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映画時評2022&2023

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2022年10月から2023年12月に劇場公開していた映画の感想記、時評をまとめたものです。
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2023年3月の記事一覧

ポップな想像力 『ジャン・コクトー映画祭』 3作品の感想

今回は昔の映画を取り上げます。 ジャン・コクトーの没後60年、回顧上映。 全作初見です。日にちの都合上、『オルフェ』は見に行けなかったよ……。 美女と野獣『美女と野獣』はずっと、エマ・ワトソンが出演している2017年版のイメージでした。 ディズニーは児童文学を映画化することが多いですが、往々にして原作に存在する毒(児童文学には割と残酷なものが多い)が抜かれ、万人向けに調整されたものが多い印象です。 私は『美女と野獣』の原作を知らないのですが、コクトーの『美女と野獣』はデ

虫になってしまった男の孤絶 『シン・仮面ライダー』

リアタイ世代の父は楽しんでいたのですが、私には気になる点がちょこちょこあった映画。 ライダーシリーズのファンではないので、小ネタも拾えず、いまいちツボを外してしまったかも。 『シン・仮面ライダー』は完全オタク向け映画として完成したようだ。 気になった点三つ筋の強引さ 筋の強引さは、冒頭のバイクとトラックのチェイスシーンから。 本郷猛と緑川ルリ子のタンデムが爆発に巻き込まれるも、無傷なまま助かり、そのまま話が進む。 廃屋で緑川博士と落ち合うも、クモオーグに追跡されており

戦え! 全マルチバースのあたし! ニヒリズムをぶっ飛ばせ! 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

アカデミー賞7冠おめでとうエブエブ! SFが作品賞を取るのも珍しい出来事ですね。 私自身文句なしに一位に推したい作品です。 予告を見た限りでは、B級テイスト強めなハチャメチャな作品だと思ってました。 『ディックロングはなぜ死んだのか?』と『スイス・アーミー・マン』の監督、ダニエルズの最新作なので。 前2作はオフビートで、淡々としたところがあったのが、『エブエブ』ではテンポがよく、見せ場のメリハリがしっかりしていて、作風に変化が感じられる。満足感が高いエンタメな方向に。

『フェイブルマンズ』 映画は私を癒さない。

見終わったあとに、上映時間が151分なのに気づいた。 100分くらいかと思った。 それだけ、卓越した編集とストーリーの才が結集しており、円熟の監督の技巧は実に手慣れたものでした。 『フェイブルマンズ』では、映画についての情念もそこそこに、スピルバーグ自身の家族についての物語が中心となっていく。 撮影中監督は、自身が再現したセットの中に、思い出の中の家族の姿を見るようで、涙したらしい。役者の前で本当に泣いたという。 それは本人も語る通り、全く奇妙な現場だったろう。 とう

『ボーンズ・アンド・オール』 骨まで食べた後にそれでも残るもの

食人というモチーフは、日本のアニメでも馴染み深く、『東京喰種』や『鬼滅の刃』など枚挙にいとまが無い。 そんな中で『ボーンズ・アンド・オール』が特徴的だったのは、食人という行為に味覚が結びついていないことだ。 作中の人喰いは、喫緊の上を満たすために人肉を食べることはない。 普通の人間と同じ食事もするし、数年間くらい人肉を食べなくても死んだりとかはしない。 『東京喰種』だと、人喰いのグールとなってしまった主人公は、人間の肉とコーヒー以外、舌が受け付けなくなり、人の肉を食べな

『エンパイア・オブ・ライト』 昼と夜の往還が魂を救い上げていく。

本作の前にデイミアン・チャゼル監督の『バビロン』があり、偶然にも”映画”がテーマの映画が重なる。 ついでに『フェイブルマンズ』もそうだ。 『エンパイア・オブ・ライト』では、「映画への愛」を全面に出した『バビロン』とは違って、監督自身の個人的なエピソードを反映した映画になっています。 単に「映画館が舞台の映画」と呼ぶのがふさわしい気がします。 それくらい両者で手触りが違うもの。 昼(現実)と夜(非日常)を往還するドラマ撮影監督はロジャー・ディーキンス。 人物を、美しい闇