Now And Then / The Beatles
The Beatles、最後の新曲として発表された”Now And Then”。この曲にまつわる経緯は、ちょっと調べれば沢山のテキストが出てくるので割愛。
1995年の”Anthology”プロジェクトを原体験した身としては、未発表曲の存在は当時からよく知られた話だし、海賊版で出回っているJohnのデモ音源も聴いていた。
Paulが2023年になってこの曲をリリースするというニュースを知ったとき、楽曲に対する期待感は全く無かったが、Johnの声だけを抽出するという技術がどうなるのかはとても興味深かった。
そして迎えた2023年11月2日。
当たり前だが、楽曲は既に知っているあの”Now And Then”。アレンジも、それまでYouTubeにアップされていたファンメイドの物から大きく上回る印象が無かった。
Johnの声は、デモ音源の程度からすれば本当に凄いことなんだろうと思ったけど、実はもっとクリアになるかなと思ったので、少し肩透かしをくらった。
ただ、そういう視点とは全く別の感覚が、二つあった。
一つは、思っていた以上の寂しさ。
そもそもがもの悲しい曲ではあるのだけど、オーケストラアレンジと「最後の新曲」という売り文句も相まって、The Beatlesの新しい音楽を聴けた喜びより、もう新しい音楽は聴けないという寂しさが圧倒的に勝ってしまった。
そしてもう一つは、本当に当たり前だけどPaul McCartneyはThe Beatlesのメンバーであり、今も第一線で活躍するミュージシャンなのだという事実。
この曲を巡る議論の一つは「デモにあったBメロがばっさりカットされている」点。その理由については、様々な考察が繰り広げられているが、自分は「こんなことできるの、Paulしかいないよな」という事実を強く感じてしまった。
発表前に数々上げられていたファンメイドのアレンジ楽曲だが、Bメロをカットするという判断をするファンは一人もいなかったと思う。
だけど、Paulはカットできた。だってPaulはThe Beatlesなのだから。
なんと言うか、Paulの本妻感がここにあって、嗚呼これはやっぱり2023年に発表されたThe Beatlesの曲なんだなと思ってしまった。
ファンの数だけ、それぞれのThe Beatlesがある。”Now And Then”の聴こえ方も人それぞれ。
ただ、2023年のPaul McCartneyこそが、The Beatlesとして判断する権利がある唯一の人間であることを理解できた途端に、Paulが感じる”Now And Then”がこの世の正解なのだと思うようになった。
ならば、自分には自分にとっての”Now And Then”が聴こえている、それだけで十分だ。
そんな風に思いながら、何度も繰り返し聴いている。
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