黒い人

母の話。

何年か前に某番組の怖い話特集を家族で見ながら「お母さんが霊を見る時ってさ、どんな感じに見えてるの?」と聞いてみたことがある。
母曰く、「あんたを産んでから見える時自体にムラが出来たけど、パーツで見えるのと、なんかもやっとした影っていう時がある」「あと、これはほんとにここに居る人かな、でもこんなとこにこんな人が居るのおかしいなぁってくらいはっきり見える『人』もいる。あれ、前の着物の人 みたいな」
ふむふむと前に聞いた話を思い出しながら聞いていたんだけど、最後に「あ、でも1回だけさっきの話に出てきたみたいな真っ黒の人を見たことがある」と。

うちは転勤族なのでいろんな所を何年かごとに転々としている。
これは某港町の高台に住んでいた時の話。
そこは高台で住んでたアパートの裏に、通ってた学校にある裏山につながるほど大きな山があった。
しょっちゅう蛇が道路を横切っていたり、近くに川もないのに大量のトンボが発生したり(一回網を振れば6~8匹は捕まえられる)、裏山から休み時間の時に笹タケノコを採って家に持って帰った、イチイやグミの実を採って食べたりと子供には結構楽しい土地だった。

しかし、山の中には結構切り立った崖もあったし、家の裏のさらに高台の所はなんかコンクリ片とか妙なものが落ちているだだっ広い空き地でその近隣の母親たちは子供の事を心配していたようだった。

ある日、午前中に母が家で掃除機をかけていると、その空き地の方から何かがこちらの方向に飛んでくるような感じがしたそうだ。
凄く重たい怖ろしいものが裏の山から部屋に飛んでくる。
これは、まずい、なんかまずい気がする。出くわしたらまずい。
掃除機を切って、息を詰めてそろりそろりとその「もの」が飛んでくる軌跡から外れるように移動した。

窓から隠れるように退避した後、飛んでくる方向の窓を見ると本当に真っ黒(ブラックホールみたいに光を吸収する物体ってあんな感じなんじゃないかなと言ってた)の人がしゅーっと飛んできた。
母はまるでインクで塗りつぶされたような黒い人なんて肉眼で見たことがなかった(写真は経験があるらしい)から、とてもびっくりしたらしい。
あんなのがうちに来たらどうしよう、自分は払えないし、やだなぁ…と思っていると相手は窓にぶつかりそうになった瞬間消えてしまった。

十分に様子をうかがった後、ベランダに出て窓のあたりを見ても…何もなかった。

その夜。
母と父(零感)が並んで寝ている部屋の窓にそろりそろりとまた同じ気配が近づくのを感じて、母は目が覚めた。
また来た!とビビった母は、何も知りません見えてません感じてませんという風に息を殺して寝たふりをすることにした。
窓をにゅぅっとのぞく気配がして、何分かもしかしたら数秒かでまた忽然と消えたらしい。
父はその間そんな状況だとつゆ知らず、ぐうぐう寝てたそうだ。

「黒い人に目は無いんだけど、もし目が合ってしまったら誰かが連れてかれるんじゃないかってくらいの嫌な威圧感だった。あれは結構ドキドキした、もう会いたくない」

そして、その話を夜に聞いてしまった私は寝る前に、何度も何度も窓と窓の鍵を確認して、いつもは閉めないカーテンをびっちり閉め、布団の中で丸くなって眠くなるまで寒さと怖さに震えることになったとさ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?