【エルデンリング】雑記 ディアロスくんNPCイベントについて考えた
エルデンリングNPC、ディアロスくんのシナリオについて個人的な考えと感想を書くよ。ネタバレ有。
円卓
ディアロスくんとは円卓で最初の会話ができる。なんとなく壁際に立っている、銀と赤のお上品でかっこいい鎧を着ている彼こそがディアロスくん。見た目が一丁前なのでこの時からディアロスくんのキャラクター性や今後のシナリオを見抜けた人はいないだろう。この時の会話で特筆すべきところといえば、「立派な家名も狭間の地では無意味」と自分が名家の出身であることを仄めかすところだ。この言葉の意図するところは諸説あるところで、単純にディアロスくんが高貴な生まれであることを鼻にかけたセリフかというと、それにしては少し勿体ぶった言い方に聞こえる。自分の出身にプライドを持っているなら、それらしい傲慢さの透けた態度とかで表現しても良かったはずだ。個人的には、ここは素直にディアロスくんが名家の出身の人間でありながら友好的な人物、と受け取っていいセリフなのではないかと思う。ディアロスくんはこの後リエーニエのイベントで「ホスローは血潮で物語る」のセリフを言い、そこで初めてホスローの名前が出てくる。唐突に出てくるセリフなので面食らうが、ホスローがディアロスくんの家名であること、戦いの実績に価値を置く家柄であることが、短いセリフで十分に推察できると思う。
また、ラニアの存在もディアロスくんのキャラクター性を表していたように思う。ディアロスくんは従士のラニアを探していると話し、褪せ人に見かけたら教えてほしいと伝える。この時、従士という言葉の印象の割にはディアロスくんはラニアと非常に近しい間柄に見える。「まったくあのおてんばめ」などと言うくらいだ。ディアロスくんとラニアは友達のような関係、もしかしたら恋仲なのかもしれない。仮にそうだとしても、従士と対等な関係になれるということが読み取れて、いずれにせよディアロスくんとの会話では、彼がいいとこのおぼっちゃんでありながら気さくな人物、というのが感じられるかなあと思う。
リエーニエ
ラニアを探していたディアロスくんだったけど、リエーニエでは残念な結末を迎えてしまう。ラニアが何者かに殺されていたのだ。通りかかった褪せ人はディアロスくんの慟哭を聞き、彼から事情を知ることができる。ラニアを殺したのは背律者の仕業であると語り、ラニアの仇を取ると誓うディアロスくんは「ホスローは血潮で物語る」と口にする。「ホスローは血潮で物語る」は印象的なセリフだけど、ディアロスくんのシナリオを知れば知るほどにこの言葉は口にするものではないと気づいてしまうところも面白いと思う。言葉でなく戦いの実績である血潮で物語らなくてはいけないのに、事あるごとにとりあえずこれを言ってみるディアロスくんの「口だけ」なところがよく出ているセリフだ。この時のディアロスくんは心底ラニアの死に悲しみ悼み、背律者への怒りを滲ませ復讐を誓っている。口だけだとしても、気持ちは本物なのだ。初見の褪せ人もこれからはディアロスの復讐物語が始まるのだろうと思ったことだろう。しかしこれから、ディアロスくんの物語は予想外の方向に捻じ曲がるのだった。
円卓に戻ったディアロスくんから、背律者の使いから接触があった話を聞くことができる。この使いの者とは、恐らくラーヤちゃんだろう。火山館はなんとなく、事情をあまり詳しく知らないラーヤちゃんがその善性と直感で英雄たりえると思った褪せ人をお誘いしているように思う。つまり、結構てきとーな人選でお誘いしてるのではないかと思っている。何はともあれ仇に声をかけられご立腹のディアロスくんは、話に乗ったふりをして背律者の根城を聞き出すことに成功する。この時からディアロスくんは「私を無能と思ってか」「このディアロスを侮った罪を」と、自身のルーツを匂わせるセリフを言う。ディアロスくんはホスローとしての適性のなさをずっと馬鹿にされ、当然プライドを傷つけてきたのだった。それゆえに侮られていると感じることにコンプレックスを抱えている。個人的には先ほどの通り、たぶん声をかけたのはラーヤちゃんで、侮るも何もあんまり何も考えてないんじゃないかな、と思っている。
火山館
ディアロスくんのシナリオの急展開は、火山館からだ。火山館の誘いに褪せ人がのった先、客間にはあのディアロスくんが頼りなさげに部屋の隅に佇んでいる。声をかけると居心地悪そうに「よろしく」なんて言ってくる。あれ?と思いながら話を聞くと、やはり居心地悪そうな態度で「復讐は止めにしたのだ」などという衝撃的な話を聞くことができる。褪せ人は結構驚いたはずだ。あれほど気にかけていた親しげな従士が殺され、心底悲しみの涙を流し復讐を誓っていたように見えたディアロスくんが、めちゃくちゃあっさりと復讐を止めてしまったからだ。復讐を止めたどころか、仇であるはずの火山館に着いているところもあまりに衝撃的である。話を聞くと、火山館の主であるタニス殿に「英雄としての資質がある」「英雄は敢えてこそ汚れた道を行く」と言われ、その気になってしまったとのこと。多くの褪せ人はこれを聞いて、たぶんめちゃくちゃ呆れたと思う。しかしディアロスくんはウキウキで楽しみだなんて言ってくる。ここのシーンのプレイヤー達を心底呆れさせる展開は、非常に上手いと思う。
そしてここでようやく、ディアロスくんという人間像、その背景が明確になってくる。ディアロスくんは「ずっと侮られてきた」と軽めに過去を語る。それまでは立派な鎧を着た名家の人間で、親しい女性を殺され涙を流すことのできる、復讐を誓う男、という認識だったキャラクターだ。ここに来てその男が抱えるずっと馬鹿にされ悔しい思いをしてきた過去、見返すチャンスを得たと思ってあっさり復讐を止めて火山館に着いた芯のなさ、否定できない後ろめたさを覚えながらラニアもわかってくれると言い訳がましく言ってくる心の弱さ、ディアロスくんが弱い人間であることが嫌と言うほど伝わってくる。
プレイヤーは復讐を止めたことにも心底呆れたと思うけど、英雄になるため、というふわっとした理由もその一つであると思う。英雄とは、火山館の人々がやたらと口にする文言だ。タニス殿は恐らく心底そういうつもりでこの言葉を使っている。だからディアロスくんを言いくるめた時も、決して言いくるめようとして甘言を吐いたり聞こえのいい言葉選びをしたということはない。なぜならタニス殿は褪せ人に、その気がなければ止めてもらって構わないと、無理に誘うつもりも引き止めるつもりもない姿勢を明らかにするからだ。つまり、タニス殿がうまいことを言ったのではなく、勝手にディアロスくんが言いくるめられたのだ。
ディアロスくんは英雄は敢えてこそ汚れた道を行くと聞いたことに、瞳に光が差した思いと語る。これはわたしの推測だけど、ディアロスくんがホスローとして、戦士として適性がなかったのは、その性格ゆえだと思っている。戦士に向かない性格と言ってもいろいろな要因が思いつく。例えば、傷つくことが怖いとか、痛い思いをしたくないとかだ。ディアロスくんはどちらかというと、あまり何かに攻撃的になって傷つけたりすることができない性格だと思っている。当然エルデンリングの世界観からすれば致命的な性格だけど、プレイヤー目線では同情できる内容だと思う。勿論、優しさと受け取ることもできる。ディアロスくんは実際、優しい性格をしているのだ。当初のいいとこのおぼっちゃんである出自とは裏腹に誰にも気さくな人間性であったことも納得できる。
わたしが考えるディアロスくんの適性のなさとは、人を傷つける、殺すということ、漠然と何か取り返しのつかないことをすることが怖い、という感覚があるのではないかと思う。ディアロスくんが自分をいくじなしと称するのは、恐怖心や勇気のない自覚があるからではないか。そこにタニス殿が、英雄とは敢えてこそ汚れた道を行くものだと語った。この時ディアロスくんはこの言葉に、戦士としてやらなくてはいけない「人を傷つけること」に対する大義名分を感じたのでは無いか。ホスローとして名を上げるには、戦い、相手を打ち負かさなくてはならない。つまり殺すことだ。それは酷く悲しいことで、ディアロス自身はやりたいと思っていない。しかし英雄とは、だからこそやらなくてはいけないものである。あえてこそ汚れた道を進むべきである。迷い戸惑っていたディアロスくんの瞳に光が差し込む。こんな調子だったのではないかなあと思っている。
そんなディアロスくんだが、次に話しかけた時には酷く落ち込んでいた。曰く、何もできなかったとのことである。
わたしがディアロスくんの適性のなさを「傷つけるなど、漠然と取り返しのつかないことをすることができない」と思っている理由に、ここでディアロスくんが落胆している理由が「何もできていない」ことだったからである。ラニアの仇をとることを止めて、英雄になる道を選んだくせに、それでも何もできなかった。ディアロスくんは親しい人間の敵討ちのためにも、英雄たる道を進み名誉を得るためにも、剣をとることができなかったのである。
口では大きなことを言っていた一方、ディアロスくん自身も後ろめたさやそれらしい理由をつけて目の前のことから逃げていることには薄々気づいていたと思う。ディアロスくんは「やはりわたしはただの無能だったのか」「なぜ気づかなかったのだ、己の底のない無能ぶりに」と恐ろしく自虐的な言葉を漏らす。ディアロスくんの言葉の随所に「無能」という言葉が出てくるが、恐らくこれは実際に言われたからこそ何度も出てくる単語なんだろうと思う。ディアロスくんのコンプレックスを産んだ、ある意味トラウマのような言葉なのかもしれない。そしてそれを言った人物が、ディアロスくんの独り言でわかるようになる。「ああ兄上、あなたの言う通りでした」…。
ここにきてようやく登場する人物、ディアロスの兄である。後に火山館からの依頼で、その名をユーノ・ホスローということがわかる。ユーノの兄貴はディアロスくんのキャラクターを考える上で欠かせない人物だ。なぜなら彼こそが「ホスローは血潮で物語る」の体現者であり、ディアロスくんが憧れている人物だからだ。
ユーノの兄貴はディアロスくんと違って戦士として優秀らしいことが装備品の説明等でわかる。寡黙で冷徹、とのことであった。この寡黙で冷徹、というのはまさに「ホスローは血潮で物語る」であるためになくてはならない要素である。ホスローは血潮で物語るとは、言葉でなく実績で示すことだ。実践するには、寡黙で冷徹でなければならなかった。ユーノの兄貴はホスローの人間として為すべきことを為す、ホスローのための存在なのだ。
ユーノの兄貴は火山館からお誘いを受けていたが、その誘いを一蹴していた。「血塗られた道なら既に歩んでいる。だが俺は自分を決して英雄と呼ばない」と言い放ったと言う。ユーノの兄貴は寡黙で冷徹とのことだが、決して狂人ではない。むしろ常識的な考えの持ち主だ。ユーノの兄貴は自分がホスローとして名を上げることに、仁義的に良しと思っていなかったのだろう。「人を殺す人間が英雄であるわけがない」と、ユーノはそう考えているのだ。ユーノの兄貴は、戦いを決して是と考えていないのだ。
ホスローの兜には、弟が無能ゆえに、当主争いは起こらず、ユーノの兄貴は弟を愛することを許された、とある。明確に、ユーノの兄貴はディアロスくんを愛していたのだ。また、ディアロスの兜には、ディアロスくんは兄のようなホスローを血潮で物語る人間になりたかった、兄が望まないと知っていても、とある。そしてそのユーノが、恐らくディアロスくんに無能と言い放ち、それがディアロスくんの今に大きな影響を与えコンプレックスを植え付けたと思われる。
ユーノの兄貴は優秀で、ホスローの体現者だった。ディアロスはそんな兄に憧れた。でもユーノの兄貴はディアロスくんに自分のようにはなってほしくなかったのだろう。ユーノの兄貴はディアロスくんに、その道を諦めさせるためか何か、そういった事情でお前は無能だと言い放つのだ。その言葉がディアロスくんを拗らせるきっかけになるとも知らずに。
壺村
ディアロスくんは火山館から逃げ出し、壺村に流れ着く。褪せ人が見つけた時には既に彼が壺師として定着してからだ。褪せ人はそれまでに小壺くんとの会話から、壺師という壺たちをお世話するひとがいて、手がすべすべじゃないと適性をみなされない謎の職業があることを知っている。
壺師というのがなんなのかは、よくわからない。とりあえず壺をお世話する人だ。でもそれって壺同士じゃだめなの?とか、給料出るの?とか、そんな疑問はたくさんあるが些細なことだ。壺師で大事なことは、その職業がなんなのかではなく、なるためには適性があることだ。適性とは、手がすべすべであることだ。ディアロスくんは見事条件に合致した。ディアロスくんが馬鹿にされ続けた生白い手が、壺師の適性にぴったりだったのだ。
手がすべすべである、とは、まさに武器をほとんど握ったことのないひとの手を示しているのだろう。剣を握れば手にマメができ、決してすべすべにはならない。ディアロスくんは武器を手にしてこなかったからすべすべなのだ。壺師の適性としてその触り心地の良さとか、撫でられたら気持ちいいとか、そういった物理的な意味もあるだろうけど、恐らく性格的な適性もここで見られていると考えている。武器を触ったことがない戦士ではないひと、心優しいひと、そういったひとが壺師になれるのだ。
小壺くんによれば、ディアロスくんは元気がなかったらしい。あれほど自分が嫌になれば仕方のないことだ。しかし褪せ人と再会した時のディアロスくんは、生き生きと壺の世話をしていた。ここでは壺たちに優しい言葉をいくら投げかけても、ホスローに相応しくないとなじられることはない。立派な家名を持つというおぼっちゃまのディアロスくんは、膝をついて懸命に壺を優しく労りお世話をする。ディアロスくんは久しぶりに会う褪せ人に、照れながらも「憐れな男だと思うかい?でも私は初めて真っ当に生きている気がするんだ」と語る。
戦士の家系として立派な家名を持つ身分から、いきなり壺師という壺をお世話する謎の職業になる。一言で言えば、エリートコースからは外れたような状況なのだろう。だから憐れな男だと思うかと尋ねられる。でもディアロスくんは今の方がよっぽど幸せに生きている。ディアロスくんの思想、気持ち、やりたいこと、それら全てが戦士ではなく壺師であることに詰まっていたのだった。壺村に来て、ディアロスくんは間違いなく救われた。ディアロスくんの家のことなんか何も知らない壺たちが、ディアロスくんを必要として、認めてくれる。ディアロスくん自身も、何かを傷つけるよりも優しくしていたいと思っている。ディアロスくんは自分のやりたいこと、やれることを見つけたのだった。
壺たちは密猟者という存在に命を脅かされていた。密猟者たちは壺の中身を狙っているのだ。そして密猟者に見つかった壺村は襲撃されてしまう。
ディアロスくんはこの時、初めて武器をとった。壺たちを守るためだ。大切な人の復讐のためにも、名誉とプライドのためにも、剣をとることができずに逃げ出したディアロスくんは、大切なものを守りたいと思った時、初めて武器をとったのだ。ディアロスくんはきっと、何かを守るためにしか戦う道は選べなかったのだろう。ディアロスくんは壺たちを守る一心で戦う選択をとるが、壺たちは壊され、村は破壊されて、褪せ人がやってきた時には小壺くんしか残されていなかった。小壺くんが「ディアロスさんがやっつけた」と言っていたので、実際に密猟者はディアロスによって撃退されたのだろう。しかし決して守り抜いたとは言えない状況となっていた。小壺くんは「ホスローは血潮で物語る。僕はきっとそういう戦士になるよ。いくじなしでもみんなを守れる英雄に」と語る。小壺くんにはディアロスくんの強さが伝わったのだ。そして汚れた道を進まなくても英雄としてディアロスくんは小壺くんの記憶に刻まれた。自分を英雄と呼ばないと言ったユーノの兄貴の思う英雄は、きっと今のディアロスくんのような人なのだろう。
ディアロスくんは褪せ人に「私は守れたのか?」と問いかける。ここの質問は非常に意地が悪いというか、試されていると感じた。村はほぼ破壊されて、壺たちはほとんど壊されてしまっている。でも小壺くんは生きているし、密猟者をディアロスがやっつけたのも事実だろう。ディアロスくんの歩んだ道を知り、彼のいくじなしを知った褪せ人が、彼になんて伝えたいのか?問われていると思う。
「守れた」と伝えると、「良かった…こんな無能でも最後に…」と言い残してディアロスくんは息絶える。どちらの選択肢を選んでも、無能という言葉は最後までディアロスくんの心に残り続ける。最後まで自分を無能だと思って死ぬ。だけどきっと、小壺くんが感じたことが真実なのだろうと思う。小壺くんは立派な鎧を着ているのにいくじなしだからもう戦わないと言っていたディアロスに少し不満だった。でもこの日、小壺くんはそんなディアロスくんが守るためになら武器を取り戦ったことに自分の目指すべき戦士の在り方を感じ取ったのだろう。ディアロスくんは戦士としての名をあげずに、誰にも知られずひっそりと死ぬ。それでもディアロスくんの生き様は小壺くんに引き継がれたのだ。
ユーノの兄貴は弟を愛していた。そして無能と言ってディアロスくんを拗らせたのもユーノの兄貴だと思う。恐らく、ユーノの兄貴は自分のようになってほしくなくて、無能と強い言葉で罵りその道を諦めさせようとしたと推察される。結果として、ディアロスくんはその言葉を一生呪いのように抱え、壺師として適性があったにも関わらず最後は自分が無能だと信じて疑わなかった。でもそんな無能として人を傷つけられなかったディアロスが守るために剣をとった姿こそ、ユーノの兄貴が英雄とはかくあるべきと思い描いた姿なのだと思う。二人の思惑はすれ違ったまま、ホスローの物語は終了する。しかしその物語の続きは、ユーノの兄貴が思い描いた英雄を体現したディアロスくんの意志をついだ小壺くんが歩んでいくのだろう。
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