日記35:劇場(2019/11/03)

劇場から出るときの、疲労と充実で満たされた心身の乖離状態が好きだ。
劇場から出たときのとっぷり暮れた夜と、徐々に戻ってくる現実感と、劇場に置いてきたままの心をじんわりと温めておく帰り道が好きだ。

虫あるいは蛙などの鳴く声を感じながら、あるいは電車に詰め込まれ揺られながら、さっきまで自分がいた空間、あるいは立っていた場所の熱量を取り戻す。
背中の温度。照明の温度。芝居の温度。舞台の全ての温度を取り戻す。繰り返し繰り返し体感する。そうすれば、私の中で舞台は永遠に続く。
劇場から帰った日は、そうやって眠り落ちてしまうギリギリまで私の精神は劇場から帰れないままで過ごすことになっているらしい。肉体だけは現実に帰って。

日々を消費して消化して浪費して、だからこそこうやってたまにくる非日常を手放せないで、そしたらまた夜に覆われて、仕方ないから現実と寝る。

夜はあたたかいから好きだ。
多分私はあたたかい夜になりたい。

もしこの日記を読んでいる人がいるとして、この日記を読み終わったとき、君に見えている景色が少しでもフィクションだと良いなと思う。劇場に置きっぱなしの心みたいに、君の心を温度を思考をここにちょっと置いといてくれることができてたら良いなと思う。
現実とは別なところに本当の君がいて、本当の私がいて、それがたまたまこの日記ですれ違ったのだとしたら、本当の「出逢い」ができている気がする。

いや、別にそんな価値みたいなものなんかなくたっていいんだけどね。
これただの日記だし。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?