一言大喜利のすすめ

「ボケて」をはじめとして、お題に対して様々な回答があるなか、一般に短い回答がよしとされる傾向があります。

本稿では、なぜ短い回答がよしとされるのか、短い回答をどのようにして作成するか、の二点について解説します。

1.設定としてのお題

大喜利のお題は、回答の背景になる「誰が」や「いつ」、「どこで」などを設定して、残りの部分「なぜ」「何をした」などを問うものです(もちろん設定のディテールを付加して回答することもできますが)。つまり、いわゆる5W1Hの一つまたは複数をお題は設定しているのです。このお題の設定を引き継ぎつつ設定から導かれる予想を裏切る回答が笑いを生むという仕組みで大喜利は成り立ちます。

2.5W1Hゲーム

ところで、みなさんは小学生のころに「5W1Hゲーム」をしたことがあるでしょうか。このゲームは、5W1Hを一人で構成するのではなく、互いに独立した担当を決め、たとえばWhenは高橋くんが、Whatは斎藤さんが他の担当者の回答を知らないままに考え、最後に一文として合体させる、というゲームです。

最終的に「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」「どうして」「何をした」の順に並べ、支離滅裂な文が出来上がるとクラスが盛り上がっていたことを思い出します(大抵「何をした」で「うんこした」を書く奴がおり、それが一番盛り上がりましたが)。

3.5W1Hゲームと大喜利

さて、この5W1Hゲームと大喜利は、もちろん欠けた要素を補う点で同じですが、異なる点もあります。それは、お題には既に出来上がっている設定があり、それは整合性のあるものだということです。

この整合性は、その他の要素を概ね規定し、その内容を予想させる(フリとして機能する)ものです。したがって、その予想をきちんと押さえ、それを裏切る回答(オチ作り)をする必要があります(反対に5W1Hゲームの場合は整合性は一切期待できないので、結果として意味が通ってもフリがないため、オチが「うんこした」などと低レベルなものになりがちなのは仕方ありませんね)。

4.大喜利の余白

この整合性を崩すために最も有力なのが、設定されていない5W1Hを補う方法です(設定の欠落した他の部分、たとえばディテールを補うことは有効ですが、少し上級者向けです)。お題ではノータッチでも予想される設定があり、そこから逸脱した要素を付加してやることで要求を満たす回答が可能です。

その意味で5W1Hゲームの「うんこした」は「どこで」が「トイレで」の場合以外は常に予想外になるため有効といえるでしょうが、大喜利のお題の場合は設定に整合性があるため、より有効な裏切り方を模索すべきでしょう。それを怠ることは、大喜利の醍醐味から逸脱しています。この意味で汎用性のある回答というのは常に低レベルといえます。

大喜利とはいわばミロのヴィーナスで、人間は欠落した腕(設定)を理想的な形で勝手に補足(予想)するのです。我々がすべきことは、その腕にサイコガンをつけてやることなのです(義足でもカジキマグロでも、ヴィーナスの頭でも、何ならそこからさらにミニチュアのミロのヴィーナスを生やしてもよいのですが)。

5.なぜ「一言」なのか

ここまでお読みいただいた方のなかには、「欠落した部分を補うだけなら一言でもそうでなくても同じだろう」と思われる方もいらっしゃると思います。ところが、それは端的に言えば間違いです。

「一言」というのは、言い換えれば、欠落した設定のうち一つか二つだけを明示的に補うことといえます。これに対し、一言でない場合は、三つ以上の設定を補うことを意味します。

回答が一言でない場合、「お題の設定を喰う」おそれがあるのです。つまり、回答を読んでいる、あるいは聞いている最中に回答がお題とは独立した別の設定の世界を予想させてしまい、そのオチが既にその設定下では通常の現象でしかなくなってしまう危険性があるのです。お題の設定(およびそこから予想されるコンテクスト)を意識しているときに、そこから予想外の結末が訪れるから笑えるのであって、お題の設定を退けたり、別の設定により予想を可能にしてしまってはオチがぼやけてしまうのです。

さきほどの例を使うと、ミロのヴィーナスの隣に634mの東京スカイツリーを建ててしまってはヴィーナスがかすみますし、また、生やしたのが「考える人」像であっても同じです。あくまでも「ヴィーナスから生えてくるものであること」を意識してもらわないと、オチとして弱くなってしまいます。

したがって、お題の設定を忘れさせたり、回答の世界観を予想させてしまったりすることで、一言でない回答はオチの爆発力を殺してしまうことが多いのです。これに対し、一言の回答はそのおそれはほとんどなく、また、補った一言もまた世界観を示すため、明示していない設定を聞き手が勝手に予想することでさらなる笑いを生みます。これが、一言の回答がウケやすいメカニズムであるといえます。

6.一言の回答の作り方と注意

「一言がウケやすいのはわかったけど、回答したい内容は一要素では伝わらないよ」という声なき声が聞こえます。もちろん、そんなこともあるでしょう。しかし、一言に収まらない回答と一口に言っても、そのパターンは複数あります。

まず、補いたい要素が多い場合があるでしょう。その場合は、たとえば、省略できる言葉を探してみましょう。プレバトの俳句査定を見たことのある方なら「そうじゃない◯◯があるなら持ってこい!」となっちゃん先生がキレるシーンに見覚えがあるでしょう。あの感覚です。

たとえば、登場人物がお題にある場合、みなさんは主語を省略しますよね。日本語ならではの習慣ですが、所有物の場合であっても「誰の」は書かなくても伝わります。また、「ハチ公」が回答に登場する場合には、それが渋谷だと言う必要はありません。勝手に予想してくれるからです。また、動詞の場合も「ある」などは書く必要がないことが多いです。

行為の客体、はたらきかける相手も書く必要がないケースもあります。登場人物が客体になる場合には、受け身で「~された」「~られた」と書けばわかります。

以上は英作文の感覚で作ると省略できるものがわかりやすいのかな、と思います。

なお、回答内部の文脈から推測できる場合、たとえば、「生前退位取り止め」や「脱獄した」など、一定の地位や状況を前提とする行為などは省略の大チャンスです。

このように、一要素で他の要素をカバーできる場合は、それを省く工夫をしましょう。こうすれば、実は二要素、三要素であってもコンパクトに回答でき、予想されるまえにオチが爆発することが期待できます。

次に、省略できない要素が複数ある場合、具体的にはストーリーを作っている場合ですが、あなたがやっているのは大喜利です。そんなに物語が書きたいなら小説でやりましょう。競技が違います。大喜利ですべきことをしてください。長文の場合はやりたい競技が異なることも多いので、その点には注意してください。せっかくの発想は、それに適したメディアを用いて表現するべきです。良い意味でも悪い意味でも。

7.おわりに

一言の回答の優位および作り方を今回は紹介いたしましたが、作り方に関しましては、音感のような感覚を養うことが重要です。「こうきたらこうだろう」というような感覚を意識することで、回答の際にも必要最小限の言葉で表現できるようになります(もちろん私がそれを常にできているといえば嘘になりますが)。

一つの文を品詞分解し、そのつながりを意識することで「予想のさせ方」も身に付きます。大喜利の回答は「オチ」を作ることを目的とするものですが、会話などにはフリを作る能力も重要です。「この言葉はこれにしか結び付かないな!」である(「ちゃきちゃきの」は江戸っ子で「どんぶらこと流れてくる」のは桃です)とか、「この言葉はこの言葉にかかることはないな!」(「熱血教師」はおそらく体育教師であって、教頭や家庭科の先生は熱血ではありません。また、「むかしむかし」ときたら六本木の話にはなりません。嘘です。バイアスです。しかしこのバイアスはフリとして利用できます)などの発見が、あなたの人生を笑顔で満たすものになると信じています。

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