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【人事に効く論文】研修評価と研修転移のパラドックスとは? → 受講生の満足度だけアンケートしてもねぇ…

Saks, A. M., & Burke, L. A. (2012). An investigation into the relationship between training evaluation and the transfer of training. International Journal of Training and Development, 16(2), 118–127.

1. 25秒で分かる論文の概要

カナダの研修・人材開発協会の会員150名からのアンケート回答に基づき、組織における研修評価(カークパトリックモデルのレベル1.反応~4.結果)と研修転移との関係を分析した論文です。以下の仮説が検証され、すべて支持されました。

仮説①:研修評価の実施率は、研修転移と正の関係がある

仮説②:カークパトリックモデルのレベル3.行動と4.結果に関する研修評価の実施率は、レベル1.反応と2.学習よりも、研修転移に強く関連する

仮説③:研修評価の実施率と研修転移との関係は、研修直後の方が、研修の半年後、1年後よりも強い。

2. 私的な解説/感想

研修評価の実施率が高い組織ほど研修転移の度合いも高いことを示した研究は、この論文が初だそうです。カークパトリックモデルをベースとした研究になっており(このようなマニアックなnote記事を読む方であれば、カークパトリックモデルについて改めて説明する必要はないですよね)、研修受講者の反応評価(満足度のアンケートなど)は高確率で実施されているものの、レベル3.の行動や4.の結果の状況については研修後にあまり確認されていないことがデータで明らかにされました。

その一方で、レベル1の反応の評価は研修転移と関係がなく、研修転移との関連が強いのはレベル3・4の行動・結果の評価のみであることが示されました。つまり、上記の研修評価実施状況と合わせて考えると、残念ながら真に研修評価すべきことを多くの組織では行っていないという、研修主催者にとって極めて不都合な真実が暴かれた訳です。ちなみにこの状況を研修評価と研修転移のパラドックスと呼ぶようです。

3. 読後の余談

研修の効果をレベル4の結果で評価するのはほぼ無理だと思っています(個人的見解です)。しかし、レベル3の行動であれば、工夫次第で何とかいけます。論文の最後の方で、研修評価を罰則や報酬と紐づけることの有効性に関する説明がありました。Taylor et al. (2005)において、研修受講生の職場環境に罰則や報酬が導入された場合(ex.人事評価に組み込む)、研修転移の効果が大きくなることが示されたそうです。人事評価の中で、研修受講結果が行動に表れているかを確認するのは一つの方法といえます。

2023年8月5日 初稿作成

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