大喜利お題パターン

 今日、Twitter上では様々なアカウントが大喜利のお題を提示し、参加者を募っています。そんななかで、「どのお題に挑戦したらよいのだろうか……」と途方にくれる方もおられるでしょう。そこで本稿では、典型的なお題のパターンを紹介し、それぞれの特徴を説明いたします。
 本稿で典型的なお題がいかなるものかを知り、そのうえでまずは典型的なお題に挑戦し、物足りなくなったら応用的なお題に挑戦してみましょう。
 なお、本稿ではお題の要求を分析することを主眼に置くため、作成する回答は極力シンプルにしています。すなわち、回答例はおもしろさではなく、お題の要求への対応のわかりやすさを基準に選んでいます。また、宣伝ですが、私は回答のパターンについてもnoteで発表しているので、よければご一読ください。2019年10月8日時点では無料です。

0.総論
 お題は、お題設定者の要求を示すものです。よって、回答はその要求を満たすもの、要求以上のものでなければなりません。以下ではお題形式ごとの具体例、要求、アプローチを分析します。

1.空欄補充型
 (お題の例)
「だって、涙が出ちゃう。◯◯だもん」の◯◯を埋めてください。

 (要求)
 最もポピュラーな形式のひとつに、この空欄補充問題があります。ただし、マンガの吹き出しを埋める、ボケてタイプのお題は「写真で一言」に分類するためここには含みません。この形式における要求は、「空欄を埋める本来の言葉とは別の言葉を入れてギャップを生め」ということです。当たり前だと感じるかもしれませんが、そのアプローチにはバリエーションがあります。

 (アプローチ)
 そのギャップを生むには言葉の意味に依存することはもちろんですが、その際に着目するスケールによって回答は異なります。すなわち、単語、文、文脈のどのスケールに対してギャップのある言葉を入れるか選択する必要があるのです。たとえば、単語なら対義語、文なら文の外にある要素の付加による文意の逆転・変化、文脈なら元ネタの改変によって回答を作成することができます。
 なお、文と文脈の区別としては、お題が提示する文などの「元ネタ」から独立しているものを文スケールの着目、従属するものを文脈スケールの着目とします。「元ネタ」を知らないような場合には文脈スケールの着目による回答は不可能になるわけです(結果的に文スケールで考えた回答が文脈スケールによるものと同じになる場合はありますが)。

 (アプローチの具体例)
 例に挙げたお題の文の「元ネタ」は「アタックナンバーワン」というバレーボールのアニメのオープニングの歌詞です。そして、本来◯◯には「女の子」という言葉が入ります。
周辺部分の歌詞等も含めて概説すると、「バレーボールのコートのなかでは決して泣かないと決意した10代の女の子が、思わず涙を流してしまうほど厳しい練習、試合に立ち向かっていく」的なやつです、たぶん(性差別の意図はなく、ここで扱うこともか適切でないとはいえない、と判断しました)。
 さて、以上を踏まえて各スケールに着目して回答を考えてみると、単語レベルならば「女の子」の対義語である「男の子」「中年男性」などがあるでしょう。文レベルなら空欄部分以外にも着目して、たとえば泣くことが単なるあるあるになるよう「花粉症」「親知らず抜いたん」などでしょうか(これはいわゆる「普通の回答」でおもしろさは不十分になることが多いのですが、空欄補充型であれば元の文とのギャップが生まれやすく、一応大喜利の回答としてもよいでしょう)。文脈レベルだと、「30代女子」「四十肩」あたりが簡単に出てきますね。

2.新要素付加型(既存要素変更型含む)
 (お題の例)
ダイソンの掃除機の新しい機能を教えてください

 (要求)
 新要素付加型のお題も頻繁に用いられるお題です。既存のものに、新要素を付け足すことで既存のものを未知なものに転化することが求められるのがこの形式です。

 (アプローチ)
 既存のもののもつ性質、イメージをガラッと変えるためには、その性質に反する要素やイメージからかけはなれた要素、または性質の程度を極端にする要素などを付加しなければなりません。

 (アプローチの具体例)
 お題の例についてアプローチしてみましょう。ダイソンのイメージは、もちろん「吸引力の変わらないただひとつの掃除機」でしょう。これに反した、不調という要素を付加して「むせることもある」など考えられるでしょうか。ここからストーリーを追加すると、「ちぢれ毛吸うとむせる」などに進展させられます。また、あるあるで攻めると「噂されるとクシャミする」なんかも考えられますね。また、極端にして「吸引力が変えられない」から、「満月の夜には、電源に刺してないのに勝手に吸引力が……」逆に「吸引力の調整ができるようになりました!」など様々な回答ができますね。

3.ストーリー要求型
 (お題の例)
正義の味方「のぶおマン」のカラータイマーがいきなり点滅!何があった?

 (要求)
 何、どのような、なぜ、といった形式で問われるお題です。このお題の要求は、「お題が切り取ったワンシーンの前後を補い物語を作る」ことです。

 (アプローチ)
 ストーリー性を付与することが重要で、回答の内容自体が独立しておもしろいことよりも、むしろ回答とお題から何らかの物語を示唆するようなものが望ましいでしょう。すなわち、お題のワンシーンに至る意外性のあるきっかけや、ワンシーンのあとに起こることを付加すればよいわけです。

 (アプローチの具体例)
 お題の例にアプローチしてみましょう。きっかけを考えるなら、普通はピンチにカラータイマーが鳴ることから具体的なピンチを回答とふればよいでしょう。たとえば、「(「腹痛」を少し表現を変えて)下り竜がきた」「夏休み明けに周りが身に覚えのない宿題の話してた」「血圧130超えた」などでしょうか。また、登場人物の意図もきっかけになりますから「渡るなら今のうち」「アイシテルのサイン」「かまってほしいだけ」なども考えられますね。その後について考えると、「そろそろくもん行く時間」「特になにもない」「しげるマンから留守電入ってた」などが考えられます。

4.写真で一言型(マンガの台詞補充含む)
 (お題の例)
 写真の貼り方がわからないので割愛します。

 (要求およびアプローチ)
 写真で一言は、写真のなかにあるものに着目し、その状況がいかなるものであるか説明することを要求するものです。単なる説明ではなく、先述した「ストーリー要求型」と同じアプローチをすることになります。ただし、俯瞰したツッコミを要求するケースや、マンガのように既にストーリーがあるケースでは、ストーリー要求型に対するアプローチを適用できないケースがあります。これらの場合、利用可能な他のアプローチを用いることになりますが、バリエーションが豊富なため、一般化は筆者にはできません。したがって最も応用的なお題であるといえるでしょう。

5.語呂合わせ・リズム型
 (お題の例)
「くもん行くもん♪」のメロディに乗せて何か言ってください

 (要求)
 要求は「文字制限の下でなんでもいいからおもしろいことを言え」というものです。元ネタを利用しようがしまいが、それは問われていないと考えるべきでしょう。空欄補充型との違いは、回答が部分ではなく全体であることであり、文脈からの制約が弱いことが挙げられるでしょう。空欄補充のアプローチの適用は可能ですが、メロディ型特有のアプローチも存在します。以下ではその固有のアプローチについて説明します。

 (アプローチ)
 メロディがあることは、文字制限を回答者に課す一方で、回答の観客に対する訴求力を強めてくれます。形式的な制約はあるものの、実質的なアドバンテージがあるわけですから、それを利用すべきでしょう。普通の口調では言いにくいことや、伝えても意味のないナンセンスなことなどは、「メロディ型という伝わりやすい舞台」でそれをするからこそ常識とのギャップが生まれるはずです。

 (アプローチの具体例)
 言いにくいことを言うパターンだと、「カラダ目当て♪」「興味本意♪」なんかでしょうか。ナンセンスパターンだと「走るジジイ♪」「左のヒジ♪」なんかでしょうか。おもしろくないと思うかもしれませんが、あくまでもアプローチの紹介なので回答のおもしろさは関係ありません(必死)。こんな回答でもメロディにのせれば一応回答として成立する余地があるからメロディ型は不思議ということをわかっていただきたい。もちろんそのなかでも優劣はありますが。
 なお、無理矢理文字数を詰めこんでメロディに乗せる、というのは本来邪道です。あれは、必死になっている回答者その人の様子でおもしろく感じるという側面があり、おもしろさが回答そのもののおもしろさではないため、ここでは扱いません。そもそも、要求に応えていないわけですから、禁じ手の回答といえます。

6.おわりに(弁明)
 以上で本稿におけるお題分析は終わりますが、本稿では主としてお題の形式に着目して分析を進めたため、実質的にはアプローチが重複する場合、要求が類似する場合について十分に検討ができていません。お題に対する具体的なアプローチは、形式ごとに排反なものではなく、したがって読者諸君がどのようにアプローチするかを規律するものではありえません。ただし、お題の要求は、結局形式から読み取るほかなく、形式から同定した要求にアプローチする、という運動は普遍です。そして、形式から読み取った要求に応える際、特に有効であろうと考えられるアプローチを本稿で紹介いたしました。読者諸君が本稿をはじめの足掛かりとして、大喜利に能動的な参加ができるようになれば幸いです。

 (以下、愚痴です。読まなくても全く不利益はないと思いますが、お読みいただいたうえでSNS上の大喜利のありうべき姿についてお考えがあればコメント等で教えてくださればありがたいです。)
 今まで発表してきたnoteでも散々愚痴を書いてきましたが、Twitter上の大喜利的な企画・アカウントでレベルの低いものがあまりに多いと思います。大型化・有名化するためには「入り口」を大きくすること、具体的にはド素人を適当に持ち上げておくことが必要なのでしょう。
 参加者の増加を望むことは悪、といっているわけではありません。参加者が増え、そこで切磋琢磨して全体のレベルが向上するならば、大喜利の本筋と大型化は両立するでしょうし、私はそれは理想的だと思います。しかし、大型化のみを追及するならば、それは大喜利にただ乗り、否、大喜利に寄生しているだけでしょう。
 大喜利の本旨は、回答者は「おもしろく回答すること」を目指すこと、回答を見る者は「笑えるかどうか」を基本とすることでしょう。
 したがって、大喜利の回答者は、ありきたりな回答はしてはならず、選者(がいる場合)は、そんな回答を優秀とするべきではない。
 参加者が増え、その分異なる視点からのおもしろさを「発見」することができ、それができたときに限り、大喜利の、いわば「民主化」と「質の向上」が両立していると考えられます。
 もしもありきたりな回答を是とすると、大喜利が「ありきたりな回答を書く早さの競技」に堕落し、回答者はそのレースの参加者にすぎなくなるわけです。
 そんな「衆愚化」を防ぐために「選者」がいるのではないのか。「誰もが参加できること」と「回答間に優劣をつけること」は全く矛盾しない。だから選者を名乗る以上、粛々と「笑えるかどうか」を基準に優劣をつけるべきでしょう。
 また、ありきたりな回答を他の回答に優るとする選者は不要である。典型的な回答や陳腐な回答を、募集によって寄せられた回答のなかからわざわざそれらを選ぼうとするのであれば、はじめから募集しなければよい。既に知っていることなのだから。もしも他の回答が、壊滅的におもしろくないならば、「該当者なし」とするべきだろう。
 他方、回答者は回答者で、ありきたりな回答をするべきではない。募集者がすでに知っているものを、なぜわざわざ書くのか。どこかで見たことのある回答を、なぜわざわざ書くのか。どうして自分自身で思考し、発想し、推敲したものを送ろうとしないのか。
 このように、選者、回答者ともに大喜利の本旨から外れ、相互に悪影響を及ぼし合い、レベルの低い回答をのさばらせるのである。
 なお、この一連の批判に対して、「ありきたりでも笑えればいいじゃん」「おもしろさは人それぞれなのでは?そうだとすると、お前がおもしろく感じないからって批判できないのでは?」「お前の回答例おもんないぞ」などと反応する方がいるかもしれません。ひとつめに対しては、「個人の笑いではその通りだが、選者としてその優劣を公表する以上は、衆愚化を防ぐために特別な配慮が必要となる。すなわち、ありきたりな回答をしたり、優秀としたりすべきでない」と、ふたつめに対しては、「ありきたりな回答をすることやそれを優れているとするのは、人それぞれである笑いというものの多様性をガン無視どころか抑圧してるからあかんて言うてるんやで、同じ意見なのかもねボクたち」とお返しします。みっつめは黙殺します。

幸せな少数者に捧ぐ 省三

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