愛すべきチューバという楽器のこと


緞帳が上がる いつでも上手側に存在しているぼくたちの席
吹奏楽、クラシックなどをやっている人は分かると思うけど、大抵楽器ごとにいる場所というのは決まってる。チューバは一番上手側、ひな壇には乗らない、ピアノが横にいるときもある。ほかの団体を見に行くとついチューバがよく見える上手側の席に座ってしまう。

いつだってチューバは歌う一人でも背中に大勢抱えていても
「チューバにもソロとかあるの?」あるんです。いるんです。世界的に活躍してるソリストだっているし、CDだって出てるんです。あなたが知らないだけ。あなたが知らないだけで、チューバはいつだって朗々と歌っています。

ぼくたちときみたちの差だ録音は意外と低い音で驚く
ねえ、共感してもらえるかわかんないけど、自分の中では普段の音域でも高いほうだからかなり高い音が出てると思ってるのに、録音で聞くとめっちゃ低くてびっくりすること、あるよね。

きんとした空気を撫でる冬の日は低いピッチをなだめすかした
これ以上管入んないし、あとは吹いてあったまってピッチがあがることを祈るしかない。楽器を支える手がかじかむ。

練習が白熱すれば結局はピッチが上がりまた管を抜く
教室より音楽室があったかいのやめて、ピッチ合わないから。合わせ直しで~す、チューナー見える?持ったげよか?

金色の身体に触れるひんやりと冷えた中身に触れる吐息だ
これはもしかしたら低音に言及無しで合奏終わるかもしれないね。待ってる間に楽器が冷えていくから、音が鳴らないように息だけ吹き込む。

愛すべき重みがあって手のひらの痛みとともに階段をゆく
チューバ吹きは階段を登る。校内でも校外でもえっさほいさと階段を上る。そのうち腕力より先に握力が限界を迎えて、前世の私の悪業のせいでこんな仕打ちを受けているのか?なんて考え始めるが、その重みも含めてチューバなのだ。

「大丈夫?」「手伝いましょうか?」手のひらを振って答える私が運ぶ
お気遣いありがとう。しかし、この重みですら愛おしいのだ。でもちょっとこの右腕のバッグだけ持ってほしいかもしれない。

世界一好きなきみだよ低音でたとえどんなに目立たなくとも
伊達に中高大とチューバを選んできていないのだ。どの楽器より一番きみが好きだよ。

どこまでも頼もしいきみやわらかに積み重なった音の礎
メロディーばっかり注目されがちだけど、低音がいないと薄くて軽くて聞いてて迫力のない音楽になるからね。そこのところ、ちゃんとわかってるでしょうね。

横にして腕をのっけて時々は撫でたりしながらメロディーを聞く。
ね、メロディーが捕まってから何分経った?これいったん教室帰って練習したらだめかな?ていうかここ、そもそもチューバは12小節休みだもんね。楽器下ろしちゃおっか。

たとえ四分音符だけでも輝きを放つチューバの美しいこと
四分音符、上手くなっちゃおっか。スタッカートもレガートも。

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