とある思い出とそれ。
読んでいて
だから?とか、で?とか、
別に著す必要なくない?とか、
思うかも知れませんが、
先にことわっておきます。
これは僕のエゴによって著されたものです。
不快に思われた方がいたら先に謝っておきます。申し訳ございません。
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中学三年生の合唱コンクール
三年生だけは地元の大きなイベントホールを借りて行っていた。
クラスでの歌唱
遠足、球技大会、体育大会などの
行事の大トリ
中学三年間で卒業前の最期の行事
どのクラスも自ずと熱量が入る訳で
放課後も練習する毎日
受験勉強が....
と憂いを浮かばす人も歌は歌っていた。
一度、テクニカル的なチェックも込みで、
そのイベントホールでリハーサルをやる。
僕らのクラスは圧倒的だった。
その段階から僕らのクラスは6組だったんだが、「6組すげえな」って言われて、嬉しかった。
その後の練習もより一層熱が入った。
さて、本番。1階席前方には、同級生が
クラス毎に座っていて、
1階席後方と2階席には保護者が腰掛けていた。
リハーサルとは違った高揚感と緊張感、
袖中で舞台上から零れてくる明かりからも伺える強ばった表情を浮かべる人に深呼吸を促す。
練習のしすぎだったのか、声を枯らしたり、鼻声だったり体調不良の人が多かった。
だけど
ヤンキーのあの子はちゃんとボタンを止めていて、それが当たり前なんだけど、それになんか感動したり、大人しいあの子がギリギリまで歌の練習をしたり、いつも汗をかく彼はいつも通り額に汗を滲ませていて、それが可笑しくて張り詰めていた緊張が解れたりしていた。
舞台上に予め整列していた順に入場する。
ピアノの伴奏も指揮もみんなクラスメイト
客席から担任の先生の甲高い声の激励を
肌から浴びてみんなの感情がマックスになったのを感じた。
薄暗い舞台上で組んだ円陣。
その中心には僕が居た、なんて言葉をかけたのか覚えていないがみんなの声がとても頼もしかった。
最後列の真ん中に僕はいた。
その前に彼は居た。
小学、中学と同じ学校の男の子
汗をよくかく彼だ。
今は互いに21才なのだから
男性と表記する方が良いのかも知れないが、
中学卒業以降、会っていない彼は
僕の中では15才のままなのだ。
彼は最初の練習の時に大きな声を出して歌っていたが、とてつもなく音痴だった。
ヤンキーに「お前音痴やから歌うな」と
キツめに言われてからは、
大きな声で歌うことはなかった。
心の中で安心していた。
なのに、本番が始まると
僕の目の前で大きな声を出している彼がいた。
本番の時だけ、大きな声で歌ったのだ。
皆が練習から築き上げてきたものを、
ぐしゃぐしゃにしたのだ。
本番終了後に起こった拍手のなか、担任の先生が何か言ってくれたが、出来栄えはそれすらも恥ずかしくなるほどのものだった。
リハーサルでは圧倒的だった僕らが銅賞すら貰えなかった。
体調不良の続出というのもあったが、もっともその原因と決めやすく、受け皿となりやすかったのが彼だった。
直接は責めないものの、みんな彼が原因で賞を取れなかったと思っていた。思っていたと言うよりそう思いたかったのかもしれない。
だけど歌唱中、恐らく僕だけが見えていた彼の
制服に大きな汗の跡が着いていたあの背中と
小刻みに震えていた手が
やけに印象に残っていて、僕も責めたものの
後ろめたさがあった。
それが、僕が彼のことで覚えている最期の記憶だった。
さっきも書いたが、卒業以来彼とは一度も会ってない。
今思うに、彼は皆の体調不良や緊張を察して
優しさから大きな声で歌を歌ったのだと思う。
あくまでも結果論と推測だが。
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そんな彼が先日、亡くなったらしい。
中学時からの仲の良い友だちで構成されたグループLINEにそのことがきた。
彼が亡くなったと。
死因などの詳しいことはわからないが、
13人も居るグループLINEでそれが上がった。
彼の存在はみんな知っている。
そのグループLINEには小学生の時、彼をいじめていた人も居るし(問題となり謝罪もしていたが、多分許されていなかったと思う)、僕みたく同じクラスになった人もいるが、
僕含め、その事について言葉を交わしたのが
4,5回程度。
そんなものなのか、と思ってしまった。
遠い関係ではあれども、身近に居た存在。
別に形になったものが全てではないし、各々思っていることがあって形にしていないだけだとは思うが、寂しく思えて仕方がなかった。
だから、エゴでもなんでもいいからこのことを形として著したくなったんだ。
別に仲良くなかった彼。
当時、僕のことが嫌いだった彼。
多分、卒業以来僕のことを一度も思い出さなかったであろう彼。
太った身体だったけど、空手を習っていた彼。
大人しい子だったけど
ヤンキーと仲良かった彼。
親に作ってもらったお弁当と購買で買ったパンを美味しそうに平らげる彼。
ドッヂボールですぐに当たる彼。
音痴の彼。それを恥じない彼。
制服に跡がつくくらい汗をかいていた彼。
手を震わせていた彼。優しかった彼。
そんな彼が亡くなった。
21才という若さで。
ご冥福をお祈りします。
「死」というものが、寂しいことだとは知っていたけど、これだけの記憶を想起させてくれるものだとは思いもよらなかった。