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渋谷らくご(20年11月13日 20時)

■演目
一、 アリとキリギリス(談洲)
一、 清水次郎長伝 羽黒の勘六(鯉栄)
一、 三人兄弟(小里ん)
一、 淀五郎(菊之丞)

■所感
祝、六周年!
周年月である11月は毎月公演より1日公演日を追加した6日間(12公演)。コロナ禍でキャパ半分&配信というハイブリッド公演が定着。2015年から足を運んでおり、当初は全公演を観て、成金の大暴れ振り&ベテラン真打の横綱相撲を点では無く線として、物語として楽しんでいた渋谷らくご。ここ1年くらいは月次公演のうち1,2回足を運ぶ程度に落ち着いたが、二ツ目・真打関わらず30分一本勝負の潔さは楽しい楽しい。今月は周年公演ということで、通常月よりも多めに足を運んでいる。

談洲さん「アリとキリギリス」。
新規参画組の談洲さんが渋谷らくごに定着し始めているのが嬉しい。会場の観客と距離を測りつつ、“しか”と“も”の枕を振り本編へ。談洲さんの新作「アリとキリギリス」は余命宣告で幕を開けるが、宣告を受ける“頑張っている”男の独白が胸を抉ってくる。余命を生きるんだッ!と前向きな姿勢に共感した所で……ガシーンッと梯子を外され、一瞬迷子になる。そこから或る男の独白が始まり、という怒涛の展開。乾いた「ハハッ」という笑いに慄き、感情をブンブンと振り回されながら、『公平なんて無いんだ』という言葉に再び胸を抉られる。持てる者と持たざる者の激突、一方的な捻じ伏せに直面した後……訪れる暗闇。息を呑み見守る中、着地点に静かに息を吐く。そこにいたのはアリか、キリギリスか、それともまた別の何かか、安易な納得感を与えてくれない感じが楽しい。

小里ん師「三人兄弟」。
前方の大荒れを目の当たりにして袖でネタを浚っている、その声が会場に漏れていて一種異様な雰囲気の中で高座へ。高座に上がれば、そこは微塵の不安も感じさせない盤石の安定感。安心して噺の世界に身を委ねられる。
普段あまり目にしない演目の新鮮さ、題材の馬鹿馬鹿しさ、その馬鹿馬鹿しい噺の中で登場人物達がいきいきとしている姿が楽しい。道楽息子である三兄弟が一人一人違ったロクデナシ感があり、特に末弟の三男の乱暴者でありながら妄想の中での立振る舞いに可愛らしさを感じてしまう、その愛嬌に痺れる。

菊之丞師「淀五郎」。
寄席掛持ちのグランドスラム話から本編。淀五郎は伯山先生をよく観ているので違いが面白い。
シュッとしていて軽さもある。流れるような展開に、これまでの三席で摩耗した体力でも集中力が切れることなく噺の世界に没頭出来た。一方、淀五郎の苦悩自体もスッと解決したような気がして若干軽く感じてしまう所もあったが、平日仕事帰りのことを考えると過度に深刻にならず楽しめた。綿菓子のような時間だった。
以上

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