雑感:新章アイマリンプロジェクト第2弾「The Boon!」MUSIC VIDEO

先日、ふと思い出して3年ぶりくらいにアイマリンプロジェクトのチャンネルをチェックしたところ、いくつか聞いていない曲があったので拝聴した。最後に聞いたのが第四弾のDeep Blue Songなので、Vol.5第1弾~第3弾と、新章の2曲。良曲が多かったのだが、中でも「The Boon!」のMVがとにかく印象に残った。エンターテインメントの専門家でも何でもないので、普段こういう映像、音楽作品にコメントすることはしないのだが、このMVだけは相当な工夫が至る所にちりばめてある気がしたので、備忘録、およびNoteの練習も兼ねて書き残したい。

1.映像の背景 まず新章アイマリンには背景となるストーリーがある。それは公式Webをチェックしてもらえれば分かるのだが、ざっくりいうと仮想現実(VR)世界の中のお話。政府に厳しく管理されたその仮想世界の中で、ヒロインであるアイマリンは反政府組織である音楽バンドの一員であり音楽の力で世界を救おう、という感じ。というわけで、本作においてはアイマリンはアングラの世界に生きている存在。

2.本曲のMVの全体の構成 そういった背景を踏まえ、MV全体の雰囲気はとにかく暗く、ダークな世界観で統一されている。基本的にはアイマリンの3Dモデルが映像の中心で踊り歌うシーンのみで構成されているが、その背景は、シャッターの閉まった商店街だったり、閉店後の熱帯魚ショップ、暗い地下道など、とにかく不安になる場所ばかり。そんな場所でアイマリンは歌い続けるのだが、本作品はその「場所」だけがどんどん移り変わるという構成になっている。言うなれば、仮想現実の中で違う場所に次々とワープしているような感じだ。そのワープを繰り返し、誰もいない暗い場所を転々としながらアイマリンが歌い続けるという構成になっている。

3.楽曲 小生は音楽にも全く詳しくないので説明することは出来ないのだが、映像の中で感じたのは、緩やかさの中にある緊張感だ。ゆったりしたような、それでいて少し急かされるようなテンポと、ところどころに挟まれるテンションノート。そこにのせられる内田彩氏のささやき系のボーカルで、「不安な気持ちが消えないが、柔らかい歌声に惹かれて、暗い世界へとゆっくりと引き込まれていく」ような感覚を覚える。

4.映像技術 本作品は「フォトグラメトリー」と呼ばれるCGの手法を用いているそうだ。フォトグラメトリーとは、実際の現実世界で撮影された写真や映像を使ってCGを作製する手法である。本作品で特徴的と言えるのは、実際の映像をリアリティを出すために使うのではなく、リアリティを「破壊」するために使っているという点ではないだろうか。作品前半では、メインキャラクターであるアイマリンが現実の映像の中で淡々と歌い続けるだけで、現実の写真と3Dモデルのキャラクターの間には強烈な違和感が漂うのだが、後半にはそれらの映像はどんどん加工・破壊され、その結果「このリアルは映像は仮想現実の中で作られたものだ」という強烈な印象操作を受けることになり、それはまさにこの作品の背景にあるストーリーの世界観そのものだ。終盤にはまた破壊されていない実際の映像背景に戻るのだが、不思議なことに、当初感じていた違和感が書き換えられていることに気付く。すなわち、現実の世界に本来なら存在しない3Dのキャラクターがいるという違和感ではなく、現実だと思っていた背景の世界が仮想現実の中で作られた虚像だったという違和感である。

技術的なところをもう少し勉強してみると、実はすべての背景は固定視点の画像のみならず、精密に3Dモデル化されていることが分かる。例えば、サビの後1:20から、熱帯魚ショップのシーンからシャッター商店街へと移るシーン。この時、視点が回りながら背景が切り替わっていくが、この時最後まで座標が途切れないままシャッター商店街への固定画面へと移り替わる。これは熱帯魚ショップの内装とシャッター街が同じ座標軸で3Dモデル化されてないと出来ない表現だ。この表現は2番サビ2:17でさらに使用されており、カメラはアイマリンを映したままぐるっと一周し、背景は違和感なく切り替わっていく。もちろん、この表現自体は背景が3D化されてさえいれば可能な表現なのだが、本作品はそのリアリティが極めて高い。それはおそらく、実際の映像を拡張現実(AR)の技術を使って精密に3Dモデルに落とし込んでいるからであろう。例えば、中華料理屋前の自転車、LEDショップの商品棚の凹凸や、コインランドリーのバスケットなどの凹凸など、細部にわたって非常に精細に再現されている。そして、2:48から始まる強烈なカメラワーク、ド派手なエフェクト、アイマリンのワープに加えて背景もワープするなど、先の手法で現実に忠実に作られた世界に対して極めて強烈で非現実なデジタル操作を施すことにより、リアリティを破壊し、見ている人の感覚を見事に「バグらせる」ことに成功している。

小生は映像の専門家でも何でもないただのファンに過ぎないが、この作品を作られたクリエイターの皆さんの挑戦的アプローチ、発想力、技術力、そして見事なクオリティに仕上げられたこの作品に、心から称賛を送りたい。

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