透明批評会

精緻で美しい世界の秘密 石川葉『未草独白』評

※今回は丹宗あやさん主催、透明批評会用の記事となります。
 お時間ありましたら対象作品と合わせてお読みいただけると幸いです。

まず、とにかく私が今回の作品全体を通して惹かれたのは色彩感覚でした。

睡蓮、群青の真夜中、月の光、青やオレンジの人工灯、文章だけだと言及される事が少ないポイントですが、個々の作品にはその言葉達から想起される色彩が渦巻いています。つまりそれを統べる作者自身の色覚が大きく反映されるという事なんですが、石川さんの作品は本当に厳選された色の使い方がされていて、透明感があって素敵です。

イメージとして近いのはイスラム教のアラベスクかなぁなんて思いながら読んでました。文体は女性的ですが、色の使い方はどこかボーイッシュな部分があって、それが独自の雰囲気を作るのに一役買っているなと思います。

あと、リズム感のある言い回しや、モチーフの選び方とか、悪い人が出てこなかったり、羊と旅に出たり、読んでいると本当に安らぎがあります。この感じはなんだろうと考えてみると思い出しました。
そうです。母親に絵本を読んでもらっていたあの感覚。

子どもに戻って、小さな宇宙の揺りかごに乗せられてゆらゆら揺られているようですね。
こういうのも、伝え手と受け手の呼吸のリズムというか、そういうものが近くないと駄目なんですが。。

つまる所、私には石川さんの魅力的な世界観が十二分に伝わってきましたが、おそらく石川さんとしてはより多くの人に広めていくにはどうしたらいいかというのが知りたい所なんですよね。分かります。作品は自分の子どもみたいなものですから、いつまでも日の当たらない場所に置いておくのは忍びない。できればよりスポットライトの当たる場所に出してあげたい。出してあげた上で、「みなさん、あれは私の娘ですよ!」と世間に触れ回りたい。…あ、これは私だけかもしれません。

どうしたらより多く人に届くようになるのか、一つ明確な答えがあるとしたら、やっぱり作品の世界観を徹底的に深めて、分量を広げていく事だと思います。指輪物語ですとか、ハリーポッターですとか、先例はいくつもありますが、それすらも凌駕するような作品を作るつもりで、徹底的に他をぶっちぎる。目指すは児童文学の分野で首位独走というやつですね。偉いお坊さんが、瞑想を深めれば深めるほど、「...宇宙を感じる」とか言い出すあの感じです。


ともかく、そういうわけなので石川さんがより作品を深め、広げていくにはどうしたらいいかという視点で、拙いですがいくつか思いついた事を挙げていこうと思います。

1 羊は喋れないのか?

最初から最後まで旅のお供をしてくれる羊達。どうやって睡蓮と意思疎通しているの?睡蓮とはいつから友達なの?名前はあるの?とか、色々と気になる所です。今の所、役割的には乗り物だけに留まっていますが、二匹の羊とこの世界のかかわりをもう少し増やすと、後々羊が物語を深める手伝いをしてくれそうですね。その理由は3で後述します。

2 睡蓮はどうやって羊の背中に乗るのか?

無粋な話しですが、しかし根を張って動けないはずの植物を移動させる方法、これに三日月ランタンのようなアイディアがあるといいですね。
私は今、意志を持った草原の話を作っているのですが、その草原は根っこが一つに繋がっていて、移動する時は草の部分を枯らして根だけで地中を移動します。今は私の作品の話なんてどうでもいいんですが、こういうアイディアって考えるの本当に楽しいですよね。…あ、これも私だけ?

3 イーハトーブの下りがちょっと難しいよ。

これは他の方からも質問があったみたいですが、特に二番になってからの語りのリズムのギアチェンジ。読んでいてここで躓く人が多いようですね。賢治作品愛していて、なおかつ震災に関して現実の光景を目の当たりにした石川さんだからからこそ、伝えたい事が多くなるのもうなずけます。

そこで思いついたんですが、そうであれば睡蓮ちゃんだけ語るに任せず、他のキャラクターにも上手く手伝わせた方がいいのでは、と思いました。そこで候補はさっき言った羊達。最初から最後まで旅のお供ですし、流れを崩さず、世界観を壊さず、しれっと話しに加えれそうな気もします。まぁ、それだとタイトルが独白ではなくなりますが。。
ともかくキャラクターを色々動かしながら状況を体験させていく方が伝わりやすくなるのかなぁとも思います。

そして星雲のエンゲージリング、月の光の返還、羊のギャロップ、話しの閉じ方はお見事です。ぐるっと回って初めの場所にきちんと戻る。これができそうでなかなか簡単にできないんですよね。厳選された言葉とそのリズムを保った上でできるのは本当にすごいです。

そして余談ですが、作品は改稿を重ねていくうちに作者の手元からふっと離れて独立した存在になる「独り立ち」のような瞬間がありますが、この作品はもう少し石川さんの手元にいてもいいかもな、という印象を持ちました。まだのびしろを孕んだ作品なのではないかと。
が、既に精緻な世界観や洗練された文章のリズムをお持ちなので、何かきっかけを掴めば先に進むのも早いと思います。

ともあれ、あれこれ想像を膨らませながら書いている最中は本当に幸せですね。他の誰でもない、自分にしか描けない作品を作るのは大変ですが、最後に納得いく仕上がりになった時の嬉しさたるや半端じゃないです。

これは書くことに対して切実な人だけに与えられる種類の幸せです。今回、私も随分触発されでウズウズしております。

素晴らしい作品をありがとうございました。
また、新たな石川さんの世界と出会えることを心待ちにしています。

成田 拝

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