無題(創作)

 作品展は好きだ。私の知らない世界で私の知らない人生を送ってきた作者が切実に何か伝えたいことを伝えようとしている、その必死さを読み取ろうと夢中になる。切実さが、意思が羨ましいと思う。作品と向き合うとき、そこに連れがいようと、同じ作品を鑑賞している他人が隣にいようと、私の中には私と作者以外存在しない。

「猫ちゃんかわいいね」 「ねっ」
 女子高生の弾んだ声が不意に耳に入り、会場のざわめきに引き戻された。思ったことがすぐ顔に出る私は彼女らを一瞥する。
 路地を歩く野良猫を真正面に捉えた作品。キャプションには、野良猫の孤独に共感すると同時に、厳しい環境で生き延びる力強さに憧れを抱いたとあった。

 フライヤーとiPhoneを手にした22歳の私も、あのワイングラスの似合いそうな女性や年季の入った一眼レフを肩に提げたおじさんたちからすれば、きっと女子高生らと同じような存在に見えるだろう。短く溜息を漏らし野良猫に背を向けた。


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