年末事変(サブタイ変更の話)

皆様初めまして。クソラノベ作家の有象 利路と申します。
この使いづらく……書き手を舐め腐っているとしか思えないフォーマットのnoteですが、久々にまた更新することにしました。

さて、ありがたいことに、拙作である『賢勇者シコルスキ以下略』の第二巻が来月2/7に発売することと相成りました。
一巻のサブタイは『愛弟子サヨナのわくわく冒険ランド』という、酔った中年男性が適当に考えたとしか思えないものでしたが、では二巻のサブタイはどうなったのか? 既に発表されているので、一緒に見てみましょう!


賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 痛 ~愛弟子サヨナのふわふわバニラで高収入~


とまあ、こんな感じのアレなサブタイになりませんでした(急転直下)

この記事を作っている時点でもう私はとうに知っていることなのですが、何と上記のサブタイが電撃ウンk……電撃文庫さんのコンプライアンスに抵触したので変更となったのです!! ○すぞ!!(好きな愛を○に代入)

ということで、変更後のサブタイは


賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 痛 ~愛弟子サヨナと今回はこのくらいで勘弁しといたるわ~


になりました(ワープ退化)

というわけで今回の憂さ晴ら……ではなく裏側を勝手に暴露しよう的な内容は、ここに至るまで何があったのかを詳らかにしたいと思います。
泣き寝入りはしたくないので……

そもそもこのサブタイ変更は「仕込みじゃねえのか?」と思う方も多い気がします。話題性を作るために無理にこんな演出をした、という私のような卑屈な人間にありがちな邪推ですね。

普通に偉い人から怒られただけです

それ以外のなにものでもないです……
まず『ふわふわバニラ~』は私が一生懸命考え出したサブタイであり、コンプラとかは抜きにして普通にインパクトがあってええ感じやな~と思っていたものなので、これが却下されたこと自体に私はとても強い憤りを感じました。(今も感じています)
ただ本作は全然電撃文庫側から寵愛を受けていない作品なので、話題性を作りたいけど金はかけたくない……せや! みたいなノリで仕掛けられそうな作品ではあります。

もっとも発売日が決まった作品が突如サブタイ変更を余儀なくされるというのは、編集部ではなく全国書店さんやら営業さんやらに迷惑をかける形になるので、諸刃の剣どころか諸刃で自刃レベルですがね……。
つまるところーー

電撃文庫が悪いですこれは(名推理)

というわけでサブタイ変更を告げられた当時を回想していこうと思います。



いきなりですが、電撃文庫は年末に年忘れ忘年会というものを毎年開催しており、その年度内に本を出版した作家がそこへ招待されるらしいです。
私は2019年6月に賢勇者一巻を出したので、一応参加資格アリ……ということで、12月の某日に東京まで行きました。
余談ですが、2020年は賢勇者二巻が出ると思うのでまた参加資格を得ますね。でも2021年はほぼ間違いなく参加してない気がしますね!(終活)

この年忘れ忘年会とはつまり、自分というクソみてェな立ち位置のカス作家が、存在するかどうかも眉唾ものだった売れっ子の先生方をナマで見ては戦慄する合間に、多くの方々と名刺交換したり雑談したりする、いわゆる飯が食える私刑なのですが、事件はその受付(※)で起きました。
※参加者はまず受付で名札をもらって交通費を精算する

有「あぁ^~、トイレに篭もって出てきたくねェ^~」

担「おうチンカス!(フランクな挨拶)」

有「あ、ご無沙汰してます。お元気そうで何より」

担「ちょっと痩せた?」

有「毎年それ言いますね~w」

担「あとあの件で残念なお知らせがあるんだけど」

有「どの件ですか……」

思い当たるフシが多すぎるので、もうあの件って言われてもマジで分からない状態でした。
二巻も怒られ案件が並行して走っているので……。
そしてここのところ口を開けば「残念なお知らせが~」という前置きで会話が始まっていたので、そこまで身構えませんでした。
悲しい経験値を積んでいるのが目に見えますね……。

担「サブタイの件だけど、あれダメだったw」

有「ああ……やっぱり」

担「コンプラ的にちょっと怒られてね……」

有「ラノベなんて大体コンプラに抵触してるじゃないですか(大暴言)」

担「(無視)でもちょっと時間ないから大至急他のサブタイ考えて」

有「え……」

担「じゃあ楽しんでいってください……」

有(皮肉か……?)


これを忘年会の終わりに言えばまだしも、開始直前の受付で言うので、私は忘年会の最中ずっと代わりのサブタイを考えてました。
こんなもん楽しめるわけねえだろ という話ですね……。
いや楽しませないが故に言ったのか……?
そうだとしたらこう……殺意モンっすわ(殺意)

先に述べた通りですが、商業で出す本というのは流通のラインに乗って世に出るので、とても多くの人間がそこに絡んできます。
タイトル一つにしても、変わったということを伏せるわけにもいきませんし、12月の段階で『ふわふわバニラ~』のサブタイが発表されていたので、とにかくそれが使えないとなると新しいサブタイを決めるのは急務でした。

一方で賢勇者という作品はちょっと洒落にならないぐらい手が掛かるので、私は忘年会の翌日に編集部に赴いて著者校なるものをやる必要があったのです。
普段著者校は郵送でやっているのですが、私が東京に居る時期と著者校をやらなければならない締め切りの時期が丸かぶりしたが故の処置ですね。

なお比較になるのか分かりませんが、拙作にして処女作『青春覇権』と次作『賢勇者』だと、著者校に掛かる手間が冗談抜きで10倍ぐらい差があります。
むしろ『青春覇権』が優等生過ぎる一方で、『賢勇者』が退学済の無職ぐらいの落差があるので、私がそう感じただけかもしれませんが……。

ともかく悠長に考えている時間は残されていませんでした。
俺は何しに東京くんだりまで来たんだ??? と心の奥底では思っていましたが、地方民なので許してください><

というわけで翌日、日中はずっと著者校に費やしました。
一巻の時よりもほんのちょっとだけ優しかったです。校閲さん側がこの作品の色を知った(範馬勇次郎並感)ようで、線引の基準が出来上がっているかららしいです。
調教完了と呼べなくもないですね!

著者校が終わってからは、担当の片割れであるT氏こと土屋さんと飲みに行きました。
もっとも私は下戸なのでほとんどアルコールは飲みませんでしたが……。

この段階で私はウッキウキであり(著者校嫌いなので解放感があった)、料理も美味しかったので雑談に花を咲かせていました。
恐らく私と土屋さんは共通した陰キャオーラを持っているので、話題も合うことが多く、(少なくとも私は)楽しかったです。
ここで相手も楽しんだと信じられないのが陰キャたる証ですね。

それはおいといて、1時間弱ぐらい話し込んだ時、おもむろに土屋さんがノートパソコンを取り出し、突然口を開きました。

土「忘れてた サブタイ決めましょう」

有「あっ……(あったなそんな話……)」

本気で忘れてたのですが、一気に現実へ引き戻されました。
そもそもこれは気楽な飲み会ではなく、名目上は普通に打ち合わせだったのです。その割にはくだらない話ばっかりしましたけどね……。

何やらKADOKAWAの尖兵こと電撃文庫の編集部員達は、SkypeとかLINEとかあんな感じのチャットツールで連絡を取り合っているらしく(ハイテクすね)、土屋さんがA氏こと阿南さんよりチャットで連絡が来ていることに気付きました。

阿『サブタイどう?』


「どう?」じゃねえだろ「どうする?」だろうがよ


有「こんなん我々が孫請けみたいじゃないっすか!!」

土「まあ会議で戦うのは阿南の役目なので……」

有「それでもこの聞き方は許されざるものがありますよ……ちょっと死ねってチャットで送って下さい」

土「送れるわけねえだろうが!」


こんな感じの会話をしていました。(9割実話)
とはいえ我々はいつもこんな感じというか、普段も私と土屋さんがあれこれ考えたのを阿南さんが判断して死地に赴く、みたいな流れになっています。

ただ目の前で丸投げをされると現場の人間は怒っちゃうんスよね^^

まあいいや、とりあえず二人で考えましょ……ということで、小料理屋の隅っこで年の瀬にも関わらずサブタイを考えることになりました。

元々『賢勇者』のサブタイは担当側が勝手n……協議して決めたものなので、ある程度の法則性に従って二巻も決めていました。
それが↓となります。

愛弟子サヨナ+助詞+ひらがな擬音+意味不明単語

よくわかんないっすね(正直)
つまりどういうことかというと、

愛弟子サヨナ+の+ふわふわ+バニラで高収入

という感じです。こんな感じで法則性がある旨を担当側に伝え、それに則って考えていったのですが、案の定良いのが浮かばないわけです。
ていうか『ふわふわバニラ~』が強すぎて、ただ単に変更しただけでは劣化にしかならないのですね。
なので、ここでちょっと発想を変えて、特定の路線を考えてそれに基づきサブタイを考えようということになりました。

・徹底抗戦路線

原則として我々に非はないので(断言)、年末に慌ててサブタイを考えさせるという苦行を強いてくる電撃文庫、ひいてはKADOKAWAに対して思う存分中指を立てよう――という路線です(最低)
ここでは書けないようなタイトルが色々どちらかの口から飛び出しました。
あまり詳細は言えないのですが、私個人としては楽しかったです

一応考えたサブタイはその都度阿南さんへ送り、その場で阿南さんが判断して選評と共に感想が来るという電撃大賞1000次選考みたいなやり方だったのですが、当然のことながら徹底抗戦路線はダメでした。

・媚び路線

大事なのは発想の転換――ということで、次は媚び路線を模索しました。
これは天魔KADOKAWAへ折れたのではなくその逆で、過剰に媚びたらむしろ煽ってる感が出るという私or土屋さんの発想によるものです(ド最低)
妄想ですけどテロリストって計画練ってる時楽しんでると思いました。
我々は別にテロリストでも何でもないですが……。

私の一押しは「愛弟子サヨナとぴかぴか超絶企業KADOKAWA」というサブタイだったのですが、これもやっぱり阿南さんから却下されました。
何かそれっぽい理由が付随していましたが、つまるところ阿南さんが危険だと思ったのでしょう。
我々は一生懸命考える代わりに、阿南さんは新しいサブタイを持って会議やら何やらに出向くらしいので、果たして氏がどのくらい戦ってくれるのか? というのが重要な部分でした。

・忖度路線

あまりにも決まらないので途中から首をもたげた路線です。
正しい比喩かどうかは分かりませんが、私は過激派で土屋さんは中庸、阿南さんは保守派という分別が出来ると思います。
私は賢勇者という作品を作る時はもう殺意でしか動かないと決めたので、この時は殺意に満ちており、それなりに攻めるタイトルを出したのですが、やっぱり阿南さんは納得してくれないわけですね。
そこで出てきたのが

愛弟子サヨナともろもろ大人の事情で自主規制

というサブタイです。まあこれ考えたのもほぼ私なんですけど。
これはそのまんま忖度であり、サブタイ変更したという事情を知っている人からすれば「ああなるほど」と思いますし、仮に一年後何も知らない人がこの本を取ったとしても「作風のことか?」と思うので、ある意味ビタッとピースがはまるようなサブタイでした。
何よりこちらが完全に折れており、どこにも牙を剥いていないサブタイなので、危険性がほとんどありません。
これには阿南さんもニッコリでOKを出しました。
しかし――

有「いやちょっと待って下さい」

土「何かありました?」

有「思ったんですけど、さっきから阿南さんが危なくない方へ必死に我々を誘導してませんかね?」

土「まあ確かに……」

有「これはあれっすわ……今この人絶対娘の寝顔を見ながら我々とチャットしてますよ!!!!!!! 己の保身のために動いてますよ!!!!!!!!!!! 逃げの一手すわ!!!!!!」

土「一理ある(共犯)」

有「これは許されない」

という私の常軌を逸した疑心暗鬼により、是が非でもこのサブタイは通すべきではないという覚悟が生まれました。

そもそもの話、先に述べたように我々に非はないのです。いやまああるのかもしれないですけど、少なくとも私からすると非はないのです。
ふわふわバニラで高収入ってフレーズはそこまで公序良俗に反するか……?
それを言うならもっと公序良俗に反したタイトルのラノベって世に出回ってないか……?
大体天気の子にも出てるんやぞお前(虎の威を借り倒す)

それをどうしてこんな我々が悪事を働き、あまつさえ自分達の考えを伏せて自主規制という道に走りました……という風潮を生まねばならないのか?
っつーか自主規制じゃなくて他主規制だろうが!!(造語)

ここで私に浮かんだのは『敗北の美学』です。
誰でも一つくらいは美学や哲学を持っていると思いますが、私の中にあった美学の一つがそれです。
今回、既にサブタイ変更を余儀なくされた時点で、我々はもう偉い人の前に屈している――敗北を喫しているのです。
それでもまだ尻尾を振る必要性が一体どこにあるのか?

皆様は池乃めだか師匠をご存知でしょうか?
知らない方へ説明すると小さいオッサンなのですが、まあこれは各自ググって頂くとして、氏の持ちネタに『今日はこのくらいで勘弁しといたるわ(表記ブレあり)』というものがあります。
これは事前に氏がフルボッコにされてから言う捨て台詞なのですが、私はここに昔から笑いと敗北の美学を見出していました。
あくまで誰の目から見ても圧倒的に負けているにも関わらず、口ぶりだけは達者で上から目線で行くことにより、何となく引き分けに持ち込んだ感じがする――という部分ですね。

そう、我々は負けている。しかしながら、完全に屈服はしていない。
だからこそ『自主規制』という表現で折れるのは許されない。
負ける側にも美学がある。倒れ方ぐらいは自分で選ぶべきである。

だからこのサブタイだけは私の誇りにかけても通したくない!!

――っていう感じのことを長々と土屋さんに熱弁したのですが、

土「あーじゃあそれでいきましょうか」

と、半ば「何熱くなってんだコイツ?」みたいな感じの対応で、池乃めだか師匠の『今日はこのくらいで勘弁しといたるわ』だけをピックアップした土屋さんがサブタイ案にぶち上げました。

因みに私も「いっすねそれwwwwww」と爆笑してました。
というわけで第一候補がこれで、それがもし無理だったもうマジで時間ないので第二候補の「自主規制」で行こうという話になりました。

あっ アヒージョ美味しかったです(私信)

おしり

というわけで無事に『愛弟子サヨナと今回はこのくらいで勘弁しといたるわ』が採用されました。

ハッキリ言ってこの記事を読んでようやく半分ぐらいそれに込められた意図が分かるようなサブタイですが、個人的には意地を通せたのでもうこれで満足しています。(売る気0)
サヨナ『の』だとサヨナが捨て台詞を吐いたように見えてしまいますが、サヨナ『と』なので、捨て台詞を吐いたのは私と担当二人という隠れキャラが発したサブタイだと思って下さい。

ともかく賢勇者シリーズ……シリーズ? は、二巻で幕引きとなります。
あまりにも私がツイッター上でも何度もそれを言うので「フリじゃねえのか?」と思われるかもしれませんが、マジで毎回「次で最後」みたいな感じで企画が動くのです。
そりゃこっちだって「とりあえず三巻を目処に作ってね!」と言われれば楽なことこの上ないですが……そうそう上手いこと世の中動いてはくれないわけですね。
一体どれだけ担当と電撃文庫側に愛されれば最初から複数巻構成で作らせてもらえるのでしょうかね??(愛されないボディ)
よって三巻は現状超白紙です! 皆様の応援次第過ぎるので!!
あと私が精神崩壊してしまうかもしれないので!!

とはいえ二巻は電撃文庫側が別の意味でビビるような内容に仕上げました。
まさしくサブタイの通り「こちらが手を引いてやった」ようなネタも多数あるので、サブタイに偽りはありません。
時折保守に走る担当はともかく、私は常に全力で牙を剥いています。
何故自分はここまで電撃文庫に反骨精神を持っているのかはもう自分でも全く分からないです(悲しきモンスター)

まあいいか……(モンスター)

長くなりましたが、2/7の発売日まで今しばらくお待ち下さい!!


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