で、まだ恭一を忘れられない今ヶ瀬は衝動的に別れを切り出したことを悔やんでいると言い、彼女と別れなくていいからせめて愛人にしてくれとすがったが、恭一は「お前なんて俺が女だったら洟もひっかけなかったくせに」と冷たくあしらう。

何を言っても流される気配のない恭一の態度に、もう終わりだと思う今ヶ瀬だったが、部屋に自分が使っていた灰皿が残されているのを見つけると、最後の攻撃(?)に出る。

しかし、今ヶ瀬の最後の攻撃にも「意外とつまんないことしか言わなかったな」と言う恭一。万策尽きたと白状し、怪我して病院にいる彼女のことなんて構わず、出ていく自分を力ずくで引き留めて朝まで抱いてくれ、と懇願する今ヶ瀬。

何も言わず黙って聞いていた恭一だったが、本当に出ていこうとする今ヶ瀬を力ずくで引き留め、今ヶ瀬が望んだとおりに無理やり抱いた。たまきと寝ているベッドで。

そしてこの後ここでまた今ヶ瀬×恭一のリバ!で結局朝まで過ごしてしまう二人。

たまきには前の相手に会いたくないと言った恭一だったが、今度会ったら“自分が完全に落ちてしまう”ことを自覚していたので会いたくなかったのだった。

たまきと別れることを今ヶ瀬に告げた恭一は、冷静になった今ヶ瀬に、たまきと別れることを止められるものの、今ヶ瀬が「自分との絆が欲しい」と言ったことで、今ヶ瀬を選ぶことを改めて決意する。

翌朝、雪が降り交通機関が乱れる中、恭一はたまきと別れるために、部屋に今ヶ瀬を残し病院へ向かう。

病院でたまきに「前の相手が昨日戻ってきたから君とは別れる」と告げ、家に戻る恭一。

しかし家に戻ると、今ヶ瀬の姿はない。

探しに外に出ると、バス停で、バスを見送る今ヶ瀬を見つける。ずっとそこで待っていたのだろう、肩に雪を積もらせたたずんでいた。

恭一は「俺とやっていきたいなら腹をくくれ」と言い、今ヶ瀬のために指輪を買うと言う。それでどうなるってわけじゃないけど何かの証くらいにはなるだろうと。すると今ヶ瀬も、自分もあなたに指輪を買うと言う。それでどうなるってわけじゃないけど何かのお守りくらいにはなるだとうと。

【感想】

こんなに読んだことを後悔した本はない。

この本にさえ出合わなければ、私の人生は違っていただろうと思わせる作品。

読んだ直後は本当に後悔したし、できればこの作品を知らずに人生を終えたかったとさえ思った。実際、これを読んでしまって、しばらくBL拒絶状態に陥ってしまったくらいだ。

でも後から考えるとBLっていうよりも、水城せとな作品の洗礼を受けただけだったことがわかった。

とにかくもう重い。登場する人物がみんなズルくて愚かで腹が立つけど憎めない。それぞれがみんな自分のことしか考えてなくて、なんだかヒリヒリしてくる。

基本的には今ヶ瀬を応援したいけれど、全面的に応援できない今ヶ瀬のウザさと不安定さ。

たまきをしたたかな女という悪者にしたいけど、よく考えると被害者じゃん?ていうかふつうにかわいそうだよ。好きになった相手が悪かったね。でも彼女は自力で幸せになれるから心配なさそう。

あと、恭一は、流される優男として描かれた「窮鼠はチーズ~」と、成長していい男になっている「俎上~」の後半で印象が変わっていて、今ヶ瀬応援の立場からすると、成長していい男になった恭一が今ヶ瀬を選んだっていうのがうれしくもあったけど、今ヶ瀬も早く大人にならないと捨てられてしまうぞと思う。

結局、今ヶ瀬は一目ぼれをこじらせて理想と現実の折り合いがつけられずに大変なことになってしまったけど、恭一はそういう今ヶ瀬をかわいいと、愛す可しと思ってしまった訳だから、より深く堕ちているのは恭一の方なわけで、それは「窮鼠~」の方のエピソードで、灰皿の吸い殻を捨てられなかったところから暗示されているのかなぁと思ったり。結局のところ執着の深さは両者それほど大差ないようにも思えるし、今でいうところの両片思いというやつなのかなぁ。

ノンケとゲイの隘路。それは男と女に置き換えることもできる。

でも、同性なのにわかりあえないという、より深い絶望。でもこれは思い込み。性差なんて関係ない。同性だろうと夫婦だろうと肉親だろうと分かり合えない関係はいくらでもある。この思い込みが、今後この二人を苦しめていくのかもしれない。でもこの思い込みがあるからこそ、歩み寄ること、相手を理解する努力が続いていくのだろう。

異性愛と同性愛に何の違いがあるのかな?区別する意味って何だろう。

私は異性愛者だから、今は同性を好きになる感覚はわからないけど、今後同性を好きにならないとは言い切れないと思っている。

そんなことを考えさせられる作品だった。

明らかにあらすじ書きすぎたから次回からはさらっと流すだけにしよう。

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