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ずっと物書きになりたかった

中学の卒業文集に私は大それた野望を書き込んだ。

---いつか世に名が知れた人物になります。

書いた当時はそんな大それたこととも思っておらず、ただ、自分の書いた文章を世に送り出したい、そんなことを思っていた。そう、物書きになりたかった。
SFと少女小説が好きで、お小遣いがあれば単行本を買い漁り、目が悪くなるのを百も承知で布団に転がりながら黙々と読み耽った。星新一、かんべむさし、新井素子、氷室冴子...、単行本が待ちきれず季刊コバルトを予約購入した。
今でも実家の本棚は当時の本で溢れている。それは空想と妄想の中で生きていた甘酸っぱい抜け殻のようなものだ。世の中の酸いも甘いも知ってしまった今となっては目にしても手に取ることもない代物だ。
本棚の傍に刺さった古びてプラスチックが劣化したファイルには、書き溜めたコンセプトのかけらが詰まっている。もはや卵のまま朽ち果ててしまった哀れな夢の墓場だが、気まぐれに開くと心の奥底にほんの小さな炎が揺らめくのを感じる。

もう、あの頃と同じ夢は見ない。

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