ストリートミュージシャン

「ストリートミュージシャンてかっこええやんか」

「夢追う人って感じでかっこええわな」

「俺ストリートミュージシャンに憧れててさ、最近路上でライブしてんねん」

「へー、ええやん、バンド?」

「いや一人でやらしてもろてるわ」

「一人でかいな、すごいなぁ。何やってるん」

「エアギターや」

「エアギター?」

「ロックやろ」

「いやエアギターだけではロックがどうかはわからんがな、BGMになる曲は何にしてるんや」

「いやアカペラやけど」

「楽器でアカペラ言う奴初めてみたわ、っていうか楽器でもないけどな!言うんやったらソロやろ」

「アカペラのほうが実力がはっきり出るからな」

「エアギターはアカペラいうよりどちらかといえば口パクやん。きっついやろそれ、無音て」

「お前にエアギターの何がわかんねん!」

「びっくりしたぁ、急に声でかいねん」

「わかった、ほな見したるわ」

「見したる、て何をやねん」

「エアギターに決まってるやろ」

「やめとけやめとけ、音もないのにエアギターするて、それもう猛烈にお腹掻いてるだけの人や」

「全然ちゃうわ!」

「いやこうやってお腹の、前で爪立てて、何なら寝転んだりしながら手ぇ上下にするわけやろ」

「まあそうやけど」

「めちゃくちゃお腹が痒い人やんそれ。そんなに痒いんやなあの人、大丈夫かな、なるやつやん」

「ならへんて、ええから見せたるて」

「っていうかそもそも"エアギター見せる"て何?無いやん、エアギターなんて」

「だから、ギターないのにあるみたいにするんがエアギターなんやんか」

「ないのにある、てなぞなぞやんかそんなん」

「シャドーボクシングみたいなもんやんけ」

「ちゃうやろ、シャドーボクシングは、あくまで相手がおらんなりに最大限にできる"練習"やんか、でもお前はギターの練習でエアギターやってるんちゃうんやろ」

「俺はエアギター一本でやってるんや」

「なんやその"一本"て、0本やろ、エアギターなんてないんやから」

「ほなパントマイムや、壁がないのにあるみたいに見せる技術、これはエアギターと同じや」

「パントマイムはパントマイムやん、誰もエア壁とか、鞄のエア重さとか言わんやん、エアギターくんだけやでそんなこと言うてるの。浮いてんねん。葬式にアロハシャツ着て参列してるんや君は。」

「いいすぎやん、単なる呼び方の問題やんか」

「そうかもしらんけど、じゃあエアギターはパントマイムの一種ってことでええんやな」

「そうなるわな」

「そしたらストリートミュージシャンいうより大道芸人やん自分」

「ちゃうわ、エアにしてもギターなんやから、ミュージシャンやて」

「おうおうおう、でもさっきお前、エアギター"見せる"言うたよな」

「やっぱり見たいか」

「いやミュージシャンやったら"見せる"やのうて"聴かせる"やん、大道芸人やて認めてるやん自分で」

「言葉尻を掴むな、言葉界のセクハラやぞ」

「黙っとけ。でもギターメインかと思たけど、メインはお前の動きのほうやん。ミュージシャンちゃうやん。」

「いやダンスグループかてミュージシャン扱いされるやん、音楽に絡んだパフォーマンスやったらミュージシャンやんけ、演奏もなければ口パクのときもあるのにミュージシャン言われてるやんアイツラ」

「アイツラが誰かは知らんし知りたくもないけどやなぁ。……ほな高木ブーはミュージシャンか」

「高木ブー"さん"な、あの人はミュージシャンかつ芸人やろ」

「あの人がウクレレやのうてエアウクレレやっててもミュージシャンか?ちゃうやろ」

「ほなゴールデンボンバーはどうなんねん、楽器なんて誰もひいてへんやん」

「そりゃゴールデンボンバーの皆さんは立派なミュージシャンやんか」

「なんでやねん、楽器関係ないやん」

「歌ってるのはガチやもん」

「ほな歌があったらミュージシャンなんやな」

「そうなるわな」

「ほなお前、ボーカルやってくれや」

「何で俺がやらなあかんねん、路上でエアギターの隣で歌うて、グループやのうて同業他社やんそれ。つながりがわからんねん。むしろお前が邪魔やん」

「ほなエア歌唱でええから、頼むわ」

「エア歌唱て、口パクやん、嫌やわ。というか端から見たら何してるんやろあの人ら、ちょっとおかしいんとちゃうか、てなるやん。なんでプライベートでイロモネア最難関のサイレントやらなあかんねん。賞金もないのに。」

「給料も払うて」

「なんぼやねん」

「エア給料やけどな」

「仮想通貨的なやつか?」

「いや、封筒にエア五千円札入れて渡すけど」

「不払いやないか、絶対払う気ないやん。裁判所で会うことになるぞ」

「エア請求すんなよ」

「エア請求てなんやねん、架空請求みたいに言うな。請求書送りつけたるから覚悟しとけよ」

「エアメールで?」

「やかましわ、いうかエアメールは普通にお前のところに届くわ!エアエアエアエアやかましわ、スマブラのリンクか」

「はぁ、でもやっぱり、俺がストリートミュージシャンになるなんて、机上のエア論なんかなぁ」

「エア論は違うと思うけども。まあそんなに落ち込むなよ、元気出せって」

「元気出るわけないやろ、夢破れたんやから。エア元気しかでえへんわ」

「エア元気ちゃうやろ空元気や」

「お前のせいなんやから慰めろや」

「知らんがなお前が無茶言うてただけなんやから」

「あーあ、お前とはやってられへんわ」

「そんなブー垂れるなよ、でも、今のお前はある意味ミュージシャンやんか」

「どこがやねん」

「ついに音を上げたからな」

「打楽器みたいに叩いてくれたもんなぁ」

「それやと俺がミュージシャンになってまうか、お前楽器やし」

「……まあでも、これで吹っ切れたわ」

「どうした急に」

「たしかに俺はパントマイムやってたんかもしれん」

「だからそう言うてるやん」

「偏見っていう見えへん壁に立ち止まらされてたからな」

「うまいこと言うな、いやうまくもないか」

「勘弁してくれよ、もうええわ」

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