見出し画像

【田村有樹子という生き方】

東海林利治
2022年1月8日 09:53
              ※勝手にエッセイ

第一章 はれのひ事件

 2018年1月8日。

 ちょうど4年前の今日。

 澄み渡る青空が嘘のように、私の心の中は苛立ちや悲しみの雷雨で、荒れに荒れていた。

 テレビから流れてくる悲惨な事件。

 振袖の販売や貸出をしていた「はれのひ株式会社」が成人式当日に店舗を突然閉鎖。

 この日を楽しみにしていた大勢の新成人の夢が、一瞬にして崩れ去った。

 でも、私が許せなかったのは『それを嘆き、叩き、非難しながらも、何も行動しようとしない大人たち』で。

 このまま新成人たちに泣き寝入りだけは、させたくない。どうする?
 何をすれば被害に遭った人たちをを笑顔にしてあげられるだろうか。

 事件など素知らぬ顔で、青空が私を見下ろす。そんな空を眺めていると、一人の男の顔が浮かんだ。

 キングコング西野亮廣。

 脳裏を過ぎった次の瞬間には、私はもうLINEを飛ばしていた。

「西野さん、リベンジ成人式をやりたいです!」

 こんな想いを口にすれば、西野からの返答は決まっている。

「イイっすね。やりましょう」

 でも、この言葉は決して軽くない。

 一人のクリエイターを捕まえて、無駄な時間を過ごさせるわけにはいかない。もちろん、やるからには中途半端にはしたくない。おまけに、今抱えている仕事もおろそかにはできない。

 当然、西野にも大金を使わせることになる。

 言い出した自分に、プレッシャーの悪魔が囁く。本当にできるのか?

 やるよ。負けない。負けられない。

 自己満足かもしれないけれど、一人でも『あの日、事件に遭って良かった。リベンジ成人式のお陰で心が救われた』と言ってくれる人がいるかもしれないのならば、私は走る。

 もう、迷いはなかった。

 今だから話せるけれど、西野に頼んだ友人として、きちんと計算もできていた。きっと、今回、西野に救われる子たちは、これから先、クリエイターとしての西野の作品に共感してくれる。

 良い意味のブーメランとして、返って来てくれる。

 だから、この『リベンジ成人式』は巡り巡って西野の将来的な活動の後押しにもなる。

 成功するかはやってみなくちゃわからない。でも、最後は自分の直感を信じて走るだけ。コレが良い!と思ったほうに進むだけだ。

 気合いは十分だった。でも、現実問題としてリベンジ成人式の調整は、多忙と困難を極めた。

 そんな折に、『横浜市が成人式を再び検討』というニュースが出た。渡りに船だと思った。

 私は慌てて教育委員会に連絡を入れた。

「だったら、一緒にやりませんか?」

「報道にあるような事は考えてません」

 思いもよらない言葉だった。

「それなら、報道がデマなんですね。では、こちらで勝手にやりますね。」

 私はすぐに電話を切った。でも、どこか心の底ではスッキリしていた。

 もう自分がやるしかないのだ。

 LINEのアイコンバッジは確認できる件数を遥かに超え、24時間、電話やメールでの調整に追われた。

「田村さん、私に何かできることがあれば言ってくださいね!」

 一見優しそうに見えて、あなたに何ができるのか、こちらがそれを調べて、手伝ってもらえそうなことを提案するのか?

 そんな優しくないメールも溢れた。

 無視をするのも心が痛い。かといって、中途半端にお願いする時間も余裕もない。

 分かってよ。

 本当に助けたい気持ちがあるのなら、私に掛けるべき言葉はこれじゃない。

 心がすり減って、前に進む足が止まりそうになる。それでも、そばには西野と有志のボランティアメンバーがいてくれた。

 マスコミに徐々に取り上げられるようになり、リベンジ成人式は一つのムーブメントとなるまでに成長していた。

 連日流れるリベンジ成人式の報道を見て、腰を折る電話がまた一つ。

「共催という形で横浜市の名前を出していただけるのなら、会場費を半額にしても良いですよ」

「もうこっちでやりますから! お金とかじゃないんです!」

 気がつけば、私は秒で電話を切っていた。

 そして、迎えた当日。

 ゴリ押しでねじ込んだ豪華クルーザーを見て、胸の奥が熱くなった。

 船板を叩く自分の足音が、ここまで走り抜けた自分への拍手に聞こえる。

 みんなが笑っている。

 優美な着物に極上のヘアメークを受けながら、あの日、失われたはずの笑顔がここで確かに咲いていた。

 西野と目が合った。

 思わず、涙がこぼれた。

「おめでとうございます!!」

 軽快な音楽に乗せて、西野の声が飛んだ。

 心の中のモヤはいつの間にか消え、夜空に満天の星空が広がっていた。

 私はプレイヤーにはなれない。

 けれど、目の前の人を大切にできる究極の裏方にはなれる。

 大切な日を取り戻した新成人たちの笑顔を見て、私は心の中で小さくガッツポーズを決めた。

 リベンジ成人式。

 星空にみんなの想いを乗せた無数の風船が舞った。

 私の心の中で何かが始まる音がした。

記:タムココサロンメンバー
  作家・東海林利治

そんな田村さんの素敵な一面が見られるオンラインサロンはこちら🎶
↓↓↓
田村Pのココだけの話

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?