Twitter小話・コラボ連作

私が診断メーカーから小話を書く→友人しのさんが診断メーカーの結果で何か書いてと振り小石川が書く→秋売りは?そちらの番では?設定ないよ?こんなのは?で、しのさんが書く→これ繋がるでしょで書かされ…後付け設定で書く→くるっとまとまるねと書かされ…書く的なコラボ連作。

小石川は時を売る人です。トランクに入れて売っています。瞳の色は栗色。夜の鍵を代価にしています。夜を売る人と仲が良いようです。
#幻想を売る人 #shindanmaker
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鑑定用の扉に受け取った鍵を挿してから開くと、そこに夜があった。木々が揺さぶられる強い風に灰色の雲は飛び去っていく。満月は照らし、翳る。あの草地に立ったらどんな気分だろう。私には縁のない世界だからこうして取り扱えもするのだが。扉を閉めると私はトランクから罎を取り出した。「良い夜です。よろしければ、これだけの時と交換いたします」客は何度も頷いて罎を掴むと早足で帰っていった。あれを何に使うのか、私は知らない。ただ、あんな目をした者が決して満足しないことは知っている。きっとお得意様になるだろう。さて、この夜の鍵は仲間に売るか、私の棚に加えるか。



しのは過去を売る人です。スノードームに入れて売っています。瞳の色は銀色。夢の欠片を代価にしています。秋を売る人と仲が良いようです。
#幻想を売る人 #shindanmaker
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【書き手・小石川】しのさんから書くように言われて。

「ああ、これです!私の大事な思い出。どうして忘れていたのでしょう」スノードームの中で舞う雪のようなものは綺麗だが、俺には客が何に涙ぐんでいるのか分からない。本人にしか見えないのだと店主は言っていた。その店主はお代の夢の欠片を受け取ると、スノードームを紙で包んだ。包まないと過去を眺めたまま歩きだした客が転んだり行方不明になると、これも店主が言っていた。「さて」客を見送った店主が作業台に向かったので、俺は身を乗り出した。「そんなに面白いですかね」苦笑しながらも店主の動作は淀みない。手に入れたばかりの欠片を台に据えると硝子のハンマーを構え振り下ろす。簡単なようで、こんなに綺麗に細かく欠片を砕く奴を俺は他に知らない。砕け散る夢は雪のように店主の瞳のように銀色に輝く。そして、きやきやと星の囁きのような音と共に用意してあった容器に収められる。これでスノードームの出来上がり。「しかし、なんだって他人の夢が自分の思い出に見えるかね」出来たばかりの、俺には雪に似て見えるだけの箱庭をつつく。「失くした過去は他人の夢に迷いこむから」「そうなのか」「かも、しれません」「おい…」きやきやと笑って店主は昼食を食べに行こうと立ち上がった。ずっと笑顔で、だから聞き間違いだろう。「錯覚ですよ」なんて。


【書き手・しのさん】秋売り設定・小石川

「夏が暑すぎるから」皆疲れちゃうんだ。だから秋が売れるんだと、虫籠に秋の灯火を灯しながら秋売りは言った。「ゆっくり眠りたいのさ」と。秋の代価は眠れずに過ごした夏の夜の時間。秋売りは夏の時間を指先で器用に絡め取り、糸を編むようにして灯を作る。
「夏の夜で秋を作るなんて、風流だねえ」
優しくて灯る小さな炎を見つめながら、私はうっとりと眠くなる。「あまり見つめないほうがいい」炎の色の瞳を細めて、秋売りは静かに私の視線から灯火を遠ざけた。
あまり沢山秋を灯すと、そのまま冬眠してしまうらしい。
どんなものだろう、その眠りに見る夢は。
いつかしの夢の欠片を手にした人が私の店の扉を叩くこともあるのだろうか。私はその夢の欠片を砕いて雪にするだろう。その雪は誰の過去を映すのか。
秋売りの店の小さなストーブの上では薬缶がしゅんしゅんと湯気を立てている。それでまた眠くなったと言ったら、お前は何時でも眠そうだと秋売りに笑われた。そうだね。
秋がもたらす眠りは優しい。春が来れば目が覚める。


【書き手・小石川】

「おや、珍しい」いらっしゃいませと迎えない時売りの栗色の瞳には非難の色さえ見える。それでも過去売りは夜の鍵を差しだした。「これで、購えるだけの時を」時売りはぐっと唇を曲げていて、その顔は幼い頃を思い出させる。それで、つい笑ってしまう。「まったく!」夜の鍵を少し手荒に時売りが剥ぎ取った。「馬鹿な客にはいつも通りに作り物の過去を見せておけばいいのに」「今度のお客様は本当の過去を求めていらっしゃるから」「そのくせ、うちには来ない。過去を触れる勇気はないのに眺めたいって訳だ」時売りはテーブルに罎を三つ並べた。「こんなに?それに鑑定もしてないし」「兄さんの夜の鍵なら、上質な夜がたくさん収穫できるに決まってるから。せいぜい高く夜売りに売りつけます」「あまり、吹っ掛けないようにね」「兄さんの夜の鍵を安売りなんてしません」そんなことより、と時売りは過去売りをじっと見た。「こんなことを続けるなら秋売りに言いつけますよ」「え?」「ここで時を買うのも真物の過去をスノードームに閉じ込めるのも秋売りには見せないようにしてるでしょう。だから秋売りは兄さんが眠たがる理由を知らない」「だって、関係ないでしょう」「関係あろうとなかろうと秋売りは止めるでしょう」「商売の邪魔は酷い」笑いながら過去売りは懐から小さなスノードームを取り出した。小さな世界を振ると、時が降って過去を見せる。誰でも過去には目を奪われる。真物の過去が広がれば動けなくなる。閉じ込めた過去では仲良く遊んでいる弟に「また来ますね」と告げて、過去売りは外へと逃げ出した。


【書き手・小石川】*夜売り設定・しのさん

その暗い階段を降りる時はいつも時売りは夜の底へ沈む気がした。そして、いつ段が尽きたか判然としないうちに幾重にも黒い布の垂れ籠めた狭いところから少し開けた場所にでる。「やあ、面倒な奴がきた」くすくす笑いは砂の音にさらさらと埋もれていく。部屋のあちらこちらに高く低く砂時計があって、夜空の色の砂が落ちているからだ。それが積もりきると砂時計はどれもくるりと天地を切り替える。暗くて布だらけの陰で働く者がいるのか、何か仕掛けがあるのか、時売りは知らない。「なんですか、面倒って」「そら、機嫌が悪い」笑われて時売りは座りこんだ。布に包まれる。夜に抱かれる。「ほら、見せてみろ」夜売りが立っていた。布をやたらと巻きつけても小柄な体は座っている時売りと同じくらいだ。夜の鍵を差しだすと、夜売りが顔を上げた。その目が開く。七色の瞳は暗い部屋で夜の虹と輝く。「うん、良い夜だ」鍵をかざし見るだけで夜売りはそう断じた。「当たり前です。兄さんの夜なんだから」「そう怒るな。たまには真物を売らないとアイツは儲からない」「儲けるためならこんな…」「ま、因果な商売さ」夜売りは纏う布の隙間に鍵を滑りこませると、別の隙間から革袋を取り出した。時売りの膝に載せられた袋は予想したよりも重い。文句をつけるつもりだった口が開きかけて声にはならない。そこへ夜売りはまた別の隙間から引き出した青い欠片をあてがった。「これは支払いとは別だ。今日のおやつ」欠片は浅く深く色を揺らめかせて、塩辛い。「美味いだろ。上等な海の結晶だ」「私は食べるのはあまり好きじゃない」口の中で欠片を遊ばせながらいつもと同じことを言った。革袋にもたくさん入っている海の結晶は時売りにとっては砕く物だ。海は生命が生まれてきたところで全てが流れ込むところだから、その結晶を砕けば積もった時が取り出せる。「美味いのになぁ」どこからか青い欠片を取り出すと夜売りはがりがりと音をさせて食べた。そして、またすぐに欠片を取り出して口へと放り込む。「食べ過ぎじゃないですか」時売りが思わず言うと、夜売りは幼い顔でにんまりと笑った。甲高い声で言う。「お前も食べればずっと一緒にいられるぞ」心配しているのはそんなことではない、否、そうなのか。自分の心なのに夜売りの方がよく知っている気がして、時売りはまた差し出された欠片を口に含んだ。