BTS:花様年華『Run』の物語を書いてみる
花様年華の続きを久しぶりに投稿いたします。
今回のテーマとなる作品はこちら↓
まったく知らぬ存ぜぬの方に向けて簡単にご説明すると、花様年華はBTSの楽曲やMusic Videoにて語られる長い作品群で、あらゆる謎や伏線が多く、国内外問わず多くのARMYさんが考察されています。
私の場合は考察というよりもほぼ創作に近いところを楽しんでおります。
Music Videoなどの映像を切り取って、語られていない世界観や台詞を言葉で埋めることで、花様年華の物語を自分なりに解釈&表現したい、というところです。
その裏には、文学、哲学、神話など多くの要素が埋め込まれているのですが、まずはその裏側を知る前に、単純にBTSの作品だけを見て感じるものをカタチにしておきたいな、という意図もあります。
というわけで、今回書く物語は冒頭で述べた通り「続き」のため、まずは過去記事をご紹介いたしますね。
そのまま読んでいただいてもまったく問題はないですが、もし気になる方がいらっしゃれば、先にこれまでの記事をご覧くださいませ。
リリース順でいけば最初ではないものの、全体像をつかむために、まずはこちらからご覧いただくと良いかなと思います↓
続いて『I NEED U』↓
そして、『I NEED U』から直接的に続きとなりそうな『花様年華:on stage:prologue』↓
では、始めます。
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飛び立つのは怖くなかった。
だから、沈むのも怖くはない。
簡単なことだ。
飛び立つ勇気があれば、なんてことはない。
ただ、力を自由にすればいい。
大丈夫だよ。
あとは僕が引き受けるから。
「君」は安心して沈めむといい。
「僕」が「世界」を変えてあげるから…。
並々と注がれたアメリカーノ。
乱暴に氷を投げ入れられ、コップからあふれ出す。
いつもと変わらない、いつもの朝。
いつもの日常。
ナムジュンはコーヒーとロリポップを手にして住みかを後にした。
無数の鳥がどこかへ向かって飛んでいく。
ナムジュンは慣れた足取りで、車両基地の外れへやってきた。
ある貨物車両の前に立ち止まり、ノックする。
反応がない。
反応がないのは珍しいことではない。
そんな時は、自ら扉を開けば良いだけのことだ。
あれはいつのことだったろうか。
ある扉の向こうにはいつも誰かがいて、それがナムジュンの「日常」だった頃があった。
7人がいつも決まって集まる部屋。
特に大事な用があるわけではなく、ただ7人で集まって、歌って、踊って、笑い合って、毎日を謳歌していた。
ソクジンはよくその様子をビデオカメラで記録していたのを覚えている。
そこはいつでも音楽で溢れていた。
あの車いすは誰がケガした時のものだったかな。
…暗い水の中に沈む。
…誰も「僕」を知らない。
その部屋の壁は落書きだらけだった。
ある日、テヒョンはソクジンをその壁に押し付け立たせた。
ショータイムの始まりだ、とでも言うように笑みを浮かべるテヒョン。
ソクジンのカタチに人型を描き、ソクジンの上から大きな×を描く。
落書き用のスプレーはいつでもテヒョンの「商売道具」だった。
人通りの少ない夜の街。
シャッターに落書きするテヒョン。
いつものロリポップを口にしながら、その様子を見つめるナムジュン。
不意にライトに照らされる。
「警察だ!逃げるぞ!」
ふたりは急いで走り出す。
その部屋ではソクジンがトランプでタワーを作っている。
崩さないように、ひとつずつ、ひとつずつ、慎重に積み上げていく。
慎重とは無縁のあの時のふたりはうまく逃げられたのだろうか。
トランプタワーはもうすぐ完成する。
テヒョンが目の前に座り、他の5人は後ろから囲むようにしてその過程を見守っていた。
そして…、
ようやく完成!と歓喜にわく間もなく、テヒョンが躊躇いもなくタワーを払って崩してしまう。
思わぬ行動に空気が凍る。
ソクジンが笑うことで、再び空気がとけて、皆が息を吹き返す。
テヒョンは悪びれた様子もない。
「ねぇ、気づいてた?」
…一瞬で「世界」は変わるんだ。
…どんなに大切に築いた世界だって、振り払ったら一瞬で消え去ってしまうんだよ。
だから、僕らは走って、走って、走って逃げた。
本当は何となく気づいてたのかもしれない。
「世界」から逃れるために、ただひたすら7人で走った。
…水の底でもがいて。
…息が苦しくて。
…本当の「僕」はここにいると伝えたかった。
ひとりになると、どうして人はこんなにも弱く、脆くなるのだろう。
いつでも力が足りなくて、誰のことも救えない。
ひとりで平気だと思っても、涙が出るのはなぜだろう。
走っても、走っても、「世界」には抗えないのかな。
そうだ、あの時のナムジュンとテヒョンは逃げたけれど、けっきょくは捕まって、後ろ手に拘束され、パトカーに強く押し付けられたんだ。
商売道具も押収された。
「やっちまったな…」
「そうだね、ヒョン」
目に見えている「世界」。
目の前にあるのにふいに遠くなることがある。
…目を開いて見る世界も、閉じて見る世界も、すべて君の世界なのに…。
ホソクがベッドの上で目を覚ます。
「また寝ちゃったのか…」
「待ちくたびれたよ」
「そうだな…」
「ひとりでいるには、ここはひどく退屈だ」
枕の中の羽毛がはじけ飛び、一面に舞い散る。
あの時はよくこうして後先考えず、ただ面白いことだけできれば良かった。
とはいえ、何が面白かったのかは疑問でしかない。
それでも僕たちはどこまでも自由で…。
そして、ただ、ひたすら笑ってた。
貨物車両を開けたナムジュン。
羽毛が散らばった床には一枚のトランプが落ちていた。
クローバーのA(エース)。
決して羽ばたくことのない。
閉じ込められた黒い蝶。
ナムジュンはトランプを握りしめたまま車両の縁に座り世界を眺めていた。
あの部屋でユンギは気が触れたように大切だった世界を壊していく。
ジョングクは必死でユンギを止めようとした。
それがユンギの本意ではないと思ったし、ジョングクにとっても大切な世界をこれ以上壊してほしくはなかった。
思いも言葉も虚しく、ジョングクは壁に跳ねのけられる。
「ヒョン…」
ジョングクは思わず殴りかかり、床に転がるユンギ。
ふたりはもみ合いになり、ジョングクは床に崩れ落ちる。
結局は力でも止めることはできなかった。
ユンギは近くにあった椅子を抱え上げる。
…「僕」が目覚めて気づいたら、「世界」が変わる。
ユンギは抱えた椅子を壁にかけられた鏡に向かって思いきり投げつけた。
そこに映るすべての世界を破壊する。
またひとつ、世界が消え去る。
一つずつ積み上げたトランプのタワーも。
一瞬でタダのトランプに変わる。
…気づいていたよ、本当は。
扉の向こうにはいつも誰かがいて、その世界の一部がジョングクだった。
ジョングクは今でもそこにいるけれど、他には誰もいない。
なぜこうなったのだろう。
なぜ、僕はここにひとりでいるのかな…。
鏡の向こうにも空虚な世界だけが広がっている。
ほんとに、みんなはココにいたのかな。
「世界」は遠ざかる。
ジョングクだけを残して遠ざかる。
だから僕らは走って追いかけた。
遠ざかる世界を繋ぎとめようと、ただただ走った。
時には休んで、また走って。
逃げているのか、追いかけているのかは正直言ってどうでも良かった。
走っていれば捕まらないし、走っていればいつかは追いつく。
走る理由などはどうでも良くて、7人でいることが大切だった。
いつものロリポップを口にしながら、7人でいれば笑っていられた。
また、意識が遠のき、夢の世界へ。
…せめて、良い夢を観ることができたらいい。
できれば、あの時の夢がいいな。
7人が一緒にいた時の世界。
ひとりになろうと思っても、すぐに誰かしらやってきて、「ひとり」を感じる暇がなかった。
「ねぇ、気づいてた?」
いつもみんなと一緒にいたけれど…。
あなたはいつも、どこかひとりみたいだった気がするんだ。
「ねぇ、そうでしょう?」
でも、「今」は関係ない。
ただ、叫んで、走るだけだ。
誰も僕たちを止めることはできない。
「世界」に大きく×を描く。
また走って逃げればいい。
あの時の僕たちは、「世界」は僕たちのものだと思っていた。
一方でなんとなく、気づいていたんだ。
僕たちは、ただ同じトンネルの中をぐるぐると回っているだけなのかもしれないこと。
それでも走っていくんだ。
行こう、一緒に、7人で、「あの場所」へ。
扉の向こうに誰かがいることが、「日常」ではないこともある。
INHALE(吸って)
EXHALE(吐いて)
BREATH(呼吸して)
僕らは生き残らなければならないから。
ジミンが目覚めて浴室へ行くと、そこは思いがけずにパーティ会場となっていた。
状況が飲み込めないジミン。
ソクジンが手を引いて、浴槽に投げ入れる。
服のままびしょ濡れになり、ジミンもパーティの住人と化した。
楽しければそれでいい。
笑っていられればそれでいい。
一緒にいられればそれでいい。
ひとりじゃなければ、水の中も怖くはない。
…だから、ひとりは苦しい。
…ひとりはさみしい。
誰かがいる浴室と、誰もいない水の底ではまったく違う。
…誰か気づいて。
…「僕」がここにいること。
僕たちは一緒にいよう。
捕まったなら、また走って逃げればいい。
そうだ、あの時も結局逃げることができたじゃないか。
だから、とにかく前へ向かって走ろう。
必ず、そこにいるから。
視線を交わせる先にいるから。
一緒にいたことを思い出して。
苦しくても、もがいて、そこから抜け出して。
…僕に気づいて。
…僕の名前を呼んで。
一緒なら笑うことができる。
だから、ともに走ろう。
テヒョン…。
振り返ると、ちゃんとあなたがいる。
…ちゃんと、いるよね?
…良かった。
…それでもね、目を閉じれば、世界は簡単に変わるんだ。
世界は闇になって、誰も、何も、見えなくなる。
そんな闇の中から、「僕」は息を吹き返す。
「僕」が「世界」を変えよう。
物語はエンドロールとなり、たいていの世界はそこで終わりを告げる。
けれど、エンドロールが終わった時に、ふと教えてくれることがある。
7人が「あの場所」へたどり着いた世界があることを。
けれど本当はね、そこにはやっぱりあの人はいないんだ。
まるで最初からこの世界には存在しないみたいに。
やっぱり誰も救われない。
だって、あなたはこの世界の登場人物ではないんだから。
「ねぇ、そうでしょ」
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以上です。
『花様年華:on stage:prologue』の流れで、『RUN』を書こうと思ったのですが内容が複雑に入り組んでいて、さらには展開も早いのでどうしたものか、と思いつつ、完全に煮詰まってしまいしばらく書くことができませんでした。
ふと思い立って、『WINGS』のショートフィルムについて先に書いて、久々に戻ってきたら、わりとすんなりと頭の中が整理できて書き進めることができ不思議です。
順番で言えば、次は『Young Forever』です。
さてさてうまく言葉で埋めて、つなげることができるでしょうか。
ちなみに先行して書いたWINGSはこちらの記事↓から始まりますが、この予告編と各メンバー7名分、そして、謎の分析アイテム編・アイコン編で10記事にも渡って書いております😅
花様年華、まだまだ続きがありますが、本当に素晴らしく面白い作品だと改めて感じます。
私自身の花様年華としても、多くの彩りを添えてくださっています。
この続きを考えるのも楽しみです。
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