ツイッター小話12

もじくい五片

「お腹すいた」との声に鉛筆を手にすると「万年筆がいい」と言う。「贅沢者め」ご希望通りに持ちかえた万年筆のキャップをはずす。書き始めた文字はすぐに摘ままれて紙を埋めない。「美味しい」字によって味は違うがその意味は関係ないらしい。般若心経でもデリバリーピザのメニューでもしりとりでも。

うう…と唸って俯いたところへ紙を広げてやると程なく文字が落ちてきて紙を埋める。それは読めるが、助けにはならない。あ、あ、あ、と文字を吐くのは苦しそうで私も俯く。「前の世で喰らいすぎた報いでしょう」気に病むことはないと笑みを作った唇から文字がほろりと落ち、私の手に仮初めに宿った。

これなら好きなだけ食べられるだろうと文庫本を渡したことがあるが、「美味しくないんだ」と開きもしなかった。「カップラーメンとラーメン屋のラーメンじゃ味が違うんでしょ」どっちも違う美味しさがあると思うけど。「ね、書いてよ」今日はボールペンで、せめて丁寧に書く。面倒だけど。

何も考えていなかった。ノートをよろよろと這う小さな何かが、書いたばかりの字を食べて生気を取り戻したように見えて嬉しくなった。食わせるほどに体が大きくなり、やがて喋り、笑い泣くようになった。そう、ならせてしまった。最後の文字を書こう。今まで書かずにいた、君の名前だ。

「似ているね」言われる前から思っていた。手書きの文字は食われてほとんど残っていないのに、真似しようとした覚えもないのに、親子でそんなところが似るものか。「でも、味は違う」横たわる体は薄くなっていく。握る紙にある最後の文字は食べようとしない。顔も文字も似ていたってなんにもならない。


#君・僕・死で文を作ると好みがわかる

「死神に人権はないのか」愚痴と溜め息を落とされた太い首がぶるぶるっと震えた。艶々の鼻筋がこちらに向く。「死神は人間じゃないし」「なるほど」「死神の馬も人間じゃない」「ああ、うん。お仕事、頑張りますか」君が僕の相棒で良かった。