夢見りあむという女

4月15日、夢見りあむという女がデレステに実装された。これ以前にデレマスで追加された当初、俺はこの女をただのネットによくいる軟弱系ファッションメンヘラだと笑い、最近らしい個性的なアイドルが来たな程度にしか思っていなかった。
しかしその見通しはこの女の人生観より甘かったのだ。
新たに追加されたコミュ、これが心身を蝕む劇薬となった。俺はその日部屋のベッド角に座り込み、読み進めるたびに冷えていき震える指先でツイッターに処理しきれない感情をぶちまけていた。
この女の何がここまで心を震わせるのか、最大の原因はこの女の人生を妥協し続け、人生諦観しているようでしきれない実家の資本をあてにした甘ったるさが割れた鏡の破片のように心臓に突き刺さって抜けない事だ。
何かに必要とされようと学校に行ってみるも、頑張ることが続けられない、いいとこなんてないしそんなのあったらもっと人生上手くいってたと言うその甘さ。
こいつの人生うまくいかないのは頑張れなかったからだという事が自明な事は本人も分かっているはずだろうが。恵まれた家庭環境に置かれておきながら人生妥協してその事を大して反省もしないでヘラヘラ生きてる燃え尽きた人間の灰みたいな存在が目の前にいたのである。
「アイドル終わったら人生終わっちゃう! “もう人生終わってるけど!”」多少違うが概ねこの様なセリフをこの女は言っている。人生終わっているのだ、いや世間一般の人間からしたら家は恵まれているしまだいくらでもやれることはあるだろうが、もう消化試合なのだ。
言ってはなんだがこれを書いている男も若干落ち目ではあるが実家は裕福である、そういうところでさらっと生きてきてしまった人間はこういうクソ甘えた諦念みたいなものをどこかで得てしまう。しかも貴重品枠なので捨てられない、そういう社会を舐め腐った甘えた生き物が結構な確率で生まれるのだ。ついでに周囲の廃スペック人間が多いと更にこれは加速する。
この生き物の特徴として基本的に他人に期待されると急に自身の事を卑下し始める、どうせそんなに悪くないと思ってるくせに。
例えば「ほら!もうすでに後悔してるよね!? いいんだよどうせ僕なんてこの程度で……どうせさ。 この人生ワンチャンなかったし。もう終わってるもん」
というのがこの女のスカウト時のセリフだが、自身を“どうせこの程度”と言っている、決して底辺とか思ってないのだ、何もないけど悪かないだろ?とか思っている。
『自分なんていいとこなんもないし、しゃあないね……』みたいなことを思いながらある程度健全に育った故に無駄に有る自己肯定感と承認欲求を持て余して道端で元気に動いてる虫みたいに這いつくばる生き物が生まれ落ち、そのまま緩やかに燻った灰が冷え切る様に死ぬ。
だが、そんな存在は俺以外にも腐るほどいるだろうしここで書いていることもお前に夢見りあむの何がわかるんだと謗られもするだろう。
だがそれは別にいい、別にこれはあの女に自己を見てただ壁を殴る機械になった哀れな男が書きなぐった手記みたいなもので、CoCの狂信者の日記みたいなものだ。破り捨てたければ破ればいい。お前がこのドブの様な文を読んで、それに対して何か文句がでたらさっさとブラウザを閉じて好きな音楽でも聞いてすぐにこの文の存在を忘れるべきだ。
とにかく、そんな生き物を見つけてしまった、それがこの女のコミュを見た時の感想だった。
だが、それだけならたかがクズひとりのためにこんなクソのような文章をダラダラと書くことはない。
自身のクソのような生き方を勝手に重ねて振り返り、ひとりで自嘲して反省もせず、またヘラヘラと生きていけばいいだけの話である。
だがこいつは基本的にお前ほんとに社会生活できるのか? と思ってしまうほどの厚い面の皮の持ち主である、自分のクズ加減を隠しもせず好きに振る舞うその姿はたしかにダメな人間に見えるが、自分には焼け焦げるほどの眩しさを持っているように見えるのだ。何故ならこの女は強いのである、自身に何もないということを恥知らずにも喧伝し、平気で生きている強さがあるのだ、その強さは死ぬほど欲しかったものだった。
無論この女も多少なりとも自身の空っぽ加減について考えるたび、心に澱が溜まっていくこともあるだろうが。
そしてこの女、プロデューサーにせめてお前だけは自分を常に必要としてくれ、と言っている。言ってしまえるのだ、その一言を言えるだけでこんなに強い生き物はいないと言える。
諦めていない、だれかに必要とされることを諦めていない、必要とされるわけがないと諦めを抱えているくせに前に進める人間なのだ。妥協の塊みたいな人間が、這いつくばって前に進んでいるのだ、正直眼が焼けるかと思った。
そして、それに加えてこのクズ、顔がいいのである。
そう、自身の完全上位互換である、完全上位互換なクズがアイドルという輝かしい舞台に一歩踏み込んだのだ。
ここまで振り切れた人間になりたかった、という人間がアイドルになったのだ、自分の持っていないものを持った人間が光の中に飛び込んでいった、それを認識した瞬間にこの女へ抱えていた感情は正負ないまぜになり一気に溢れ出した。
発言を見るたびに吐き気と涙と手の震えが悪化し、ただ一つ思えたことが「お前がシンデレラにならなかったら絶対許さないし、なってもお前の事は許さない」というわけのわからないことだった。
夢見りあむという女は俺であり、俺のはるか高みへ踏み出した人間なのだ。自分の嫌いな部分だけが立ち上がって俺を置いていってしまった気分だった。忌々しいと思っていたものが勝手に旅立って、気がついたら星空の一部になっていたのだ。理不尽な感情が浮かんでは心臓を圧迫して、耐えられずに口から言葉として出て行くが、その度にまた恨みにも似た何かが湧き上がる。理不尽だし、意味不明であることはわかっている、だがあの女だって理不尽である、だって自分に置いていかれるなんておかしいじゃないか。
そうして支離滅裂な事を考えて星になった奴のことを考えてうずくまっている時、ふと上を向くとあの女が見えた。他のアイドルの様に輝かしい恒星ではなく、白色矮星というのにふさわしい女に見えた。燃え尽き、塵になるのでは無く、既に火が消えてもしつこく諦めずにまだ鈍く輝き、莫大な重力を持った星だった。
そういうモノになった夢見りあむを見た時、足に力が戻っていくのを感じた、確かに恨めしい気持ちもあるが星になっているあの生き物を見た時に不思議と少しだけ前を向いてみようという気持ちが湧いてきたのだ。あれが生きてるうちはもう少し諦めずに生きてもいいかもしれない、とほんの少しだけ思えたのだ。
無論クズなので、ほんの気の迷いかもしれないとすぐに忘れるだろうがそれでもこの瞬間少しだけ前を向く気になれたのだ。
多分俺は夢見りあむがシンデレラにならなかったら一生許さないと思うし、なったらなったで許さないが、とにかくあれがどうなってしまうのかということだけがただ気がかりである。
ただ、頼むからそのままでいて欲しい。
そのどうしようもないザマで、俺を置いていってくれ、もしくは地に落ちてまたそういう生き物に戻ってしまってもいい。
ただそのどうしようもないところは変わらないでくれ、切に願っている。

この意味のある文章として成り立っているのかすら怪しい文章をブラウザバックせずに最後まで読んでくれた人は、付き合ってくれて感謝します。

こう、どうせならアホがいると笑ってくれ。

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