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小さな傷

小学校3年の遠足は、私にとって楽しいことを全て押しのけてどこか切なく胸がちくりと痛くなるものになった。

遠足の行き先は、県南で人気の海水浴場のある町だった。
天気もよく、まだ初夏だったと思う。
住んでいた町からそこまではバスで1時間程度。
四方を山で囲まれた小さな町でくらす小学生に、海はまぶしくてワクワクする場所に思えた。

海水浴場で思い思いに過ごし、最後に集合写真を撮ることになった。

当時の私は、転校生だったので周りに溶け込むのに必死だった。
すごく仲の良い子もいなかったので、集合写真を撮るときは少し控えめに後ろの方にいた。
その日もそうだった。

私の前には、いつもクラスに溶け込めていないとても大人しい子が、やはり控えめに佇んでいた。
すると担任の先生がやってきて、その子をもっと内側に立たせようと話しかけ始めた。
最後にはちょっと内側へ押し込んだ形になった。

そうやって集合写真は撮られた。
私は、その先生の影に隠れて集合写真にほとんど写らなかった。

集合写真に写りたいというわけでもなかったが、先生の目に入らないどうでもいい子になってしまった気がして、どこか胸が痛くなった。
先生はただ良かれと思って行動したのだと思うが、幼い私の心に影を落とす出来事になった。

外から見るほどひとは強くない。

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