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昭和31年東濃黒川奇譚夜の賑わい

法被姿の子供連、火の用心の拍子木の音、入口の敷居が高くてお年寄がよく転ぶ、ミント色の洋館「黒川郵便局」吹抜けの二階局長室から降りでござった局長さんも黒い鞄で帰路につく。
その西、街道の三叉路の玉突屋のお洒落な爺ちゃんが、天井から幾つも吊り下げられた黒いシェードの裸電球を灯すと、美しいグリーンの玉突き台が煌々と明るく輝く。木工場や、製材所の勤め帰りの若い衆がBSモータ(後輪直付け単気筒エンジン付き自転車)で乗りつけて活気付く。戦後の住宅景気であったか山奥の村の移動手段の主流として大活躍していたのだ。夕暮れ開店するビリヤード場「ミカド」は村の男たちの溜まり場だった。
 
路の向かいの駄菓子屋「ヤマサ」の角に椅子置いてタバコ呑む、近くの置屋料亭「黒猫」の艶っぽいお姉さんは、それを眺め佇んでいる。ひと突きして負けた衆から一人二人と、街道しもの酒屋「朝日屋」たなに繰り出す。その頃合いになって、村の材木屋「丸八」や「大加木工」の大将方が、散々集まり、酒席を費う。お姉さんたちはその頃になって、向かいの「吾妻屋旅館」の奥座敷に消え、深山の黒川街道もどっぷり暮れる。
やっと街道は涼やかな藍色の闇に包まれ、スマートボール場と床屋の端の、一足も売れない小さな靴屋を閉めた、ため息混じりの女店主もいる。幼な子を連れ向かいの「フジイ自転車店」の裏木戸たたいて、
貰い風呂にいく母であった。
#東濃黒川
#billiards
#大場章三

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