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映画時評2022&2023

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2022年10月から2023年12月に劇場公開していた映画の感想記、時評をまとめたものです。
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2023年4月の記事一覧

アメリカン・ニューシネマの復習と『バニシング・ポイント 4Kリマスター版』の感想

『バニシング・ポイント』は1971年のアメリカン・ニューシネマで、50周年らしく4Kリマスター劇場公開ということで、見に行ってきました。 パンフレットの代わりに、アメリカン・ニューシネマの沿革を記す文章と『バニシング・ポイント』の解説がついた冊子が売ってたので、買う。 改めて、ニューシネマとはなんぞやという部分がざっと書かれているので、おすすめ。 ニューシネマのそもそもアメリカン・ニューシネマとは1967の『俺たちに明日はない』を端緒に1974年『ロッキー』公開で完全に

特殊な境遇ではない、隣人の痛み『ザ・ホエール』

生活が困難なレベルの肥満男の最後の五日間。 『ザ・ホエール』はそれを社会問題として、自分たちと関わることのない対岸の光景として描くことはしない。 身近に存在する隣人として描き出すのだ。 チャーリーは温厚で思慮深く、文学や詩に親しむ、教養高い人物です。 決して、七つの大罪にある暴食の罪を犯し、堕落した人物などではなく。 私たちと同じように、食べ、シャワーをあび、歯をみがき、ベッドで眠る。 しかし私たちはそこに驚きを見る。 日常のルーティンもチャーリーの巨体が行うことで、

それは大聖堂にもまして神聖な、ただの公園 『生きる Living』

カズオ・イシグロが黒澤明の『生きる』をリメイクすると聞いて、あまりの納得感に笑ってしまった。 当然だ。 にわかイシグロファンの自分でも、共通するテーマをすぐさま感じてしまう。 『わたしを離さないで』のヘールシャムの孤児たちと『生きる』の渡辺さんは、自分自身の死があらかじめ予告されている。 決定された運命のなかで生きる人々の物語として、通底するものがある。 なので、黒澤明の原作にもかかわらず、イシグロ感がバリバリである。 黒澤明のリメイクを観に行ったというより、カズオ・イ