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英語OS? いや Alter Ego を召喚せよ!

アスリートや経営者のパフォーマンスコーチをしている Todd Herman という人が書いた『The Alter Ego Effects』という本がある。

子供向けのおはなし版もある。

以下の動画が分かりやすかった。

Herman はこの本で「Alter Ego」という考え方・戦略を紹介している。
ざっくりいうと「自分の中に眠る特性を最大限に活用すべく、もう一つの人格を設定し、育て、いざという時にハイパフォーマンスを出す。」みたいな事だ。

この作戦、英語習得にも使えるのでは?というのが今回の話だ。

英語へのためらい、英語との距離

これまで『英語を英語で処理する英語OS』の話や、『「英語を英語で」に離陸する方法』について書いてきた。

でも、英語を話す時に「ためらい」があるのはなぜだろう?
英語OSがまだ弱いから?それだけではない気がする。
6歳の息子の英語力の急成長を間近で見て「ためらいの無さ、英語との距離」が、息子と俺では決定的に違うのだ、と思い知らされた。

アイデンティティのはなし

大人のやり直し英語は難しい。
Neural plasticity(神経可逆性)がどうの、母語の干渉がどうのといった客観的要因はもちろんある。
ただ、主観的な要因も同じくらい難しくさせていると思う。

・ナチュラルスピードの英語を聴くと、急に高まる不安感と警戒心
・話しながら、文法的な間違いが絶えず気になってしまう自己監視
・口が回らない、音が上手く出ない苛立ちと恥ずかしさ。

日本語を話すモノリンガルとして歳を重ねてきた結果、いやでも身についてしまった常識や無意識の習慣が「英語を話す自分」を邪魔している気がする。
以前の記事で、挿絵を描いた時に気がついた。
「英語の俺」を「日本語の俺」が絶えず監視している。
やっかいなチェックマンだ。

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そのチェックが功を奏しているなら良いが、俺の場合は「英語との距離を無駄に遠ざけるだけの足枷」なっていると感じる。

酔っぱらって自己監視が緩くなり、いつにも増して英語がスルスル出てきて「あれ、、、今日の俺すごかった。」と後から思い返した事は、今までも何度かあった。

でも別に酔っぱらわなくても、もっとフルで「英語の俺」になりきって、チェックマンの存在を忘れてしまいたいのだ。

行動を変える2つの方向性。 アイデンティティから変える

何度も聴いている Atomic Habit にもアイデンティティの話が出てくる。

人の行動変容には3つの層(レイヤ)があるという
中心から、アイデンティティ(=私は何者か?)、プロセス(=行動)、アウトカム(=結果)だ。

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新しい習慣を身につけたり、古い悪習を断ち切ろうとする時には、
「外→内」と「内→外」の2つの方向がある。
外→内は「結果から変える方向(左)」で、内→外は「アイデンティティから変える方向(右)」だ。

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「痩せたい」「禁煙したい」などはアウトカムベースだが、
「私はヘルシーな食生活が好きな人だ」「私はスモーカーではない」はアイデンティティベースだ。
頑張って欲しい結果を得ても、アイデンティティが変わらないとリバウンドする。
一方、アイデンティティが変われば結果は自ずと発現する。
習慣を変えようとした時に上手く行かないのは、新しい習慣が既存のアイデンティティと衝突( conflict ) するからだ。
英語習得に当て嵌めてみると「英語を習得しようとする時に、日本語のアイデンティティが邪魔をする」と言ってみると自分的にはしっくりくる。

日本語はアイデンティティの中枢を担っている。
円の中心には既に「日本語の自分」がいて、「英語の自分」の居場所はない。

Alter Ego

同じ中心に、頑張って「英語の自分」用の居場所を確保しようとしても、「日本語の自分」と干渉して上手くいかない気がする。
そうではなく、「もう一つ中心を作る」、「別の中心から始める」というアプローチがある。
それが Alter Ego だ。

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Alter Ego は意識するしないは別にして、誰もが活用している。
幼児がやる「ごっこ遊び」なんかもそうだ。
ヒーローになりきったり、おままごとで母親になりきる。

家にいる時の自分と、会社の同僚といる時の自分は、100% 同じ人格ではない。
女性が娘として母親と話す時、母として息子と話す時、ママ友として他のママと話す時、それぞれに別個の人格があって、ズレている。
これもAlter EgoだとHermanは言う。

俺も息子にルールを強制するためにあえて「怒りを表現する」事があるが、感情的に怒っていると言うよりも、意識的にそのモードにスイッチしている感がある。

一番有名な例は "Sasha Fierce"だ。
ビヨンセがステージ上の強い自分を召喚する時の Alter Ego だ。

「なりきる」とか、「かぶれる」ってすごいパワーだ。
自分が好きで目指したい環境に、リアルだろうがバーチャルだろうがどっぷり浸かる。
心理的距離が限りなくゼロに近くなる。
言語習得に対する障壁が無くなり、学びが、吸収が促進される。
自分で自分の英語にケチばかりつけている間に、なりきってフルポテンシャルを引き出した人は楽しんで英語力を伸ばしていく。

Fake it till you make it との違い

「Fake it till you make it (成功したフリを続けたら成功する)」とどう違うのか?という疑問は当然でてくる。
これに Atomic Habits の Clear も、The Alter Ego Effects の Herman も答えている。

Clear も Hermanもざっくり答えは同じだ。
基盤があるか基盤レス( baseless )かだ。
基盤があるとは、エビデンスがあること。
Clear は一つ一つの習慣が「なりたい自分」への投票だ(vote)だという。俺は「こういうやつかもしれない」と、一つ一つ vote を積み重ねていくことがエビデンスになる。
無いものを信じ込むのは delusion (リアリティと乖離した妄想) だと Clearは言う。
Herman も Fake it till you make it とは違うという。
自分の既に持っている優れた特性にコネクトし、その良さを最大限に発揮できるモードに、意識的にシフトする。そのシフト時に召喚するのが Alter Egoだ。
自分の中に無い特性を無理やり信じ込め、と言っているわけではない。
根拠レスな嘘には自分自身がどこかで気づいてしまうものだ。

「自分の中の日本人」と距離をとる

俺は日本人だ。これを読んでいる人も日本人だろう。
日本人は日本人に厳しいと言われる。俺もそう思う。

自分や、他の日本人の欠点を見つけては、身内の無礼を恥じるように「うちの子がすみません」「うちの母がすみません」的な気恥ずかしさでいたたまれなくなる。

日本社会は空気のプレッシャーが強い。
個の表現よりも、他の皆にかけない、空気を壊さないつつましさが優先され、そのように教育・調教される。
これには良い面も悪い面もあるが、英語に関してはマイナス面が大きい。
そこを跳ね返したい。

俺の中にもその嫌な日本人がいる。
自分や誰かの英語の欠点を見つけてはダメ出しをする。
しかしそういうことを続けていると、英語を話すのが楽しくなくなり、どんどん怖くなり、心理的にも辛いものになってしまう。
自分でハードルを高くして、超えられそうもないハードルを前にびくびくしている。
「大嫌いにさせるには絶え間なくダメ出しし続ける」の法則を自ら進んで実践している格好だ。

だれかの許可なんていらない

英語を話して、読めて、分かって、楽しいというところにコネクトしよう。

コネクトした新しい中心を「人格」として認定し、名前をつけよう。
「新しい人格」は植物が茎やツルを延ばす時につかまる支え添え木みたいなものだ。

「英語の自分」の中心を意識しよう。
ダメ出しをしてくる「日本語の自分」とは距離をとってスルーしよう。
そいつの許可( permission ) なんて要らない。
英語モードの時、「自分の中心」は別のところにある。

Alter Ego については、誰かに説明せず、自分の秘密にしておこう。
スーパーヒーローは誰にも気づかれずに変身するのものだ。
小道具(トーテム)を用意しよう。メガネでも、ブレスレットでも。
儀式をつくろう。メガネをかけて Alter Ego を召喚するみたいに、
自分の中に眠る特性を、もっと自由に解き放つのだ。

もうじゅうぶんだ

最後に動画を紹介して終わりにしたい。
ビヨンセが主演した『 DREAM GIRLS』で歌っている『 Listen 』のスタジオ・ライブだ。
いろいろとビヨンセの動画は観てきたが、個人的には、これはかなりのベストパフォーマンスだ。

動画の最初でビヨンセが語っている。
「これは(主人公)のDeenaが自分の声をみつけた時の歌だ。
彼女は映画を通してずっとコントロール( manipulated )されていて、自分の意見を失っていた。」

歌詞の前半部分とオレオレ訳も載せておく。
他の訳も検索してみてみたけど、まず「聴いて」というソフトな感じがしっくり来なかった。
俺の受ける印象は「お前もうええわ!自分でいくわ。ええから聴け!」という強いAlter Ego の覚醒なのだ。

今回のテーマにドンピシャだ。

Listen to the song here in my heart
A melody I start but can't complete
Listen to the sound from deep within
It's only beginning to find release

聴け。この心にある歌を
私が始めたメロディー。まだ終わらせることができない。
聴け。奥底から来る音を
解き放たれようと、いま、出口を探し始めたところ

Oh, the time has come for my dreams to be heard
They will not be pushed aside and turned
Into your own all 'cause you won't
Listen

そして時はきた。私の夢を聴かせる時が。
その夢は追いやられない。お前の持ち物にされない。持ち物にされたら結局聴かれないだけだ。

Listen, I am alone at a crossroads
I'm not at home in my own home
And I've tried and tried to say what's on mind
You should have known

聴け!私は今一人で交差点に立っている。
家にいても私自身の家にはいない。
何回も、何回も自分の頭にあることを言おうとした
お前は分かってたはずだ!

Oh, now I'm done believing you
You don't know what I'm feeling
I'm more than what you made of me
I followed the voice you gave to me

でももうええわ!もうお前を信じるのはやりきったわ。DONEや。
お前は、私がどう感じてるか分かってない。
私はお前が作りあげた以上の存在だ。
私はお前がくれた声についていっていたけれど

But now I've gotta find my own
でも今、自分の声を見つけた。





↓ おかね。。。おかねをください。