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つげ義春の系譜

 荻原魚雷氏の「本と怠け者」を読んで梅崎春生という作家を知る。梅崎春生は大正生まれの作家だが、私が読んだのは「怠惰の美徳」(中公文庫)というエッセイ集であった。1日10時間眠るとか、アリを蟻地獄に入れて観察するとか、どうでもいい日常が書かれている。

 この「感じ」はつげ義春のエッセイを読んだ感じに近いな、と思い、「貧困旅行記」を再読する。そういえば「つげ義春日記」も文庫化したのに読みかけたままだった。貧困旅行記に私小説家の葛西善蔵とか川崎長太郎とかのことが出ていて、とりあえず川崎長太郎の「抹香町・路傍」(講談社文芸文庫)を買ってみたが、ずるずる読むのを伸ばしてしまった。

 川勝徳重の「電話・睡眠・音楽」(リイド社)を読んでハッとする。作品はガロ系と言ってしまうと分かりやすいかもしれないが、劇画で不条理な作風。トップを飾るのは、妻に逃げられた中年男が那智の滝で修行し龍になろうとする、というとんでもない作品。梅崎春生、藤枝静男(また私の知らない作家である)からの着想もあった。川勝徳重氏は1992年、私より10歳も違うというのにこの「感じ」はどういうことだろう。すごいなーと端的に思ってしまった。つげ義春に代表されるような「あの感じ」を川勝徳重氏は継承しているのだ、と思って、「はて?」と疑問に思う。「あの感じ」ってなんだろう。「うらぶれた」「落ちぶれた」「惨めな」「ひなびた」…。まあとにかく、あの「感じ」が私も大好きだ。 こういう、好みがアメーバのように広がる感じが面白い。


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