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映画時評2022&2023

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2022年10月から2023年12月に劇場公開していた映画の感想記、時評をまとめたものです。
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2022年12月の記事一覧

フィル・ティペット『マッドゴッド』と『ドロヘドロ』に共通するあの世界観。

フィル・ティペットとは何者なのか。 詳しい人がもうすでに語っていると思うが、一応。 スターウォーズep4で、モンスターチェスの特撮を手掛け、同ep5ではトーン・トーンやAT-ATを動かした男である。 ハリウッドで数々の特撮を手掛けた天才。 しかし、『ジュラシックパーク』で恐竜の特撮を手掛けていたところ、CGに仕事を奪われてしまい、絶望。 その後、1993年『ロボコップ2』の頃から製作していたが凍結してしまった映画『マッドゴッド』を2012年に再始動。30年の時を超えて今

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』 すごい金をかけたキャメロンの箱庭。

『アバター』から13年ぶりのキャメロン監督作にして続編。 3D字幕版で鑑賞してきました。その感想です。 CG映画のトップランナー。本作最大の見どころは、映像技術になるでしょうか。 最先端のメカがふんだんに使われ、CG技術の見本市となっております。 そのことについては、『CINEMORE』の大口孝之さんの記事に極めて詳細にまとめてあったので、そっちをおすすめ。 キャメロンのような監督が、巨額の予算をつぎ込んでこういった技術や手法を開発、実験してくれるのは後発のクリエイターに

『MEN 同じ顔の男たち』全裸男マトリョーシカ

すごくシュールな映画です。 初めはホラーとして恐怖たっぷりに不気味な雰囲気を演出していくのですが、途中からシュールさが恐怖を凌駕する。(監督の意図だけど) この映画のテーマは明示されず、監督自身、解釈の幅を広くとっているようです。ネットの感想を見て回ると、わたしが見落としていた細かい指摘や、解釈が無数にあって面白かったです。 少し長いですが、以下に監督のインタビューを抜粋。 とても重要な部分だと思ったので。 この映画は観客が解釈して初めて完結する、知的なパズルのような映

ダイジン、東京を救う

公開後しばらくたって、おおぜいの人が『すずめの戸締まり』について語っている。今さらわたしが付け足すこともなく、素晴らしい映画だったと思います。 『君の名は』『天気の子』と続く、新海誠メジャー作品の一つの到達点。 前二作では背景にとどまっていた震災というテーマが、本作では全面に出てきて語られる。詩的なモノローグも、MV演出もない大人新海。 いろいろ面白い点があって、何個か気になったところを書いてみます。 ごっつ村上春樹 『すずめの戸締まり』の物語は女子高生の鈴芽が、閉じ

透明な存在。

『Arc アーク』はいちSF好きとして劇場に足を運んで見に行った映画で、素晴らしい映画だったのを覚えている。今回の『ある男』も、石川慶監督の、複雑なテーマをシンプルな娯楽として提示する巧みなセンスに痺れた。 石川慶監督はいつも小説を原作に選び、オリジナルの長編映画は一つもない。そろそろ撮りたいと思っていたそうだが、平野啓一郎先生の『ある男』に出会い、またもや小説を映画にすることに決めたそう。 平野先生の原作を読んだことがないのですが、パンフレットを参考にすると、初期のころ